どこまでも青く広がる海。
この海があるおかげで、私たちの地球は「水の惑星」と呼ばれ、宇宙から見ると青く輝いて見えるわけですね。
その水の量はあまりにも多すぎて、とてもなくなりそうにはありませんが、もし仮に海の水が無くなってしまったら、一体どんなことが起こるのでしょうか。
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① 人の住める土地が3倍に増える
もしもある日突然、海の水がなくなったら。
まず1番目は、「人の住める土地が3倍に増える」です。
海の面積は地球の表面の約70パーセントを占めています。
ということは、私たちが住むことのできる陸地というのは、残りの約30パーセントほどの面積。
つまり、全体の3分の1くらいなわけです。
もし海水がなくなれば海に覆われている部分も乾いた土地になる。
そうなると、私たちの住めそうな場所が3倍に増えるわけです。
土地がものすごく広がります。
また海がなくなれば、お隣の台湾、韓国、フィリピン、あるいは中国やハワイにも陸続きで行けるようになります。
道路がないのでなかなか大変ですが、がんばれば自動車でも行けるようになるのです。
こんな夢みたいな話をすると、「海底はデコボコし過ぎていて車なんて無理じゃないの?」と思うかもしれませんね。
それはその通りで、日本からハワイまで乾いた海底を通って行こうとすると、日本の東側には日本海溝というとても深い谷があって、かなり厳しい道のりになります。
谷の高低差は7000メートルにも及び、崖などの危険な場所もたくさん。
ところで、海の水がなくなった世界では、世界で一番高い山がハワイのマウナケア山になります。
私たちがよく知っている世界最高峰と言えば、ヒマラヤ山脈にあるエベレストですよね。
標高はおよそ8800メートル。
マウナケア山の標高は4200メートルほどですので、エベレストには遠く及びません。
しかし、海の下に隠れている裾野の部分まで含めると、マウナケア山の標高は何と約10000メートルにもなるのです。
ですので、海の水がなくなった世界ではマウナケア山が世界一。
ただし、この測り方は「裾野の一番下からの高さ」です。
海底面からの高さで比較すればエベレストももっと高くなるので、どちらが世界一かは測り方によるというわけです。
② お寿司が食べられなくなる
もしもある日突然、海の水がなくなったら。
2番目は、「お寿司が食べられなくなる」です。
海がなくなるわけですから、海で獲れる魚は全部なくなってしまいます。
お寿司のネタを見てみると、マグロ、サーモン、イクラ、ウニ、エビ、イカ、タコ、アナゴなど、海のものづくしですよね。
海の水がなくなったら、美味しいお寿司はもう食べられなくなるのです。
かっぱ巻きや卵焼きだけのお寿司なんて、やっぱり悲しい。
そして、お寿司と並んで日本人にとって大事なものは、お出汁(おだし)です。
うどんやお蕎麦のおつゆ、それからお味噌汁にも欠かせません。
日本食を代表するこのお出汁も、昆布や鰹節などの海産物で作るものです。
海の水がなくなるとお出汁もなくなる。
これはもう、日本の食文化の大ピンチです。
その他にも、私たちの日常の食卓には海で獲れるものが本当にたくさん並んでいます。
ワカメや海苔などの海藻類、シジミやアサリなどの貝類、カニ、エビなど、これら全部が海のもの。
結婚式のお料理に欠かせない伊勢海老や鯛も、お祝いの席から姿を消すでしょう。
さらに、海の水がなくなって魚がみんな死んでしまったら、かつて海底だった場所は魚の死骸でいっぱいになります。
ひどい悪臭で、しばらくは近づくのも大変だと思います。
③ 夏はもっと暑く、冬はもっと寒くなる
もしもある日突然、海の水がなくなったら。
3番目は、「夏はもっと暑く、冬はもっと寒くなる」です。
海の水がなくなると、各地で気温の変化も起こります。
水には「温まりにくく冷めにくい」という性質があるため、大量の水で満たされた海は、気温の変化を小さくしてくれているのです。
つまり、夏は暑くなり過ぎないように、冬は寒くなり過ぎないように、調整されているわけですね。
どういうことか、もう少し詳しく見てみましょう。
大陸や海底を造っている岩石は、水に比べて温まりやすいし冷めやすい。
「水に比べて」というところが重要です。
この性質によって、夏は、陸よりも海の方が冷たい(温度が低い)。
逆に冬は、陸よりも海の方が温かい(温度が高い)。
水の方が温まりにくく冷めにくいのですから、このようになりますよね。
ということは、夏は海の水が陸の温度を下げてくれ、冬は海の水が陸の温度を上げてくれる。
これが、海があることで夏と冬の気温の差が小さくなる理由です。
