夜空に輝く見慣れた月。

もしあの月がなくなったら、一体どんなことが起こるのでしょうか?

例えば、潮の満ち引きがなくなることで地球の自転が速くなったり、海洋生物の多様性が失われたり、極端な気候変動が起こったり・・・。

月がなくなったら、実に様々な変化が起こると考えられているのです。

順番に詳しく見ていきましょう。

 

▼▼▼短くまとめた動画はこちら▼▼▼

(1)潮の満ち引きがなくなる

ご存知の通り、潮の満ち引き(海水面の高さが1日のうちで変化する現象)は月の引力によって引き起こされています。

ですので、月がなくなると、まず潮の満ち引きが無くなります。

その結果・・・

(2)超高速で地球が自転する

月がなくなって潮の満ち引きが無くなると、地球は超高速で自転することになります。

男子生徒

えっ、どういうことですか??

下の図で説明しますね。

潮の満ち引きって、月が地球の海水をこう「グッ」と引き寄せるわけですよね。引力で。

そうすると、地球の自転に比べて月の動きは遅いので、速く動こうとする地球を月が引っ張る(=ブレーキをかける)形になるんです。

母親の服の袖を子供が引っ張るかのように、地球の衣である海水を月が引っ張る、というわけ。

こうして、潮の満ち引きのおかげで地球の自転速度はある程度ゆっくりになっているのです。

 

ですからこの潮の満ち引きが無くなると、地球の自転にブレーキがかからなくなって、自転速度はもっと大きくなる

その結果・・・

(3)強風、砂嵐が地表に吹き荒れる

地球が超高速で自転すると、大気の動きがめちゃくちゃ速くなります。

つまり、地表は強風や砂嵐が吹き荒れる悲惨な場所になる。

高潮の被害もあるでしょう。

・・・というか、人が住める環境ではなくなります。

(4)干潟がなくなる

さて、もう少し穏やかな変化にも着目してみましょう。

潮の満ち引きがなくなると、干潟もなくなります

干潟って、ムツゴロウとかがいるあの場所。

満潮時には海水に覆われ、干潮時には海面上に姿を表すためこのような環境ができるわけですね。

ですから、潮の満ち引きがなければ干潟も存在しません

 

で、干潟がなくなるとどうなるかと言うと・・・

(5)海洋生物の多様性が失われる

干潟がなくなると、海洋生物の多様性が失われます

「多様性」って難しい言葉ですよね。

要は、魚介類やプランクトンの種類が減ると言うことです。

 

干潟には実にたくさんの種類の生物が住んでいて、魚介類やプランクトン、甲殻類、ゴカイ類、そしてそれらを餌にする鳥類らが複雑な生態系を作っています。

つまり、干潟によって生かされている生物が、非常に多いのです。

干潟がなくなることでこれらの生態系が破壊される、と言うのがまず一点目。

 

でも、それだけではありません。

こういった干潟の海洋生物は、海洋環境の浄化作用を担っていますので、干潟がなくなると海洋環境全体が変化してしまうのです。

例えば、干潟がなくなることで海洋プランクトンの種類や数、生息場所が変わります。

そうすると、それらを餌にしていた魚介類は生きられなくなります。

こうして海洋生物の多様性はさらに失われることになるのです。

 

また、海洋プランクトンのうち光合成を行うグループは大気中の酸素の供給にも重要な役割を果たしているため、大気の組成が変わってしまう可能性もあります

これは大変です。

(6)夜が月明かりのない真の闇になる

そろそろ潮の満ち引きから離れて、別の話題に移りましょう。

月がなくなったら、

・・・

そう。

夜が真っ暗闇、真の闇になります

 

そんなの当たり前じゃないかと言われそうですが、月明かりのない「真の闇」って、想像できますか?

月がないと、本当に本当に「真っ暗」なんです。全くの闇。

 

私は洞窟に入った時、真の闇を体験したことがあります。

観光地の鍾乳洞とかじゃないですよ。

鉱山の廃坑に専門家として入らせてもらった時、外の光が全く入らない深さまで来てから、ランタンの明かりを消してみたんです。

すると、自分の手すら見えない

自分の手の存在は手を通して感じられるのに、目では全く見えなくて、本当に気持ち悪かったです。

 

もし月がなければ。

そして、火や電気など他に光るものが全くなければ。

毎晩がこのような真の闇になるのです。

 

あ、星の光だけはありますね。

でも微々たるものです。

 

