松茸水晶(ブラジル産)
【松茸水晶】標本の横幅:12.0cm/ブラジル・ミナスジェライス州 セラネグラ産/個人蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

松茸のような、シメジのような……

まるでキノコのように見えますが、これも石です。石といっても「キノコの化石」というわけではなく、水晶の一種。

このような水晶は、日本では「松茸水晶(まつたけすいしょう)」という変種名で呼ばれています。確かに松茸にも見えますが、上の写真のように寄り集まってかたまりになっていると、松茸というより、むしろシメジに見えますね。

こんな水晶を山で見つけたら、とても石だとは思えないのですが、よく見るとキノコと明らかに違う点があります。それは、先が尖っていること。キノコの頭は丸いので、このとんがりが、水晶であることをはっきりと主張しています。

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分かれているように見えるけど、ひとつの結晶

アメシスト(ブラジル産)
【松茸水晶】頭の部分がアメシスト(紫水晶)でできているもの。標本の長さ:17.4cm/ブラジル産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

「松茸水晶」を松茸らしく見せているのは、形と色です。

普通の水晶は、六角形の柱がまっすぐに伸びたような形をしていて、先端が尖っているのですが、松茸水晶の場合、頭の部分だけが柱よりも明らかに太くなっています。その上、柱の部分は白っぽいのに、頭の部分は黒っぽい茶色(冒頭の写真)。

このはっきりとした色分けがなければ、ここまでキノコそっくりには見えなかったでしょう。

ところで、これら一本一本の「キノコ」は、ひとつの結晶でできています。柱の部分と頭の部分に分かれて、2つの結晶がくっついているわけではありません。

水晶の結晶は、最初にできた小さな柱が、徐々に長く太くなるように成長していきます。地下水に溶け込んだ水晶の成分が、柱の先端やまわりにくっつくことで、だんだんと大きくなるわけですね。

成長の途中で地下水の温度や成分が変化した

松茸水晶(マダガスカル産)
【松茸水晶】透明度の高いもの。標本の長さ:5.0cm/マダガスカル・アンディラムナ産/著者所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

細くて長い水晶になるか、太くて短い水晶になるかは、地下水の温度や成分によって変わってきます。同様に、水晶の色がどんな色になるかも、おもに地下水の成分によって決まります。

つまり、キノコ形で、2色に色分けされた水晶ができるには、結晶の成長の途中で、地下水の温度や成分が大きく変化する必要があるのです。

例えば、水晶が成長している場所(地下水で満たされた地下の空洞)に、別の熱い地下水が急に流れ込んできたのかもしれません。あるいは、地下水の温度が下がりすぎるか、水が枯れるかして、水晶の成長が途中でいったん止まったのかもしれません。その後、新たな熱い地下水が流れ込んできて、再び成長し始めたというわけです。

いずれにしても、「第2世代」がキノコの頭の部分になります。

なお、「松茸水晶」と呼ばれる水晶には、水晶らしい透明な結晶もあります。松茸水晶のことを英語では「セプタークォーツ」といいますが、セプターとは、先端に丸い飾りのついた王笏(おうしゃく、王様が持つ杖)のこと。透明な松茸水晶は、確かに王笏のイメージにぴったりですね。

鉱物の解説:石英(せきえい)[水晶(すいしょう)]

水晶(富山県産)
【石英(水晶)】左端の標本の長さ:8.0cm/富山県 富山市 有峰 黒岳産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

無色透明の水晶や紫色のアメシストと同じく、松茸水晶も、鉱物としては石英です。冒頭の写真のような不透明な松茸水晶には、「水晶」という名前から連想される美しいガラス光沢はありませんが、「透明だから水晶」というわけではありません。石英のうち、結晶の形がはっきりと見られるものを「〇〇水晶」と呼んでいます。

「石英」という鉱物名(鉱物種につけられた名前)に対し、「水晶」「アメシスト(紫水晶)」「松茸水晶」などの別名は、「変種名」と呼ばれます。基本的に鉱物名は、ある決まった成分と原子の並び方に対してつけられますが、変種名は、おもに色や形など、見た目の特徴に対してつけられます。変種名が違っていても、同じ鉱物名なら、鉱物としての本質的な違いはありません。

鉱物データ「クォーツ(石英)」
クォーツ(石英)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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