それから、海水の流れである「海流」も、気温を調節する大切な役割を果たしています。
地球上の熱は、海流によって効率よく分散されているからです。
例えば日本の南の方、赤道に近い場所は、とても暑いですよね。
そこの海水は他よりも温かいわけです。
この温かい海水が、赤道の辺りから北(あるいはさらに南)の寒い地方へ流れることで、海流と一緒に熱が運ばれます。
このようにして、赤道付近の熱は地球にまんべんなく広がっていって、赤道と北極(あるいは南極)との気温差をできるだけ小さくしてくれているのです。
赤道と北極では気温が全然違うと感じるかもしれませんが、もし海の水がなくなってしまったら、赤道はもっと暑く、北極や南極はもっと寒くなるのです。
④ 雨が降らなくなる
もしもある日突然、海の水がなくなったら。
4番目は、「雨が降らなくなる」です。
雨というのは雨雲から降ってくるわけですけど、雲ができるためには、水が蒸発して水蒸気が空高く上っていかなくてはなりません。
そして、雲を作っている水蒸気のほとんどが、海から蒸発したものなのです。
川や湖など、陸地から蒸発した水蒸気というのももちろんありますが、海からのものと比べればその量はわずか。
ですので、海の水がなくなると雲はほとんどできなくなり、雨も降らなくなるのです。
雨が降らない。
これは恐ろしいことです。
ものすごく乾燥した世界になります。
しばらくは川の水や湖もありますが、やがてそれらも涸れて干上がってしまうでしょう。
水がなければ草木も育ちません。
農作物は全滅し、世界中が大飢饉になります。
緑豊かだった森林は岩や砂だらけの乾燥地になるでしょう。
枯れ木は燃えやすく、あちこちで森林火災が発生するかもしれません。
こうして世界中が極限の水不足に襲われることになります。
雨が降らなくなった世界では、残された水は地下水と氷河からの雪解け水くらい。
地下水と氷河をいかに確保するかが生き残るための勝負になってきます。
⑤ 空気が薄くなる
もしもある日突然、海の水がなくなったら。
5番目は、「空気が薄くなる」です。
海の水がなくなると、空気が薄くなる。
なぜかというと、海底面の気圧が「1気圧」になるからです。
「1気圧」というのは、今私たちが住んでいる場所のおおよその空気の重さ(あるいは濃さ)です。
別の言い方をすると、水が摂氏100度で沸騰するときの空気の重さ、とも言えます。
低気圧とか高気圧とかありますが、細かいことは気にせずざっくりと「1気圧」と思ってください。
さて、海水面に近い場所では約1気圧ですが、そこから標高が上がるにつれて気圧は下がり、高い山の上ではもっと下がります。
「空気が薄い」というのは、気圧が1気圧よりも随分と低い状態のこと。
では海の水がなくなるとどうなるかと言いますと、それまで海水面の高さにあった空気が、重力に引っ張られてどんどん海底面に向かって移動して行くのです。
低いところに集まるようになるわけですね。
その結果、海底面の辺りが新しい「1気圧」の場所になる。
すると、私たちの住んでいる場所の空気は薄くなってしまいます。
海底の平均深さは大体4000メートル前後ですので、単純に考えれば、私たちが現在住んでいる場所は標高4000メートル以上の高山地帯になるわけです。
富士山の高さが約3800メートル。
富士山の頂上よりも高いですね。
富士山の頂上の空気が薄いように、海の水がなくなった世界では、私たちの今住んでいる場所の空気が高山地帯のように薄くなるのです。
⑥ メタンの温室効果で気温が上がる
もしもある日突然、海の水がなくなったら。
6番目は、「メタンの温室効果で気温が上がる」です。
実は海底下、つまり海の底の地層には、固体のメタンがたくさん埋まっていることがわかっています。
「メタンハイドレート」と呼ばれるこのような固体のメタンは、メタン分子と水分子がくっついて氷みたいな塊になったもの。
溶けるとメタンガスが発生します。
固体のメタンハイドレートが気体のメタンガスに変わるには、ちょっとしたきっかけがあれば十分。
少しだけ海底の水温が上がるか、または海底から引き上げて水圧を低くすればすぐに気体に変わってしまうのです。
もし海の水がなくなれば、海底の水圧はゼロになります。
例えばメタンハイドレートが埋まっている水深1000メートル辺りの水圧というのは、おおよそ100気圧。
これだけの高い圧力でギュッと押さえられているから、メタンハイドレートは固体のまま固まっていられるわけです。
それなのに海水がなくなって水圧がゼロになってしまったら、メタンハイドレートはもはや固体のままではいられません。
どんどんメタンガスに変わって大気中に放出されてしまうのです。