人間は街の明かりがあるのでいいかもしれませんが、自然界にいる夜行性の動物たちは、月明かりでの活動が不可能になります。

彼らは夜に捕食行動をするので、月がなくなれば絶滅してしまうでしょう。

(7)地軸の傾きが不安定になる

またちょっと別の話題になります。

次は、月がなくなったら、地軸の傾きが不安定になるという話。

上の図のように、地軸(地球の自転軸)は、公転面に垂直な方向に対して平均23.34度傾いています。

この傾きのお陰で地球には四季があるんですね。

そして、地軸の揺らぎは±5度以下。とても安定しています。

 

このような地軸の安定に重大な役割を果たしているのが、何を隠そうなのです。

太陽系の衛星の中で異例の大きさを誇る月は、その大きな引力によって地球の地軸を安定させているのです。

男子生徒

えっ、月ってそんなに大きかったのですか?? 地球よりずっと小さいと思っていましたが・・・

はい。

地球の月って、実は、異常に大きな衛星なのです。

ちょっと地球の半径と月の半径を比べてみますね。

  • 地球の半径 = 6,371 km
  • 月の半径 = 1,737 km

こんな感じ。比で見ると、地球 : 月 = 3.7 : 1(およそ4 : 1)です。

 

これが衛星としてどれくらいデカイかと言うと、火星の例を見れば明らかです。

火星にはフォボスダイモスという2つの衛星があるのですが、フォボスの半径が約11 km、ダイモスの半径が約6 kmと非常に小さいです。

それぞれの半径を比べると以下の通り。

  • 火星の半径 = 3,390 km
  • フォボスの半径 = 11 km
  • ダイモスの半径 = 6 km

 

半径の比で言うと、

  • 地球 : 月 = 4 : 1
  • 火星 : フォボス = 305 : 1
  • 火星 : ダイモス = 547 : 1

もう、圧倒的ですね。

月は、自分がその周囲をまわっている惑星(=地球)と比べて、異常に大きいのです。

 

ついでに木星についても見ておきましょう。

木星の衛星は2018年7月の時点で79個も発見されており、全部を書くことはできないのですが、ガリレオ衛星と呼ばれる有名な4つ(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)の半径を取り上げてみたいと思います。

ちなみにこれら4つの衛星は、名前の通りガリレオ・ガリレイによって発見されました。

  • 木星の半径 = 69,911 km
  • イオの半径 = 1,822 km
  • エウロパの半径 = 1,561 km
  • ガニメデの半径 = 2,631 km
  • カリストの半径 = 2,410 km

 

どのガリレオ衛星も地球の月と同等かそれ以上の大きさがありますが、木星との比で見るとやはり圧倒的に小さいです。

  • 地球 : 月 = 4 : 1
  • 木星 : イオ = 38 : 1
  • 木星 : エウロパ = 45 : 1
  • 木星 : ガニメデ = 27 : 1
  • 木星 : カリスト = 29 : 1

ちなみに木星は扁平率が大きく、赤道半径は71,492 kmです(平均半径よりも大きい)。

赤道半径の方がよく知られているかもしれませんね。

 

さて、地球の月が異常に大きな衛星であることがわかったところで、話を戻しましょう。

地軸の傾きが平均23.34度で安定しているのは、「月があるから」かつ「月が大きいから」です。

 

衛星が小さい火星の場合、回転軸の傾きは約30度も変わります。

火星はゆらゆら揺れながら公転しているわけですね。

(火星の不安定な公転は、他の惑星からの影響や火星自体の質量の小ささとも関係しています。)

 

そして、もし月がなくなって地球の地軸が不安定になると、大変なことが起こります・・・。

(8)灼熱から極寒まで気候が極端に変化する

月がなくなって地軸の傾きが不安定になると、地球の気候は灼熱から極寒まで極端に変化するようになります。

わかりやすい例で考えてみますね。

仮に地軸の傾きが90度になると、地球は真横に倒れたまま太陽の周りを公転することになります(天王星がこのタイプ)。

すると、北極や南極では、1年が長い長い昼間長い長い夜に分けられることになるため、昼間が続く6ヶ月の間には異常に高温になり、逆に夜が続く6ヶ月の間には異常に低温になります。

つまり、北極や南極付近は灼熱と極寒の世界になるのです。

 

北極や南極のような高緯度地方以外の場所でも、広い範囲で白夜(太陽が沈まない夜)や極夜(一日中続く夜)が延々と続くことになります。

ですから、地球全体で気温の変化が異常に大きくなるということ。

また、ここで言う「夜」というのは「月明かりのない夜」ですから、真っ暗闇が延々と続くということです。

 

一方、地軸の傾きが0度になると、季節がなくなります(金星がこのタイプ)。

まあ、生きていけなくはないですが、大気や海流の状態は今と全く違うものになるでしょう。

(9)巨大隕石によって定期的に大量絶滅が起こる

もし月がなくなったら、もう一つ重大なことが起こります。

それは、巨大隕石が地球に衝突する確率が飛躍的に上がるということ。

そしてその結果、定期的に生物の大量絶滅が起こります。

 

