エッシネン湖(スイスの氷河地形)
©️Lukas Bieri / Pixabay

高山に囲まれた神秘的な青い湖

周囲に迫る高い山々を湖面に映し、青く静かにたたずむ神秘的な湖。

ここはスイスアルプス(北西アルプス)の山岳地帯にあるエッシネン湖という湖で、水面の標高は1578メートル、周囲を囲む山々はいずれも標高3000メートルを超える高山です。

 

エッシネン湖は「カール(圏谷)」と呼ばれる氷河地形で、氷河によって削られたお椀型の地形に周囲の山からいく筋もの小川が流れ込んで、このような湖ができました。

東西に長い楕円形をしていて、長さはおよそ1.6キロメートル、幅は1キロメートル弱。

深さは最大で56メートルほどです。

 

エッシネン湖から流れ出ている川はありませんが、湖の水は地下水となって大地の下を流れ、少し下った場所で再び地上に湧き出ています。

3キロメートルほど離れたカンデルシュテークの町(標高1176メートル)では、エッシネン湖の湧き水を生活用水や発電に利用しているそうです。

 

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ベルナー・オーバーラントの山々と共に世界遺産に

エッシネン湖(スイスの氷河地形)
エッシネン湖を囲むベルナー・オーバーラントの山々(©️TeeFarm / Pixabay

 

エッシネン湖の南東側には、ひときわ高くそびえる4つの山があります。

写真の左から順に、ブリュームリス・アルプホルン(標高3661メートル)、エッシネンホルン(標高3486メートル)、フリュンデンホルン(標高3369メートル)、ドルデンホルン(標高3643メートル)。

 

エッシネン湖とこれらの山々はベルナー・オーバーラント山脈(ベルナー・アルプス)に属しており、同じ山脈の東の方には、ユングフラウ、メンヒ、アイガーというアルプスの名峰が並んでいます。

そして、ユングフラウの南側にはアルプス山脈最大の氷河、アレッチ氷河(長さ23.6キロメートル)があり、この辺り一帯は「スイスアルプス ユングフラウ=アレッチ」という名称で、2007年に世界遺産に登録されています(アレッチ氷河のみの登録は2001年)。

 

なお、「ベルナー・オーバーラント」は「ベルン州の高地」という意味で、ベルンはスイスの首都ですね。

余談ですが、チューリヒやジュネーブではなくベルンが首都に選ばれたのは、権力の一極集中を避けるためだったそうです。

アルプス山脈の中で最も標高が高いのは北西アルプス

アルプス山脈の区分の仕方にはいろいろありますが、スイスアルプスの大部分は「北西アルプス」と呼ばれていて、大まかに言うと東西に伸びる2つの系列の山脈から成り立っています。

 

その一つが、エッシネン湖の属するベルナー・オーバーラント山脈の系列。

ベルナー・オーバーラント山脈のほかに、グラルナーアルプス山脈などがあります。

 

そして、その南側を走るもう一つの系列には、グライエアルプス山脈やペンニネアルプス山脈などが含まれます。

グライエアルプス山脈は、アルプス山脈最高峰のモンブラン(標高4808メートル)がある山脈。

そして、ペンニネアルプス山脈は、ピラミッド型の切り立った崖が美しい、マッターホルン(標高4478メートル)がある山脈です。

 

モンブランやマッターホルンを始め、これら2つの系列の山脈グループには標高の高い山がいくつも集まっていて、北西アルプスはアルプス山脈の中で最も標高の高いエリアになっています。

アルプス山脈の地形を作った氷期-間氷期サイクル

特徴的な氷河地形であるエッシネン湖はもちろんのこと、実はアルプス山脈の地形全体が、過去260万年ほどの氷河時代に受けた侵食作用の結果できたと考えられています。

 

氷河時代とは、北極付近や南極付近の大陸が氷河で覆われているような、地球全体が寒冷化している時代のことを言います。

現在は、どうでしょうか。

 

南極やグリーンランドには、大陸を覆う巨大な氷河がありますよね。

ですから、現在は思いっきり氷河時代。

およそ260万年前に始まった最も新しい氷河時代が、現在まで続いているのです。

 

そして、氷河時代の中にも、特に気温が下がる「氷期」と比較的温暖な「間氷期(かんぴょうき)」があります。

氷期-間氷期のサイクルは時代によっても変化しますが、少なくとも過去80万年ほどの期間に関して言えば、約10万年周期で氷期と間氷期が繰り返されてきました。

 

そのような氷期-間氷期サイクルの中で、現在は間氷期に当たり、約1万5000年前から比較的温暖な時期が続いています。

ですので現在は氷河が後退して、アルプス山脈の奥深くにしか残っていないのですが、間氷期になる前の氷期には、もっと広い範囲が氷河に覆われていたのです。

 

「最終氷期」と呼ばれている現在に最も近い時期の氷期は、約11万年前から1万5000年前まで続きました。

中でも2万1000年前ごろが最も寒かったと推定されています。

その時には北欧諸国の全域、イギリス、ドイツの北部までが氷河に覆われ、アルプス山脈も標高が高いために広く氷河に覆われました。

 

アルプス山脈が形成された時期は、およそ3400万年前から500万年前にかけてなので、260万年前から始まった氷河時代には、アルプス山脈の原型はすでに出来上がっていました。

それ以降、アルプス山脈は何度となく氷期と間氷期のサイクルを経験し、その度に氷河の侵食作用で削られて行ったのです。

 

そして、最終氷期が終わって温暖な間氷期が訪れ、山脈を覆っていた氷河が後退。

その後に、現在のようなアルプス山脈が姿を現したというわけです。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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