メタンガスは水蒸気や二酸化炭素と同じく、温室効果ガスの一種。
メタンガスが大気中に増えれば、大気はより効率よく赤外線を吸収・再放出できるようになり、その結果地表の温度が高くなるのです。
メタンハイドレートが海底にどれくらい埋まっているかはまだよくわかっていませんが、世界各地の海でどんどん新たなメタンハイドレートが発見されています。
しかも、メタンハイドレートは「ふた」みたいなもので、実は地下深くには固体になっていないメタンガスがもっと大量にあるとも考えられています。
⑦ 未知の巨大生物が発見される……かも
もしもある日突然、海の水がなくなったら。
7番目は、「未知の巨大生物が発見される……かも」です。
海の底にはまだ知られていない巨大生物がいるかもしれない、ということですね。
なぜそんなSFみたいなことが言えるかというと、理由は2つあります。
一つ目の理由は、原理的に陸上よりも海の方が生物が巨大化しやすいから。
生物の進化を考えるとき、海の中の方が大型動物が自分の体重を支えやすいので、巨大化しやすいというわけです。
実際、この地球において史上最大の動物はシロナガスクジラです。
大きいものだと体長30メートル以上。
シロナガスクジラは、恐竜をはじめとする絶滅した過去の大型動物も含めて、最大の動物だと考えられているのです。
恐竜の中には首と尻尾がすごく長い巨大なものもいますよね。
しかし、化石の証拠からわかっているものとしては、彼らも30メートルには達していなかったようです。
このようにシロナガスクジラの例から見ても、海の中は陸上よりも生物が巨大化しやすいと考えられるのです。
そして、海の底から未知の生物が見つかるかもしれないもう一つの理由は、海には人類が到達していない未知の領域が多すぎるから、です。
地球の表面の約70パーセントが海という話をしましたが、その広大な海の中で海底が調べられているのは、まだ20パーセントにも満たないと言われています。
現在も積極的に調査が進められているのでこの数字はだんだんと大きくなっていくと思いますが、海底の80パーセント以上が未知の世界というのは驚きです。
しかも、海の中で生物が住んでいるのは、海底だけではありません。
たとえ海底がくまなく調べられたとしても、海は深さ方向にも広がっているのです。
海の深さは平均で4000メートル前後ですが、200メートルより深くなると光が届かなくなり真っ暗な世界になります。
海底から上を見上げても、地上で空を見上げるように遠くまで見渡せるわけではないのです。
だから、海の中というのは人類にとってまだまだ未知の世界。
海は陸上よりも動物が巨大化しやすいこと。
海は人類にとって未知の世界であること。
この2つの理由から、海の水がなくなったときに、もしかしたら未知の巨大生物が見つかるかもしれないと考えられるのです。
⑧ 火山活動が活発な大山脈が出現する
もしもある日突然、海の水がなくなったら。
8番目は、「火山活動が活発な大山脈が出現する」です。
海底には、海嶺と呼ばれるものすごく長い海底山脈があります。
例えば、大西洋の真ん中を走る大西洋中央海嶺もその一つ。
アイスランドより北の北極海から、アフリカ大陸南端よりもずっと南の南極海の辺りまで、ほぼ南北方向に延々と伸びています。
そして、大西洋中央海嶺はただ長いだけではありません。
地下深くからは熱いマントルの岩石が上昇してきていて、海底山脈全体がマグマを生み出す火山になっているのです。
このような海嶺はインド洋や太平洋の東部、南極大陸の近くにもあって、いずれも火山活動の活発な長大な海底山脈を形成しています。
しかも、これらは端と端が互いにつながっていて、一連の超巨大山脈になっているというからさらに驚きです。
大西洋中央海嶺だけでも長さ1万5000キロメートルほどもあるのですが、全ての海嶺を合わせると、およそ6万キロメートルから8万キロメートルにもなると言われています。
地球の一周の長さが約4万キロメートルですので、地球1.5周から2周分の長さ。
地上の山脈からは想像もできないほどの巨大な山脈が、海の水がなくなったら海底から現れることになるわけです。
そして、その巨大山脈からはマグマが流れ出したり、噴煙が上がったり、絶えず活発な火山活動が続いているという状況。
海嶺の標高は、海底面からの高さで2000メートルから4000メートルほどですので、陸上で言えばヨーロッパのアルプス山脈や南アメリカのアンデス山脈くらいの迫力があります。
ここまでのまとめ
以上、今回は「もしもある日突然、海の水がなくなったら」ということで、下記の8つのポイントについて見てきました。
- 人の住める土地が3倍に増える
