外務省ホームページより

 

「SDGs」というキーワードは、学校教育と実社会との接点を強めるすばらしいチャンスになります。

私は、学校でしか学べない事というのが、確かにあると考えています。

そして、SDGs教育の中で最も鍵になるのが、「実社会と関係ないからあまり重要じゃないんじゃないか」と言われてきた、理科や社会だと思うのです。

今回は学校におけるSDGs教育について、考えてみたいと思います。

 

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通常学習とSDGsをいかにつなげるか

「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉、かなり馴染みが出てきたところだと思います。

学校教育の中でもこのSDGsを取り入れようと、様々な取り組みが始められています。

 

SDGsとは、持続可能な社会の実現を目指して、国際的に取り決められた17個のゴール(下図参照)のことです。

これらのゴールを、みんなで協力して達成していこう、持続可能な社会を作るために達成していこう、としているわけです。

 

この表を見ると、貧困とか飢餓とか、保険とか教育とか、そういった言葉が並んでいますね。

これらの課題が17個のゴールで、それぞれの内容はもっと細かく示されています。

 

SDGsの取り組みは、2030年が期限。

それまでに「実際的な行動をやりましょう」ということで、学校教育の現場でも、授業や課外活動として取り入れるようになってきています。

SDGs教育をするということは、国としてはまさに、「実際的な行動」なわけです。

 

でも、学校の先生の現状は、とても厳しい。

毎日の学校の業務がとても忙しくて、新しいことにオールインして取り組む、あるいは多大なリソースを割くというのは、非常に困難です。

 

ですから、大事なのは「ゼロから新しい取り組みを始める必要はない」という点だと考えています。

 

今現在、学校教育の中で教えている科目(教科学習)の中には、SDGsのゴールに合致しているものがたくさんあるわけです。

例えば社会科で「食料自給率」を学ぶのですが、SDGsの17のゴールの中では、貧困とか飢餓に強く関連します。

あと、食料に関する海洋資源、陸上資源ともダイレクトにつながりますね(下図参照)。

 

また「戦争と平和」という学習内容であれば、SDGsの中の10番「不平等」、16番「平和」、17番「実施手段」などが関連します。

「実施手段」とは、簡単に言えば国際的な協力が必要ということ。

このように、SDGsと学校の授業とは密接につながっているのです。

 

理科についても見てみましょう。

理科であれば、気候とか気象を学びます。

 

気候や気象に関しては、SDGsの13番に「気候変動」というテーマが入っているので、こことダイレクトに関わってきますね。

そして気候・気象というのは、海洋資源、陸上資源にも関わってくるところです。

世界各地の気候ごとに、どのような植物が育つのか。

そして、気候変動によってどのような変化が起こって、食料問題につながっていってしまうのか。

 

そういうところを授業で考えるならば、SDGsの「陸上資源」「海洋資源」に非常に合致していると言えるでしょう。

 

また、小学校高学年に「生き物と環境」という単元があるのですが、ここでは地球上の水について学びます。

これはSDGsの「水・衛生」と合致する内容です。

もちろん環境について学ぶことは、先ほど出てきた「陸上資源」「海洋資源」を考えることにもつながりますね。

 

こうして見てくると、学校で行われている普段の授業というのは、もともとSDGsと重複している部分がたくさんあることがわかります。

「SDGsとは何か」みたいな前段部分の内容は、ある程度まとまった時間でやる必要がありますが、個々の課題については、通常学習で十分にカバーが可能ということです。

 

ただ、テーマが重複しているとは言え、学習方法には注意する必要があります。

教科書の暗記ではSDGsを主体的に考えることにはなりませんので、教師から適切な問いかけをし、テーマを深掘りして考えていく必要があるでしょう。

 

いずれにしても、今やっている学校の授業は、本当に意味のある大事なことやっているわけなので、それとSDGsをいかに結びつけられるか。

そこだけだと思います。

 

そうすることによって、学校の先生方の貴重なリソースを大幅に割かなくても、効果的なSDGs教育ができるのではないかと考えています。

SDGsは実社会と学校との橋渡しになる

私がSDGsに期待しているところは、「実社会との橋渡しになる良い機会なのではないか」という点です。

 

学校教育というのは色々と誤解されやすい面がありますが、その代表的なものとして、「学校の先生は社会のことを知らないんじゃないか」という意見があります。

社会に出ずにずっと教育現場にいて、実社会で通用するような知識や方法を子供たちに教えられるのか。

そういう意見です。

 

また、学校はアナログ的であって、ちょっと古臭くて、今の時代からだいぶ遅れているんじゃないか。

そういった意見もあるでしょう。

 

学校や学校の先生方は、このように見られてしまうことがある。

もちろん、そうでない学校も先生方もいらっしゃるわけですが、何となく世間の風潮としては、社会の最先端はビジネスマンであったり、テック企業であったり、政府であったりするわけです。

 

果たして、学校教育は実社会で役に立たないのか。

 

もちろんそんなことはないですよね。

学校で学ぶことが子供たちの人格をバランスよく広げてくれますし、体系的な知識も身に付けさせてくれます。

学校は、子供たちが社会に巣立っていくための準備をする、大切な期間になっているのです。

 

でも教育に関しては本当にいろんな方が持論を持っていまして、例えば起業家や投資家の方からは、「お金の教育をもっと学校でやるべきだ」などとよく言われます。

あとエンジニアの方であれば、「プログラミングをもっとやるべきだ」と思うかもしれません。

 

