スコレス沸石(インド産)
【スコレス沸石】白い球状集合体の横幅:11.2cm/インド産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

繊細なガラス細工のように美しい鉱物

細長い結晶が丸い形にびっしりと集まっていて、その姿はトゲトゲのウニや、栗のイガを連想させます。色が白いので、さすがに間違えることはないのですが、鉱物の形としてはとても変わっていますね。名前は「スコレス沸石(すこれすふっせき)」といいます。

結晶の一本一本は、よく見ると平らな細い板のようになっていて、それほど鋭さは感じられません。これなら触っても大丈夫そうですが、破片が手に刺さらないよう注意が必要です。

写真のスコレス沸石は、横幅が10cm以上もあります。結晶は透明で、集まった姿は繊細なガラス細工のように美しく、そのままインテリアになりそうです。

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加熱するとブクブクと泡が出る

スコレス沸石(インド産)
【スコレス沸石(拡大)】写真の横幅:約4cm/インド産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

スコレス沸石は、「沸石(ふっせき)」と呼ばれる「科(ファミリー)」の一員です。スコレス沸石だけでなく、成分や原子の並び方が近い中沸石(ちゅうふっせき)やソーダ沸石も、同じようなトゲトゲの姿をしています。

「沸石」の特徴は、結晶の中に水分子を含んでいることです。そのため、アルコールランプの炎に近づけるなどして急に加熱すると、結晶の中の水分子が追い出されて、結晶の表面から液体の水が泡立ちながら浸み出してきます。その様子が沸騰に似ていることから、「沸石」と名づけられました。沸石の英語名「ゼオライト」も、「沸騰する石」という意味のギリシャ語に由来します。

一方、スコレス沸石の「スコレス」は、「ぜん虫」(ミミズのようにうねる細長い虫)を意味するギリシャ語「スコーリクス」が元になっています。ガスバーナーなどを使って、スコレス沸石の結晶に炎を直接吹きつけて強く熱すると、細長い結晶がミミズのように曲がりくねるそうです。

「硬」いけど、「堅」くはない結晶

ソーダ沸石(山形県産)
【ソーダ沸石】標本の横幅:3.5cm/山形県 鶴岡市 温海地域 五十川産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

スコレス沸石のモース硬度は5〜5 ½で、ステンレスの釘(くぎ)と同じくらいの硬さです。触ると硬くて、見た目の通りトゲトゲした感触です。

でも、ステンレスの釘とは違って、もろくて折れやすいデリケートなもの。ガラスのコップが壊れやすいように、スコレス沸石も、「硬いけど壊れやすい」のです。硬かったら普通は壊れにくいはずなのに、なんだか不思議ですね。

これには、「硬さ」と「堅さ」の違いが関係しています。

モース硬度で表されるのは「硬さ」の方で、こちらは「傷つきにくさ」という意味。例えば、スコレス沸石よりも硬度が低い十円硬貨(モース硬度3〜3 ½)で、スコレス沸石の結晶を引っかいたとします。すると、スコレス沸石には傷がつかず、このことを「十円硬貨よりも硬い」と言っているのです。

一方、細長い物体に折り曲げるような力を加えたとき、ポキッと折れてしまうか、なかなか折れないかを表すのが、「堅さ」です。こちらは「壊れにくさ」のことで、専門用語で「靱性(じんせい)」といいます。

鉱物の解説:スコレス沸石(すこれすふっせき)

スコレス沸石(インド産)
【スコレス沸石】標本の縦の長さ:8.4cm/インド・マハーラーシュトラ州 プネー県 ジュンナー産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

スコレス沸石など「沸石」と呼ばれる鉱物は、結晶の構造に共通の特徴があります。それは、原子の並びが網の目のようになっていて、その網目の中に、水分子や原子が入っていること。そして、網目の中の原子は、結晶全体の原子の並びを壊すことなく、他の原子と入れ替わることができるのです。

洗濯用洗剤には、「ゼオライト」や「アルミノケイ酸塩」などの名前で、沸石が混ぜられていることがあります。沸石入りの洗剤を水道水に混ぜると、沸石の網目の中に入っているナトリウムと、水道水に含まれるカルシウムやマグネシウムが入れ替わります。その結果、汚れが落ちやすく、また衣類も傷みにくい、洗濯に適した水になるのです。

鉱物データ「スコレサイト(スコレス沸石)」
スコレサイト(スコレス沸石)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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