スカイ島オールドマン・オブ・ストー(スコットランド)
©︎gabriel zemron / flickr

なだらかな斜面にそびえる溶岩の尖塔

草に覆われたなだらかな斜面に、黒々とした溶岩の尖塔がそびえています。

「オールドマン・オブ・ストー(ストーの老人)」と呼ばれるこの奇岩は、高さ約50メートルの細長い玄武岩質溶岩。

写真左に少し傾いている様子が、遠くの海を眺めてたたずむ老人の姿に見えますね。

 

オールドマン・オブ・ストーがあるのは、グレートブリテン島北部、スコットランドの西海岸にあるインナー・ヘブリディーズ諸島のスカイ島です。

スカイ島の奇岩、オールドマン・オブ・ストーの位置(Googleマップ)

 

ちなみにスコットランドというのはイギリスを構成する国の一つで、元王国。

ご存知の通り、イギリスの正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」ですね。

イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国からなる連合王国ですので、スコットランドというのは国名に相当するわけです。

 

さて、オールドマン・オブ・ストー(以下、「ストーの奇岩」)の話に戻りましょう。

斜面に突き立つこの奇岩は、垂直に伸びるマグマの通り道が尖塔状に残されたものです。

 

この辺り一帯は玄武岩の溶岩に広く覆われた土地ですが、溶岩の噴出あるいは地表付近への侵入は、大昔から何度も繰り返し起こってきました。

ストーの奇岩は、地表付近で冷えて固まった古い溶岩の中に、後から入り込んできたマグマの通り道なのです。

 

そのマグマの通り道もやがて冷えて固まり、カチカチの玄武岩質溶岩になったわけですが、周囲の古い溶岩と比べてよりいっそう頑丈でした。

そのため、ここだけ風化から取り残されて現在まで残っているのです。

地すべりがストーの奇岩を運んできた

でも、ストーの奇岩が今のような姿になったのは、それだけが理由ではありません。

冒頭の写真に見られるもう一つの特徴、「なだらかな地形」にも着目してください。

 

ストーの奇岩から画面奥の湖(レザン湖と言います)や海に向かって、なだらかな斜面が続いていますね。

一見すると氷河によって削られた地形かと思いますが、この地形を作ったのは地すべりです。

ただし現在進行形の地すべりではなく、古代の地すべり。

 

「地すべり」というのは、山の斜面が非常にゆっくりと滑り落ちていく地形的な現象を言います。

移動の速度が遅いため、山が一気に崩れる斜面崩壊とは異なり、災害にはなりません。

 

実はスカイ島というのは決してなだらかな地形ではなく、最高峰のキュイリン山(標高992メートル)を中心に、島全体が険しい山岳地帯なのです。

にもかかわらず、海岸付近にこのようななだらかな斜面が広がっているのは、長年の地すべりによって山の斜面が崩れていったから。

しかも溶岩の風化によって比較的土壌もよく発達しており、地すべり地形の表面をさらに丸みを帯びた形状にしています。

 

そして、ストーの奇岩も最初からこの場所にあったわけではなく、どうやら地すべりによってここまで運ばれてきたようなのです。

尖塔の周りが崩れたようになだらかになっていること、そして、ストーの奇岩が少し傾いていることが、地すべりの影響を伺わせます。

 

なお、この辺りは標高450メートルほどですが、緯度が高いため森林が発達できず、高い木も生えていません。

それがまた、この独特の風景を作っているとも言えますね。

放射状に半島が伸びるスカイ島

ストーの奇岩があるスカイ島のことをもう少しお話ししたいと思います。

 

「スカイ島」という名前の由来ははっきりしていませんが、「スカイ」はゲール語で「翼」を意味するというのが有力な説のようです。

ですので、「翼の島」あるいは「翼の生えた島」という意味になりますね。

 

この説が正しいとして、どの辺りが「翼の島」なのかと言いますと、島の中心から放射状に伸びる半島が、翼に似ているのです。

放射状に半島が伸びるスカイ島の形状(Googleマップ)

 

ストーの奇岩がある場所も、そんな放射状に伸びる半島の一つ、トロッターニッシュ半島です。

島の北側に伸びており、半島の付け根辺りには美しい港町ポートリーがあります。

 

このトロッターニッシュ半島は、ストーの奇岩がある辺りだけでなく、半島全体が地すべりでできた地形。

そのほとんどは古代の地すべりで、すでに動きは止まっていますが、半島の先端の方にあるクイライングという場所だけは今も地すべりが進行中です。

そこでは毎年のように道路を修復しているそうです。

スカイ島はマグマ研究のメッカ

オールドマン・オブ・ストー岩の頂上からの風景
層状になった玄武岩質溶岩(©︎Robbie Shade / flickr

 

スカイ島は5000万年以上前の溶岩が大規模に噴出して島全体を覆っており、マグマ研究のメッカと言われています。

 

その代表的な研究テーマが、マグマの「分化(ぶんか)」と呼ばれる現象。

あまり聞き慣れない言葉ですが、マグマの成分が冷え固まる過程で分かれていく現象です。

 

古い地層の中に大規模に侵入して地表付近まで上がってきたマグマは、地層の面に沿って水平方向に厚く広がります。

そして、厚みのあるマグマほど冷えるまでに時間がかかり、ゆっくりと冷え固まって溶岩ができます。

 

この時、マグマは均質に冷え固まらなくて、固体になりやすい成分から順番に固まっていくのです。

すると、重力の作用で、先にできた固体部分はマグマの下の方に溜まります。

 

後に残ったマグマは、最初のマグマから固体部分を取り除いたものですから、成分が異なりますよね。

そこからまた、次に固体になりやすい成分が固まります。

そして下に溜まる。

 

このような繰り返しで、出来上がる溶岩が層状の構造に分かれるのです。

これがマグマの「分化」と呼ばれる現象。

 

上の写真はストーの奇岩の頂上付近から撮られた写真ですが、縞々の崖が見えていますね。

これが、マグマの分化によってできた玄武岩の層状構造です。

地すべりによって斜面が崩れることで、このようにきれいな断面が見えています。

 

マグマの分化は体積、温度、成分、熱の対流などが関係するとても複雑なプロセスで、まだまだ未知の部分が多い研究テーマです。

スカイ島はマグマの分化を研究する上で、最適な地域の一つなのです。

 

なお、地表付近に上がってくるマグマが小規模だと、すばやく冷え固まってこのような分化は起こりません。

また、地下の深いところでもっとゆっくりと冷え固まった場合には、玄武岩のような結晶の細かい溶岩ではなく、大きな結晶の粒からなる別の岩石になります(斑れい岩など)。

参考文献

場所の情報