Photo: Pixabay

 

鏡のように磨き上げられた街中の石材たち

谷川や海岸で見つけたきれいな石を、ツルツルに磨いた経験はありますか。

「耐水ペーパー」という研磨用のシートを使って水で磨いていくのですが、目の粗いシートから始めて、徐々に目を細かくしていきます。

4段階目か5段階目でようやく表面がツルツルになってきて、水が乾いた後も白っぽくならない状態になり、さらに続けるとツヤが出てきて、ある程度は光を反射するようになります。

 

ですが、これだけ苦労して磨いても、土産物屋で売っている機械で研磨された天然石の方が、ずっと滑らかできれい。

手のひらに乗るくらいの小さな石であっても、てかてかツルツルにするのはとても大変なのです。

 

さて、そんな石磨きの苦労を知っている人ならお分かりいただけると思いますが、老舗デパートやオフィスビルに使われている石材は、信じられないほどの「てかてかツルツル」具合です。

鏡のように美しく磨き上げられていて、近くで見ると石に顔が映ります。

これだけ大きな石材を、しかも大量に、一体どうやって磨き上げているのでしょうか。

巨大なカッターで切って、ダイヤモンドの粉で磨く

スライスされた大理石の石材
スライスされた大理石の石材(©︎Crocodile Rocks / flickr

 

建築用に使われる大きな石材も、磨き上げる手順としては手磨きとさほど変わりません。

何が違うかというと、巨大な機械を使って全自動で磨き上げることで、大量生産を可能にしています。

 

ビルの壁や床に使われる石材は、まずは大きな石の板として加工されます。

日本に輸入される石材の多くは、横幅が3m、高さと奥行きがそれぞれ2m程度の巨大なブロック。

それらを石材加工工場で水をかけながらスライスしていくのですが、スライスには巨大な回転歯のカッターや「マルチワイヤーソー」と呼ばれる糸鋸が使われています。

鉄製の回転歯の先端、あるいはワイヤーの表面にはダイヤモンドの粉が塗り固められていて、この粉で削りながら切断していくしくみです。

 

こうしてスライスされた石の厚さは、薄いもので2cm、厚いもので9cmほど。

ちょうどダイニングテーブルの天板を大きくしたような石ができあがります。

 

次に表面を研磨していきますが、研磨は高速回転する円盤で行います。

床磨きで使われるポリッシャーのようなものを、石材の表面に押し付けて磨いていくわけですね。

回転盤には研磨材としてやはりダイヤモンドの粉が塗り固められていて、円形の砥石になっています。

スライスの時も水を使いましたが、研磨でも水は必須。

 

工場での研磨も、手磨きと同じように、目の粗い研磨材(ダイヤモンドの粉)から始めて徐々に目の細かい研磨材へと変えていきます。

最初の方の研磨では、直径0.1mmほどの研磨材が付いた回転盤を使いますが、最終的な仕上げ段階では、研磨材の直径は0.005mmくらい。

石材の種類によっては、さらに羊毛のフェルトなどでできた柔らかい素材の回転盤(バフ)を押し当て、摩擦熱によってツヤ出しを行うこともあります。

 

そして、工場ではこれらの工程を全て自動化。

スライスした石の板はベルトコンベヤーに乗せられ、研磨用の回転盤が何個も付いた特大の研磨機が水と一緒に上から押し当てられ、研磨機が左右に動く中を石の板が移動していきます。

なんだか車の洗車みたいですね。

特大の研磨機は、目の粗いものから目の細かいものまで、ベルトコンベヤー上に順番に配置されています。

 

こうしてできあがった「てかてかツルツル」の石の板は、用途に合わせて適当な大きさにカットされ、出荷されていきます。

なぜダイヤモンドの粉なのか

Photo: Pixabay

 

上記の通り、石材の研磨にはダイヤモンドの粉が使われています。

これは、ダイヤモンドが最も高い硬度を持つ物質だから。

岩石は非常に硬いので、それを削ったり磨いたりするには、岩石以上に硬い研磨材が必要になるわけですね。

 

ダイヤモンドがどれほど硬いかというと、「モース硬度」と呼ばれる鉱物や工業材料の硬さの尺度において、最高ランクの「硬度10」を持つ世界で唯一の物質。

モース硬度は1812年にドイツの鉱物学者フリードリッヒ・モースによって開発された尺度で、1〜10までの10段階で、その物質への傷のつきやすさを表します。

ダイヤモンドは、他の何物によっても傷をつけられない、最高に硬い物質なのです。

 

モース硬度でダイヤモンドに次ぐ「硬度9」を持つのは、ルビーやサファイア。

これらの宝石も十分に硬そうに思えますが、実はモース硬度の数値の増加は、実際的な硬さの増加とはあまり一致しておらず、「硬度9」と「硬度10」の間には大きな開きがあります。

硬さで言うと4倍くらい、ダイヤモンドの方が硬い。

 

「硬度8」から「硬度9」に上がっても硬さは1.4倍程度しか増えないので、ダイヤモンドだけが、ずば抜けて高い硬度を持っていると言えます。

石材を鏡のように美しく磨き上げるには、圧倒的に硬いダイヤモンドの粉が最適なのですね。

 

なお、手磨きの時に使う耐水ペーパーには、研磨材としてシリコンカーバイド(炭化ケイ素)が使われています。

シリコンカーバイドも非常に硬い研磨材で、ダイヤモンドよりは劣るものの、その硬さは「モース硬度9」のルビーやサファイアを上回ります。

参考文献

セキストーン『製品加工の流れ

セキストーン『大理石ってどうやったら買えるの?買い方や選び方を紹介

toishi.info『砥石の粒度と粒径の関係

株式会社大蔵屋『宝石の硬度 モース硬度 ビッカース硬度 ヌープ硬度について

株式会社文化雑巾『大理石研磨 詳細

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
Amazon | 楽天ブックス

※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

てかてかツルツルの石材はダイヤモンドの粉で研磨してつくる(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)