千葉県銚子市の屏風ヶ浦(びょうぶがうら)の崖に見られる関東ローム層。崖の上部に位置する赤茶色の地層が関東ローム層で、約12万年前以降に堆積。下側に見られる灰色の地層は約300万年前〜30万年前に堆積した砂岩と泥岩の層。Photo: Katsuaki Watanabe(フォトギャラリー地学舎

本来の意味は「砂っぽい土壌」

赤褐色(赤茶色)または黄褐色の火山灰土壌として有名な関東ローム層。関東地方の台地や丘陵を広く覆うロームの地層ということで、「関東ローム層」と呼ばれているわけですが、「ローム」とはどういう意味かご存知でしょうか。

関東ローム層が火山灰土壌であるために、日本では「ローム」という言葉が火山灰土壌の代名詞として定着しています。しかし、元々は土壌学における土壌粒子の集まり具合(粒の大きさ)を表す言葉で、火山灰土壌のように、その土壌が「何でできているか」とは無関係の言葉でした。

土壌学における「ローム」が意味するのは、「砂とシルト・粘土がほどよく混じり合った土壌」です。簡単に言えば、普通の土壌よりも砂っぽい感じの土壌のこと。

シルトというのはいわゆる泥のことですが、土壌学では、大きさが0.002mm〜0.02mmまでの粒子を指す言葉です。それよりも小さいものが粘土で、私たちが使う「泥」という言葉は、シルトと粘土を合わせたものになります。

シルトと粘土の概念図。簡単な実験で、身のまわりの土を礫、砂、シルト、粘土に分けることができる。出典:渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』ベレ出版

 

このような土壌粒子の大きさに着目した分類は全部で12あり、その中には典型的な「ローム」以外に、「砂質ローム」「シルト質ローム」「粘土質ローム」など、広い意味で「ローム」と言えるものもいくつかあります。

実際のところ、関東ローム層の土壌粒子は土壌学における「ローム」よりも粘土の量が多く、厳密に言えば「粘土質ローム」あるいは「砂質粘土」に区分されます。元々は土壌学における言葉だったと冒頭で言いましたが、かといって土壌学的に正確な意味での「ローム」でもないというわけです。

関東ローム層という名前は、関東地方一帯の地質学・土壌学の研究途上において、まだ火山灰起源の土壌であることがわからなかった時期に、便宜的に名付けられたものだったそうです。つまり、「何でできているかわからないし、砂でもなく、シルトや粘土でもない。とりあえず砂っぽい土壌だから、ロームと呼ぼう」と。

その後の研究で火山灰土壌であることがわかったり、土壌学における細かい区分に照らすと粘土が多いことが判明したりしましたが、研究初期の頃に名付けられた呼称が定着し、今でも「関東ローム層」と呼ばれているのです。

土壌粒子の区分は地質学と土壌学でちょっと違う

今回「土壌学」の話が登場しましたが、地質学とか土壌学とか、「〇〇学」という言葉は本当に多いですね。学問が発展すると各分野の専門化が進むため、新しい「〇〇学」が増えていくのは当然の流れと言えます。そして、同じ研究分野でより深い議論をするために、細分化された「〇〇学」ごとに学会(研究者のコミュニティ)が生まれ、その中で共通の専門用語が定義されるようになりました。

上記でご紹介した「ローム」などの土壌粒子の分類は、国際土壌学会で定義されたものです。また、「ローム」を定義するための砂、シルト、粘土などの大きさも、「大きさが0.002mm〜0.02mmの粒子をシルトとする」などといった具合に、同学会で細かく定義されています。

さて、ここでちょっと問題になるのが、「砂」「シルト」「粘土」という言葉は別の研究分野でも使われていて、研究分野が異なると定義もしばしば変わってしまう、ということです。実際、岩石や鉱物、地層などを扱う地質学の分野では、「砂」や「粘土」の大きさについて土壌学とは別の定義がなされています。具体的には以下の通り。

礫、砂、シルト、粘土の大きさの区分。土壌学と地質学で定義が異なる。出典:渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』ベレ出版

 

「礫(れき)」というのは砂利や小石のことで、砂よりも粗い粒子全般を指す言葉です。

それと、地質学では「泥岩」などのように「泥」という言葉がしばしば使われるのですが、泥はシルトと粘土を合わせた範囲(0.06mm以下)と定義されています。

このように、専門用語の定義というのは学問分野によって違うことがありますので、他の本を読んでいるときに違う定義を見つけても、「どっちが正しいんだ!」と思わずに、背景にある「学問分野の違い」にも目を向けていただけたらと思います。本書は特に断りがない限り、地質学で定義された専門用語を使っています。

風で巻き上げられた砂塵が降り積もった

日本の典型的な火山灰土壌の例。上野原遺跡(鹿児島県霧島市)のアカホヤ火山灰を含む土層。Photo: Michael Gunther / Wikipedia (CC BY-SA 4.0)

 

関東ローム層が概ね火山灰土壌であることは間違いないのですが、典型的な火山灰土壌とは成因が少し異なります。一般に火山灰土壌というのは、降り積もった火山灰(降下火山灰)や火砕流で運ばれた火山灰が厚く集積し、集積したその場所で風化作用を受けて、少しずつ土壌へと変化していったものです。

それに対し、関東ローム層の火山灰土壌は、一度集積した火山灰が風によって巻き上げられて、別の場所に降り積もってできたと考えられています。また、火山灰だけでなく、冷え固まった溶岩の裸地からも細かい砂つぶが風で舞い上がり、火山灰と一緒に集積しているという説が有力です。

いずれにしても、風で巻き上げられた砂塵が二次的に降り積もってできた土壌が関東ローム層であり、その点が典型的な火山灰土壌と異なっているのです。

なお、関東ローム層が赤っぽく見えるのは、火山灰や溶岩の砂塵に含まれる鉄分が酸化し、赤茶けた鉄錆色になるからです。火山灰の元々の色は灰色ですので、関東ローム層が赤っぽく見えるのはちょっと不思議なことですね。赤色のほか、黄色っぽい色(黄褐色)も、酸化した鉄分の色に由来しています。

最後に、地層の年代についても少しだけ補足。関東ローム層の一番上の部分、つまり年代的に最も新しい部分は、およそ1万5000年前〜1万2000年前に集積したと見積もられています。この時代は縄文文化の草創期で、それ以前には土器がなく、先土器文化と呼ばれる石器だけの時代でした。そのため、関東ローム層の中からは、先土器文化の遺物として土器を伴わない石器群が多数見つかっています。

関東ローム層の最上部で縄文文化が始まったという日本の歴史。このことからも、地質と人間生活の密接な関係を想像できるのではないでしょうか。

参考文献

横浜市ふるさと歴史財団埋蔵文化財センター『黄色いのに赤土?

コトバンク『関東ローム層』『ローム

農林水産省『土壌の基礎知識

産総研地質調査総合センター『絵で見る地球科学 泥・砂・礫の区分

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

関東ローム層の「ローム」とは?(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)