Baikal ice on sunset
©️Sergey Pesterev / flickr

バイカル湖が持つ3つの「世界一」

ロシアのバイカル湖は世界で一番深い湖として有名ですが、実は深さだけでなく、3つの「世界一」を持っています。

その3つとは、透明度、深さ、貯水量。

 

バイカル湖の一番のすごさは、なんと言っても圧倒的な水の透明度です。

水深40メートルまで見える青く透明な湖水は非常に美しく、「シベリアの真珠」と呼ばれるほどです。

冬には湖面が凍結するのですが、透き通る氷はまるでクリスタルのよう。

冒頭の写真を見れば、その美しさがわかりますよね。

 

日本で透明度の高い湖と言えば北海道の摩周湖ですが、摩周湖はこのバイカル湖に次いで世界2位の透明度だそうです。

 

そして、バイカル湖が持つ2番目の「世界一」は、深さ。

最大水深は1741メートルで、深さランキング2位のタンガニーカ湖(アフリカ南東部)の1471メートルと比べても、さらに270メートルも深い。

ちなみに深さランキング3位は世界最大の面積を誇るカスピ海で、最大水深は1025メートルです。

 

最大水深だけでなく、平均水深にも目を向けるともっとわかりやすいかもしれません。

平均水深は、バイカル湖が744メートル、タンガニーカ湖が570メートル、カスピ海が208メートルです。

バイカル湖は最大水深だけでなく、平均水深でも圧倒的に深い。

参考までに、日本で一番大きな琵琶湖は「最大水深」が104メートルです。

 

さて、このような断トツの深さのゆえに、バイカル湖は世界最大の貯水量も誇ります。

これが3番目の「世界一」。

 

なんと世界の淡水の約2割がバイカル湖に集まっているとのこと。

バイカル湖は、湖水面積だけ見ると世界で7番目の大きさで、決して大きくはありません。

1位のカスピ海と比べると14分の1程度の大きさしかないので、面積を考えるとバイカル湖が世界一の貯水量というのは信じがたいことなのです。

いかに圧倒的な深さを持っているか。

 

▼▼▼動画もあります▼▼▼

ユーラシアプレートとアムールプレートが引き裂かれた場所

実は、バイカル湖がこれほどの深さを持っているのには、理由があります。

バイカル湖は、プレートの裂け目である地溝帯(リフト帯)にできた湖なのです。

これをバイカルリフト帯と呼んでいます。

 

ちょっとバイカル湖の衛星写真を見てみましょう。

バイカル湖の衛星写真 (©️NASA Earth Observatory / flickr)

 

このように、上空から見るとバイカル湖は三日月型をしています。

写真を眺めていると、何となく大地の裂け目に見えてきせんか。

 

バイカル湖を挟んで南東側には、アムールプレートと呼ばれる小さな大陸プレートがあります。

西日本もこのプレートの一部。

そして、アムールプレートを取り囲むようにしてバイカル湖の北西側に広がるのが、巨大なユーラシアプレートです。

 

このような位置関係で、小さなアムールプレートがユーラシアプレートから離れるように、南東側に少しずつ動いているのです。

その結果、プレートの裂け目であるバイカル湖が生まれることになりました。

生物が独自の進化を遂げた世界最古の湖

バイカル湖の形成時期、すなわちユーラシアプレートからアムールプレートが離れ始めた時期は、今からおよそ3000万年前と言われています。

実は、バイカル湖は世界最古の湖でもあるのです。

 

一般に、湖の寿命は数千年から数万年。

湖には川から土砂が流れ込むため、徐々に埋められて消滅してしまうのです。

そのような状況ですから、100万年を超えて存在し続けている湖は極めて珍しく、特別に「古代湖」と呼ばれています。

実は日本の琵琶湖も古代湖の一つ。

 

しかし、バイカル湖はそんな古代湖の中でも特別に長生きしている湖で、3000万年という桁違いのスケールです。

その間、バイカル湖の中は外の世界からずっと孤立してきました。

 

バイカル湖に住む生物は、言わば「閉ざされた世界」で進化を続けてきたわけです。

ちょうどガラパゴス諸島みたいな環境ですね。

そのため、ここに住む生物のほとんどがバイカル湖にしかいない独特の生物なのです。

 

例えば、バイカルアザラシは世界で唯一の淡水に生息するアザラシ。

バイカルアザラシの先祖も元々は海に住んでいたはずですが、長い時間をかけてバイカル湖の淡水に適応するように進化したようです。

しかし、海から隔離されたバイカル湖に、どうやってバイカルアザラシの先祖がやってきたのかは謎に包まれています。

下部マントルの上昇を示す湖底の熱水噴出孔

そして、驚くことにバイカル湖の湖底には熱水噴出孔が見られます。

熱水噴出孔と言えば、海底下のものが一般的。

大西洋中央海嶺や日本の近海など、火山活動が活発な海底に多く見られます。

メカニズムとしては、岩盤の割れ目から地下深くに染み込んだ水がマグマの熱で熱せられ、再び海底下から噴出している現象です。

 

この熱水噴出孔がバイカル湖の湖底に見られるということは、バイカル湖の地下深くにもマグマがあるということ。

大西洋中央海嶺のように、バイカル湖の辺りでも下部マントルの上昇によって大地が裂けているわけで、こういう場所では地下の温度が特に高くなっているのです。

 

ところで、バイカル湖に次いで深さランキング2位のタンガニーカ湖も地溝帯、すなわちプレートの裂け目にできた湖です。

こちらは東部アフリカ大地溝帯の中央に位置しています。

 

バイカル湖にしろタンガニーカ湖にしろ、深い湖の形成には地球規模のダイナミックな運動が関係していたのですね。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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