鉱物の特徴、ぜんぶ当てはまっている
氷も、実は鉱物の一種。ぜんぜん鉱物だと思われていないのですが、よくよく考えると鉱物の特徴をすべて満たしているのです。
鉱物とは、「自然界にある固体の物質で、地質作用によって作られたもの」です。「国際鉱物学連合」という各国の鉱物学会の集まりで、このように取り決められました。鉱物を分類するには、鉱物とそれ以外のものを明確に分けなければならないので、この取り決めはとても大事です。
冬に水たまりにできる氷、雪や雹(ひょう)、氷柱(つらら)や霜柱(しもばしら)などは、確かに「自然界にある固体の物質」ですね。
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温度低下は岩石を作る働きそのもの
では、「地質作用によって作られた」についてはどうでしょうか。
「地質作用」が具体的に何であるかは、けっこう複雑です。簡単にまとめると、岩石を作ったり、変化させたり、壊したりする働きのこと。
さて、氷が自然界でどうやってできるかというと、気温の低下によって、空気中の水蒸気が凍ったり、あるいは、川や海の水が凍ったりすることでできます。つまり、氷は「温度低下」でできるわけです。そして温度低下は、まさに岩石を作る働きそのもの。
例えば、マグマの温度が下がると岩石ができ、その岩石は鉱物の集まりでできています。マグマの温度低下によってできたこれらの物質が鉱物であることを、誰も疑いません。
また、マグマに熱された高温の地下水が岩石の成分を溶かし込み、その地下水が、岩石の割れ目を伝って地表の近くに移動すると、そこで温度が下がって、割れ目の中に多くの鉱物ができてきます。こうやってできた物質も、文句なしに鉱物ですね。
寒い地方では水より氷が当たり前
このように、温度低下は岩石を作る重要な働きであり、地質作用の一つなのですから、温度低下によってできた自然界の固体は、完全に鉱物の特徴を満たしているわけです。それならば、同じく温度低下によってできる氷も、鉱物と言っていいはずですね。
もちろん、氷の場合、普段は固体ではなく、液体の水として存在しているので、水晶などのほかの鉱物とは違うように感じます。放っておいたら、簡単に溶けてしまうわけですし。
でも、ちょっと見方を変えてみましょう。水が氷になるのは、およそ0℃です。0℃って、地球全体で見れば、そこまで低い温度ではありません。日本では水として存在するのが普通でも、南極やシベリアなど、もっと寒い地方では、むしろ氷として存在する方が普通なのです。
南極大陸は、少なくとも1500万年もの間、ずっと氷に覆われたままだそうです。そんな世界では、氷が鉱物であることを、もっと当たり前に感じられるかもしれませんね。
鉱物の解説:氷(こおり)
氷の学名は「アイス」。温度低下も地質作用の一つなので、氷も鉱物に分類されます。
鉱物の中で、成分と原子の並び方がはっきりと決まっているものは、特に「鉱物種」と呼ばれます。実は、学名(国際鉱物学連合によって認められたアルファベット表記の鉱物名)がついているのは、鉱物種だけ。つまり、「アイス」という学名を持つ氷は、鉱物であることはもちろん、その中の「鉱物種」でもあるということです。
自然界でできる氷には、例えば、雪の結晶、雹(ひょう)、氷柱(つらら)、霜柱(しもばしら)、水たまりや湖の氷、氷河、永久凍土などがあります。当然ながら、冷凍庫の氷は鉱物ではありません。
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