クリュ・デュ・ヴァン(ジュラ紀の石灰岩にできたカール地形)
©️Lukas Bieri / Pixabay

氷河が切り取った半円形の断崖

半円形に弧を描きながらそびえる白い断崖は、スイス西部のジュラ山脈にできた氷河地形「クリュ・デュ・ヴァン」。

断崖の長さは1400メートルほどで、深さは約160メートルにも達します。

 

次の写真はクリュ・デュ・ヴァンの衛星画像なのですが、これを見ると本当にきれいな半円形をしていることがわかりますね。

ジュラ山脈の南麓にある氷河地形「クリュ・デュ・ヴァン」の衛星画像(スイス)
ジュラ山脈の谷部にできた氷河地形「クリュ・デュ・ヴァン」の衛星画像(Googleマップ)

 

この独特の形状から、しばしば「大自然がつくった円形劇場」と呼ばれているそうです。

 

まるでゼリーの表面をスプーンですくいとったようなこの地形は、氷河の侵食作用で形成されました。

このような氷河地形を「カール(圏谷(けんこく))」と言い、「U字谷(ゆーじこく)」、「モレーン」とともに、典型的な氷河地形の一つとして知られています。

 

U字谷は、断面がアルファベットの「U」の字に見えるような、底面の広い谷のこと。

ここに海水が侵入すると「フィヨルド」になります。

 

またモレーンは、氷河によって削り取られ、下流に運ばれた土砂が、氷河の先端や両脇に土手のように集積した地形のことです。

こちらは氷河の後退とともに湖になるケースが多く、しばしば決壊して洪水を引き起こす危険な地形でもあります。

成長する氷河が谷の上流部を削り込んだ

さて、クリュ・デュ・ヴァンがどのようにできたかと言いますと、山間部の谷に発達した氷河が、その底面の岩石を削りながら成長することで形成されました。

この辺りの形成過程について、もう少しわかりやすく、順番に見ていきたいと思います。

 

まず、氷河というのは、降った雪が自分の重みでギュッと圧縮されてできた氷のかたまりです。

そして、谷の上流部にできた氷のかたまりは、ずっとその場所に留まっているわけではなく、重力に引っ張られて谷を下っていく。

 

ですので、氷河は文字通り「氷の河」であって、川の流れが谷を削っていくように、氷河も谷底を削りながら下っていくのです。

それと同時に、谷の上流部では新しく降った雪によって氷河が補充され、上流部の辺りはより一層深く削られることになります。

こうしてできるのが、クリュ・デュ・ヴァンのようなカール(圏谷)地形です。

 

氷河は下流に向かって流れ、上流部では新たな氷河が補充される。

ということは、氷河が成長し続けている間は、上流部から下流部に向かって、どんどん氷の川が伸びていくわけですね。

そのイメージを持ってもらうと、氷河が「流れている」ということが、理解しやすいと思います。

 

ここでもう一度、クリュ・デュ・ヴァンの衛星画像を見てください。

半円形の断崖の、右斜め上方が開いていますよね。

ジュラ山脈の南麓にある氷河地形「クリュ・デュ・ヴァン」の衛星画像(スイス)
ジュラ山脈の谷部にできた氷河地形「クリュ・デュ・ヴァン」の衛星画像(Googleマップ)

 

つまり、断崖のある場所が谷の一番上流(「源頭部」と言います)に当たり、ここから写真の右斜め上方に向かって氷河が流れていったというわけです。

 

氷河も川と同じく流れている。

そして、流れることで谷の侵食が進む。

 

ただ、氷河の場合は氷という固体のかたまりが流れますので、水の流れる谷川とは異なる、独特の氷河地形が生まれることになります。

ジュラ山脈は大陸の衝突でできた大地のシワ

クリュ・デュ・ヴァンのあるジュラ山脈は、アルプス山脈の北西エリアをなすスイスアルプスの、その少し北側に位置する山脈です。

北東から南西に向かって、長さは約230キロメートル。

 

標高1000メートルから1500メートルほどの山々が続く、幅60キロメートル前後の山岳地帯で、ちょうどこの山脈に沿ってフランスとスイスの国境線が引かれています。

ジュラ山脈の東がスイス、西がフランスですね。

 

ジュラ山脈とアルプス山脈は別の山脈ですが、アルプス山脈が形成されたのと同じ時期(約3400万年前から500万年前ごろ)に、ジュラ山脈も大地の圧縮によって形成されました。

「大地の圧縮」というのは、アフリカ大陸が南の方からユーラシア大陸にぶつかってきて、その力で2つの大陸が押し合った運動のことを指します(これを「アルプス造山運動」と言います)。

 

この時、大陸同士が衝突した辺りには、大地にシワができたり断層ができたりして、アルプス山脈という大きな山脈が形成されたのです。

そしてジュラ山脈もまた、その時にできた大地のシワの一部。

ジュラ山脈が「シワ」であることは、山脈の伸びる方向と平行に、何本もの尾根と谷が伸びていることからよくわかります。

 

そのような谷の一つが、クリュ・デュ・ヴァンのあるトラヴェール谷で、ジュラ山脈全体で見ると南東側の端に当たります。

ここから南に下ればヌーシャテル湖やレマン湖のあるスイス高原が広がっており、さらにその向こうがスイスアルプスです。

ジュラ紀の地層を代表する2億年前の石灰岩

クリュ・デュ・ヴァンの崖を作っている石灰岩の地層は、およそ2億年前の「ジュラ紀」という地質時代に形成された地層です。

恐竜の時代として知られるジュラ紀の「ジュラ」は、ジュラ山脈から取った名前だったのですね。

 

現在の地中海がある辺りは、当時はもっと広い範囲に渡って海に覆われていて、テチス海と呼ばれていました。

そのテチス海の浅い海域(小島が点在するような陸地に近い海域)に沈殿したのがジュラ紀の石灰岩で、アンモナイトの化石を多く含むなど、特徴のある地層です。

 

そして、2億年前に浅い海で形成された石灰岩の地層が、時代を超えて3400万年前ごろからアフリカ大陸に押されて盛り上がるようになり、ついには多数の尾根と谷が平行に走るシワシワの山岳地帯(ジュラ山脈)になりました。

クリュ・デュ・ヴァンの白い絶壁は、ジュラ紀のテチス海の浅い海を象徴する地層であり、また、その後の大陸同士の衝突をも物語る地層なのです。

参考文献

場所の情報