火山灰に埋もれた巨木が色彩豊かな碧玉に
荒涼とした岩石砂漠に横たわる巨木。
一見すると木のようですが、よく見ると岩石です。
木の形をした岩石。
米国アリゾナ州の「化石の森国立公園」には、写真のような木の化石があちこちに横たわっています。
珪化木と呼ばれるこれらの化石は、大昔の森林の木々が洪水によって押し流され、火山灰質の砂に埋まり、木の成分が二酸化ケイ素に置き換えられたもの。
しかも、ここの珪化木はただ二酸化ケイ素に置き換えられただけではなくて、火山灰質の砂に含まれていた鉄やマンガンを取り込んで、色彩豊かな碧玉(へきぎょく)になりました。
碧玉というのはメノウやオパール、水晶の仲間で、宝石の一種。
そういうわけで、化石の森国立公園は別名「虹の森」、「水晶の森」などと呼ばれています。
実際の断面を見てみましょう。
赤や黄色に彩られて、とても美しいですね。
二酸化ケイ素自体は水晶の成分なので無色透明なのですが、上述の通り鉄やマンガンといった不純物を取り込んだために、このような鮮やかな色彩になりました。
特に燃えるような赤色が美しく、この赤は酸化鉄の色です。
珪化木は世界のあちこちで見られますが、このように色彩豊かな珪化木の産地は他にありません。
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碧玉もメノウも微細な水晶が集まったもの
碧玉やメノウ、水晶など、たくさんの鉱物名が出てきて少しややこしかったかもしれないですね。
碧玉というのはジャスパーの和名で、二酸化ケイ素を主成分とする鉱物ですが、よく似た仲間がいくつかあるのです。
例えば、メノウ、オパール、玉髄(カルセドニー)など。
これらは全て微細な水晶が集まってできた鉱物で、基本的には色彩の違いによって呼び名が異なるだけです。
碧玉はメノウや玉髄に比べて色彩が濃く、不透明というのが特徴。
また、よく知られているようにオパールは独特の虹色をしていますね。
実は私たちの身近にあるガラスも、これらと同じく二酸化ケイ素でできています。
ガラスって、確かに透明できれいだけど、碧玉や水晶のような宝石とは別物に思えますよね。
同じ成分と聞くと、ちょっと意外だったかもしれません。
それでは何が違うかと言いますと、ガラスの場合は二酸化ケイ素の分子が整然と並んでおらず、結晶になっていないのです。
つまり、結晶という観点で整理すると次のようになります。
- 碧玉、メノウ、オパール、玉髄:微細な二酸化ケイ素の結晶が集まったもの
- 水晶:大きく成長した二酸化ケイ素の結晶
- ガラス:結晶になっていない二酸化ケイ素
同じ二酸化ケイ素と言っても、結晶のしかたや含まれる不純物の違いで、このように様々な姿をしているわけですね。
化石の森はもともと熱帯の森林だった
ところで、冒頭の化石の森国立公園の写真を見ると、あたり一面が荒涼とした岩石砂漠で、とても「森」には見えないですよね。
横たわっている珪化木の数も、森と呼ぶには少なすぎます。
しかし、かつて珪化木の元になる巨木が洪水によって運ばれてきた頃、この辺りには熱帯の森林が広がっていたと言われています。
それは今からおよそ2億2500万年前のこと。
大陸は現在の場所と異なる位置にあり、アリゾナ州を含むこの辺りは雨季と乾季のある熱帯地域に属していました。
化石の森国立公園の珪化木は多くが倒れた状態で見つかっているので、雨季の洪水によって別の場所から運ばれてきたと考えられています。
もちろん、この辺りに全く木がなかったわけではありません。
実際に一部の珪化木は切り株の状態で見つかっているので、この場所に生育していた木々もあったことでしょう。
ですが、その大部分は他の場所から運ばれてきたわけです。
そして、洪水によって運ばれてきた木々は、水の流れ道である河道に集積しました。
その河道に、今度はまた別の場所から、火山灰を多く含む砂が流れ込んだ。
離れてはいましたが西の方に火山があったため、どうやらこの辺りは火山灰質の土砂による周期的な埋没を経験していたようなのです。
こうして火山灰質の土砂に埋もれた木々は、腐ることなく地下に隔離されました。
そして、地表から染み込んだ水に火山灰の成分である二酸化ケイ素が溶け込み、その水に浸され続けることで新鮮な木々が珪化木へと変化していったのです。
その後、長い年月のうちに地表の土砂が侵食され、地下に埋もれていた珪化木が姿を現し、現在の化石の森国立公園が出現しました。
しかし地表に姿を見せた珪化木はまだほんの一部であり、公園の地下およそ90メートルに渡って、さらに多くの珪化木が埋没していると推定されています。
化石の森国立公園の珪化木が「森」と呼べるほど多くないのは、多くの木々が地下に埋もれているからなのですね。
なお、珪化木の元となった木は、熱帯から温帯に分布するナンヨウスギというスギの仲間です。
この仲間は北半球では絶滅してしまいましたが、南半球の一部の地域(東南アジア、オーストラリア、中南米など)では現在も見られます。
2億年以上前の森林と同じ木々が今も生き残っているのですから、ナンヨウスギ自体が生きた化石とも言えますね。
場所の情報
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)