月の表面に無数にあるクレーター

あれは、かつて隕石が月に衝突した時にできたものです。

ですから、もし月がなかったら、あのクレーターは地球にできていたはずです。

月は、隕石から地球を守ってくれる大切な「」でもあるのですね。

もしあんな大きなクレーターが地球にできたら、かなりの生物が死に絶えるでしょう。

 

ただ、月のクレーターができたのは地球や月の形成初期(つまり大昔)のことで、人間が生きている時代のものではありません。

そもそも、その頃は地球にも大量に隕石が降り注いでいたため、生物が住めるような環境ではありませんでした。

 

では、もうこの先、巨大隕石は地球に降って来ないかというと、残念ながらそうとは限らないのです。

地球上には、生物の大量絶滅を引き起こした巨大隕石の衝突跡(大きなクレーター)が残っていて、同様のことがこの先も起こる可能性があるのです。

その衝突跡とは、約6,600万年前のチクシュルーブ・クレーター

メキシコのユカタン半島にある有名なクレーターですね。

 

そして、チクシュルーブに比べると小規模ではありますが、それでも甚大な被害を出した隕石落下は近年にも起こっています。

  • 1908年のツングースカ隕石(ロシア)
  • 2013年のチェリャビンスク隕石(ロシア)

ちなみに2004年に発見された小惑星アポフィスも、地球に衝突する恐れがあるとされています。

衝突の予測年は2029〜2036年。

 

地球は現在でもこれだけ隕石落下の危機にさらされているわけですね。

もし月がなかったら、さらに多くの隕石が地球に衝突することになるでしょう。

その中には大量絶滅を引き起こすような巨大な隕石もあるかもしれません。

(10)人間の情緒が不安定になる

最後に、人間の情緒への影響について。

カタストロフィックな内容から一気に話題が変わりましたが、最後を飾るにふさわしい、重要な変化です。

もし月がなくなったら、人間の情緒が不安定になります

月明かりというのは、強烈な太陽の光とは全く異なる役割を人に対して果たしてきました。

淡い月明かりで育まれた文化は多く、穏やかさ、静けさ、安定、リラックスといった情緒への良い影響があったわけです。

これらがなくなるということは、少なからず情緒の安定に悪い影響を及ぼすことでしょう。

月がなくなるというのは、現実に起こり得ることなのか?

さて、ここで考えてみたいことがあります。

これまで「もし月がなくなったら」という話をしてきましたが、月がなくなるというのは、現実に起こり得ることなのでしょうか

 

実は、月は1年に約3.8センチメートルの速さで、地球から遠ざかっていることがわかっています。

遠ざかる原因は、潮の満ち引きです。

最初の方でお話しした通り、月の引力で海水が引っ張られることで、地球の自転速度はある程度ゆっくりになっているのです。

つまり、徐々に遅くなっているということ。

 

地球の自転速度が徐々に遅くなると、地球自体の運動量(角運動量と言います)は減ってしまいますが、その代わり、地球と一体となって運動している月の運動量(=角運動量)は増えます。

ちょっとややこしいところですが、地球と月の角運動量の変化が合わせてプラスマイナスゼロになるように、月が運動パターンを変えるわけです。

どう変えるかというと、公転の半径を大きくする

 

ですので、地球の自転速度が小さくなっていくにつれ、月は地球から遠ざかっていくのです。

1年に約3.8センチメートルという微々たる量ですが。

ちなみに「1年で約3.8センチメートル」というのは、実際に測定データとして確かめられている数値です。

「どうやって??」という声が聞こえてきそうですね。

実はアポロ計画の時に月面に反射板を設置していて、それを使って地上から測定しています。

 

というわけで、このまま月が離れていき、地球の引力圏から離脱すれば月がなくなってしまうわけです。

・・・しかし、安心してください。

引力圏から月が離脱する可能性は確かにあるのですが、それは気の遠くなるような先の話です(例えば15億年先とか、そんなレベル)。

 

月がなくなってしまう可能性について、なんとなくイメージできたでしょうか。

実際に遠ざかっているという事実が大事ですね。

 

 

以上、「もし、月がなくなったら?:地球と生命に起こる10の大激変」でした。

最後までお読みいただきありがとうございました。

謝辞

下記の画像提供に感謝申し上げます(順不同)。

もっと知りたい人のためのオススメ本

ニール・F・カミンズ『もしも月がなかったら―ありえたかもしれない地球への10の旅』(東京書籍,1999)


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