つまり、実生活・実社会の中で役立つかどうかというのが、学校教育に対する世の中の非常に強い関心事になっているわけです。

これには「大学受験に役立つか」も含まれてきます。

 

こういった背景の中で、私は今回のSDGsというキーワードが、学校教育と実社会との接点を強める素晴らしいチャンスになるのではないかと考えています。

 

SDGsは国際的な取り決めの中で、世界中が持続可能な社会に向けて頑張っていこう、実際的な行動をしていこう、という社会の動きなわけです。

この社会の動きに沿った形で学校教育をやっていく。

 

これはまさに、社会との接点を強めることになるわけですね。

実際の社会で役立つ教育へと、どんどん深まっていく可能性があるということです。

教養の価値が再認識される時代

さらにもう一歩深めて考えてみたいと思います。

企業とか社会というのは、一体何を求めているのか。

 

よく言われる言葉が「イノベーション」です。

「刷新」とか「革新」とか、「一新」とか訳される言葉ですね。

「全く新しくする」という意味合いから、「イノベーション=新しい価値の創造」と言うこともできます。

 

イノベーションという言葉はいろんなところで使われていますし、人、あるいは企業によってそれぞれ持っているニュアンスが違うので、ここでは単純化した話として聞いてください。

 

イノベーションとは何か。

それは、「競合他社にはない製品やサービスを作り出して、一人勝ちすること」。

かなり単純化していますが、これが私の考えるイノベーションの意味であり、企業や社会が求めているものだと考えています。

 

例えばスマートフォンに関するテクノロジーであれば、iPhoneを開発したApple社が一人勝ちしていますね。

小売業(販売のプラットフォーム)であれば、amazonが一人勝ち。

そして、検索エンジンであればGoogleが一人勝ちしています。

 

このように、何か他社が考えつかないようなものを生み出して、新しい価値を創造して、一人勝ちすること。

これがイノベーションであって、企業や社会が求めていることだと考えています。

 

イノベーションを起こすには、今の「問題ありき」の思考法では足りません。

つまり、当たり前のように「解決すべき問題が目の前にある」と言う時代ではないと言うことです。

 

何か問題があって、その問題を解決する。

以前はこれが学校の勉強であり、社会人の仕事でした。

 

しかし今は、「何が問題なのか」を問うところから始めなくてはなりません。

製品やサービスに対する「新しい意味」を生み出さなくてはなりませんし、人々のニーズを満たすだけではなくて、新しいニーズを生み出さなくてはなりません。

イノベーションを起こすには、「意味の探究」が必要になるのです。

 

私自身はそういった製品開発・サービス開発をしていないので、あまり偉そうなことは言えないのですが、単純化すればこのように考えることができると思います。

 

先ほど、「学校でもっとお金の教育をするべきだ」という起業家・投資家からの意見を紹介しました。

企業にとっては利益を出すために必要な知識ですし、個人レベルであっても、経済的に豊かになるにはお金の教育が有効なわけです。

 

私も、非常に大事なことだと思います。

全員が子供のうちから、お金の教育を受けるべきだと思います。

財務諸表も読めるようになるべきです。

 

けど、これらはある意味で、「最低限必要なこと」として学ぶべきだと思うのです。

これから先、企業・社会が学校に求めるようになる勉強は、こう言うことではない。

なぜかと言うと、ここからはイノベーションが生まれないからです。

 

利益を出す、利益を生む方法は確かに大切ですが、それについては非常に多くの専門家がいます。

経営コンサルタント、経営アドバイザー、ビジネスプロデューサーと呼ばれる人たちが実際的に教えてくれますし、彼らにきちんとした報酬を支払うことで、着実に企業の業績は上がっていきます。

 

ある意味で、「お金を払えば手に入るノウハウ」になってしまっているわけです。

具体的には、経営とかマーケティング、それから心理学といった知識ですね。

「人々は一体何を欲しているのか」と言う心理学的な知識も、企業は活かしています。

 

しかし、「お金を払えば手に入るノウハウ」であれば、当然「一人勝ち」にはなりません。

これらの知識では他社と差別化ができず、イノベーションは起こせない。

そう言う時代だということです。

 

ではこれから先、企業・社会が学校教育に求めるようになるのは、一体どんなことなのか。

 

それは、幅広い「教養」です。

まさにこれまで学校で教えてきたこと、「実生活や実社会に関係ないのではないか」と言われてきたこと、その部分こそが、ますます大事になってくると思うのです。

 

理科とか社会科が特にそうです。

音楽や美術もそうでしょう。

 

「実社会で役に立たない」、あるいは「受験に役立たない」と思われがちな理科や社会。

でも理科や社会科というのは、実社会を理解する上で非常に重要な教養になるわけです。

 

理科を知らなければ自然のことがわかりません。

自然界のこと、地球のこと、わからないわけです。

 

例えば、SDGsで語られている「持続可能な社会」を作っていく中で、自然界や地球のことを知らなければ、どうやってそれに取り組めばいいのでしょうか。

SDGs教育の中で最も鍵になるのが、今まで実社会と関係ないからあまり重要ではないと言われてきた科目、理科や社会なのです。

 

幅広い「教養」こそ、これから先、企業や社会がますます求めるようになる知識です。

体系的でバランスの取れた幅広い教養は、学校でしか学べません。

独学では偏ります。

 

企業も学校も、学校教育に期待されていることが何なのかをしっかりと見据え、その価値を大切にしていって欲しいと思います。