- お寿司が食べられなくなる
- 夏はもっと暑く、冬はもっと寒くなる
- 雨が降らなくなる
- 空気が薄くなる
- メタンの温室効果で気温が上がる
- 未知の巨大生物が発見される……かも
- 火山活動が活発な大山脈が出現する
その結果、こんな暮らしになるかも
これまで見てきたように海の水がなくなったらいろんなことが起こるわけですが、海の水がなくなった世界でも人類が存続できたとしたら、一体どんな暮らしになるのか。
その辺りについても、最後に予想してみたいと思います。
水の完全なリサイクル
海がなくなってしまった世界では雨が降りませんので、水が本当に貴重になります。
水は放っておいたら蒸発して水蒸気になり、どこかへ飛んでいってしまいますね。
まずはこれをなんとか食い止めなくてはなりません。
そこで、水蒸気を逃さないドーム生活になるのではないかと思います。
私たちが住む町全体がすっぽりと入るような巨大なドームを作って、その中で生活する。
植物園の温室みたいなものです。
さらに、そのドームの中で生活用水はすべて完全にリサイクルする。
一度使った水も、ドームの外に捨ててはいけません。
きれいにして使う。
農業は乾燥地方で利用されている点滴式の灌漑農法にして、少ない水で栽培できるようにする。
「ポタッ、ポタッ」という感じで水をたらすような、そういう栽培方法です。
なお、こういったドームはかつての陸地に作るのが良いでしょう。
海の水がなくなった後は、かつての陸地は空気が薄くなってしまいますね。
だからむしろ空気の濃い乾いた海底に作る方が良さそうに思えますが、そこは塩だらけの土地になっていて、農作物が育ちません。
空気が薄くても塩の被害がない、今住んでいるこういった陸地にドームを作る方がいいのです。
どうせドームですから、ドームの中だけ空気を濃くすれば大丈夫です。
地下水と氷河の確保
リサイクルするだけではなく、地球上にある水をできるだけ多く確保しておく必要があります。
地下水が湧き出ている場所は特に貴重ですので、ドームで囲って保護するのがいいでしょう。
湧き水はドームの中で循環させ、人工の川を作ります。
北極や南極はもっと寒くなるでしょうから、急いで氷河の氷を確保しなくても大丈夫です。
そのまま氷の形で保管しておきましょう。
しかし、もう少し緯度の低い場所にある氷河は溶ける恐れがあるので、雪解け水や溶ける前の氷を確保しておかなくてはなりません。
アルプス山脈やヒマラヤ山脈、アンデス山脈などですね。
マントルから水を取り出す
たくさんの水を確保したとしても、将来的には水不足に悩まされることになるでしょう。
海の水というのは地球全体の水の約97.5パーセントを占めており、陸地に残されている水とは比較にならないほど圧倒的な量なのです。
この埋め合わせをするにはどうすればいいか。
そこで、生き残った人類はマントルの岩石から水を取り出す技術を発達させると思います。
実は地球の内部のマントルには、地球が形成された時に大量の水が取り込まれているのです。
とは言っても、地下水のような形でマントルに液体の水が大量にあるわけではありません。
マントルの中の水というのは、岩石の一部として存在しているのです。
一つ例を挙げますと、マントルを造る岩石にはリングウッダイトという鉱物が入っているのですが、この鉱物は重さにして約1パーセントの水分子を含んでいることがわかっています。
そして、このような岩石中の水というのは、マントル全体で海の水の0.5倍から5倍もの量があると見積もられているのです。
マントルの岩石は深すぎて、現在の技術ではまだ掘ることができません。
しかし、海の水がなくなって極度の水不足になった世界では、人類は新たな水を生み出すために、必死でマントルの岩石を掘り出すようになるのではないかと思います。
以上、今回は「もしもある日突然、海の水がなくなったら」ということでお話ししてきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
- ナショナルジオグラフィック | 海底下に潜む多数のガス貯留層 温暖化の時限爆弾(2020年1月13日)
- ナショナルジオグラフィック | 定説くつがえす 史上最長26メートルのクジラ化石(2019年5月9日)
- ナショナルジオグラフィック | 深海底の地図を作る国際コンペ、日本チームが準優勝(2019年6月17日)
- 河合塾 みらいぶプラス | 地球の誕生と進化の鍵は水~地球上の水はどこから来て、どこへ行ってしまったのか
もっと知りたい人のためのオススメ本
『もしも、地球からアレがなくなったら?』渡邉克晃・室木おすし(文友舎,2021)