表面のツルツル感と、半透明の黄緑色
淡い黄緑色の丸いかたまりが、何となくマスカットのようですね。丸いかたまりで見つかる鉱物は他にも結構ありますが、表面の凸凹が少なく、半透明の黄緑色で、ここまでマスカットらしく見える鉱物は、葡萄石(ぶどうせき)だけです。
日本で採れる葡萄石は、青っぽい灰色や、無色透明に近いものばかりなので、色はそこまでマスカットに似ていません。日本語の鉱物名である「葡萄石」は、丸いかたまりが何個も集まって、ブドウの房のように見えることから名づけられたそうです。
学名は「プレーナイト」。オランダのヘンドリク・フォン・プレーン大佐に由来します。
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わずかに含まれる鉄が黄緑色の原因
学名「プレーナイト」の由来になったプレーン大佐は、南アフリカの喜望峰で、世界で初めて葡萄石を発見した人物とされています。今から250年ほど前の、1774年のことです。彼は、当時オランダの植民地であった喜望峰の一帯で働く軍人でありながら、博物学者でもあり、多くの鉱物を集めていました。葡萄石を最初にヨーロッパに持ち込んだのも、このプレーン大佐だそうです。
葡萄石のモース硬度はまずまずの高さ(6〜6 ½)で、半透明ながら色合いが美しいために、カットされて宝石に利用されることもあります。学名の「プレーナイト」は、宝石名としても使われています。
なお、葡萄石の本来の色は、無色透明です。マスカットのような淡い黄緑色になるのは、不純成分として含まれる鉄が原因。葡萄石のおもな成分のひとつであるアルミニウムが、部分的に鉄と入れ替わることで、少しだけ鉄が含まれて緑色を帯びるのです。
丸いかたまりは小さな結晶の集合体
葡萄石の丸いかたまりは、ひとつの結晶ではありません。うすい板のような小さな結晶がたくさん集まり、ボールのような丸い形(球状)の集合体を作っているのです。ひとつひとつの結晶の大きさは集合体ごとに異なりますが、結晶が粗いものだと、丸くなった表面に鱗(うろこ)のような模様や、ざらめ(ザラザラした砂糖)をまぶしたような凸凹が見られます。
そして、球状のかたまりがたくさん連なることで、「葡萄石」の由来になったブドウの房のような集合体ができあがります。
葡萄石ができる場所は、おもに火成岩や変成岩の中です。
例えば、火成岩のひとつに、「玄武岩(げんぶがん)」と呼ばれる黒っぽい溶岩があります。こうした岩石の割れ目の中に、地下から上がってきた熱い地下水が入り込むと、割れ目の壁の表面に葡萄石の丸い集合体が少しずつできていきます。熱い地下水に溶けていた葡萄石の成分が、温度が下がることによって溶けきれなくなり、結晶として現れるというわけです。
鉱物の解説:葡萄石(ぶどうせき)
おもな成分は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、酸素(O)、水素(H)です。ケイ素と酸素からなるケイ酸イオンをおもな成分とする鉱物なので、「ケイ酸塩」に分類されます。
その中でも、葡萄石はケイ酸イオンが平面的にたくさんつながった構造をしていて、結晶全体では、それらが何枚も積み重なった形になっています。ちょうど、葉っぱを何枚も重ねたような格好ですね。
このような、葉っぱのような構造を持つケイ酸塩は、特に「フィロケイ酸塩」と呼ばれています。「フィロ」はギリシャ語で「葉っぱ」の意味。
ケイ酸塩には、フィロケイ酸塩のほかに、「ネソケイ酸塩」や「テクトケイ酸塩」などがあります。
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