口に入れると危険
名前に「毒」の字が入っていて、明らかに危険そうな鉱物ですね。
毒重土石(どくじゅうどせき)の「重土」は、バリウムのことです。バリウムは原子番号56の元素で、周期表の2列目に入るグループ(アルカリ土類金属)の中では、密度が大きく「重い」元素です。そのため、鉱物名などではバリウムを表す漢字として、「重土」や「重」が使われます。後で紹介する「重晶石(じゅうしょうせき)」もその一つ。
毒重土石は、手で触ったり匂いを嗅いだりするくらいなら問題ありませんが、もし口に入れてしまうと、胃の中で溶けてバリウムがイオンとなり、体内に吸収されて毒性が現れてしまうため、とても危険です。
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胃酸との出会いが悲劇を起こす
毒重土石は、物質名でいうと「炭酸バリウム」です。バリウム、炭素、酸素でできています。炭酸バリウムは水に溶けにくいバリウム化合物なので、水に入れてもほとんどイオンになりません。
しかし、炭酸バリウムがひとたび胃の中に入ると、胃の中には胃酸があるため、胃酸によって溶けて、イオンになるのです。つまり、炭酸バリウム(毒重土石)が私たちにとって毒になるかどうかの鍵をにぎるのは、胃酸だということです。
実は、胃酸の正体は「塩酸」。理科の実験で金属を溶かしたりする、あの薬品ですね。炭酸バリウム(毒重土石)と塩酸が胃の中で化学反応を起こすことで、バリウムがイオンになるというわけです。
多量のバリウムが体内に取り込まれると、胃腸炎、不整脈、呼吸困難、麻痺などの深刻な症状が現れます。
硫酸バリウムの「重晶石」は、飲んでも平気
毒重土石と同じくバリウムをおもな成分とする鉱物に、「重晶石(じゅうしょうせき)」があります。バリウム、硫黄、酸素でできていて、物質名は「硫酸バリウム」。
炭酸バリウムの毒重土石が胃の中で毒になることを考えると、硫酸バリウムの重晶石も、あまり口に入れたくないかもしれません。
でも、重晶石や、人工的に作られた硫酸バリウムの粉は、実はある液体に混ぜて、けっこうごくごく飲まれているのです。その液体とは、胃のレントゲン検査のときに飲む「バリウム」。特に病気がなければ、40歳くらいになるまでバリウムを飲むことはありませんが、名前は聞いたことがあると思います。トロッとした白い液体で、検査のときには、紙コップ1杯ほどの量を飲みます。
重晶石(硫酸バリウム)は水に溶けません。そして、このように飲めるのは、毒重土石(炭酸バリウム)と違って、胃の中の塩酸でも溶けないからです。そのため、バリウムがイオンとなって体内に吸収されることはなく、飲んでも危険はありません。
鉱物の解説:毒重土石(どくじゅうどせき)
日本語の鉱物名においては、しばしば含まれる元素の種類を漢字で書き表すことがあり、「重土」あるいは「重」はバリウム(Ba)を意味します。
ただし、「重」という漢字には2通りの意味があり、例えば灰重石のように「重石」と書くときには、タングステン(W)をおもな成分とする鉱物であることを表します。タングステンは、非常に重い金属として有名です。
毒重土石は、水にはほとんど溶けませんが、胃酸の成分である塩酸には溶けて、体内に吸収され毒として作用します。多量のバリウムは呼吸困難や麻痺などを引き起こすことがあり、とても危険です。
真珠を作っている炭酸カルシウムの結晶(鉱物名としては「霰石(あられいし)」)と毒重土石は、原子の並び方が同じで、成分だけ異なります。
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