南オーストラリアの浜辺で採取した珪砂
南オーストラリアの浜辺で採取した珪砂(©︎James St. John / flickr

 

ガラスの原料は透明な砂

建物の窓ガラスや自動車のガラス、スマートフォンの画面など、私たちの生活に欠かせないガラス製品の数々。

透明でツヤがあり、とても美しいですね。

 

ガラスのおもな原料は、珪砂(けいしゃ)、ソーダ灰(ばい)、石灰石の3つで、いずれも地下から採れる鉱物資源です。

このうち珪砂が、原料のおよそ70%ほどを占めます。

 

珪砂というのは、二酸化ケイ素でできた透明な砂。

鉱物名は石英と言い、大きくて形の良いものは宝石の水晶となります。

 

言い換えれば、水晶を細かく砕いた透明な砂が珪砂であり、これがガラスの主成分ということです。

水晶とガラス、どちらも透明で見た目がよく似ていますが、成分もほぼ同じなのですね。

 

また、ソーダ灰というのは工業薬品としての炭酸ナトリウムの呼び名で、鉱物名で言うと、トロナ(重炭酸ソーダ石)やナトロン(ソーダ石)という鉱物が該当します。

石灰石は、先述の通り炭酸カルシウムの鉱石でしたね。

 

これらを混ぜ合わせて1500℃ほどの高温で溶かし、熱いまま(1200℃〜800℃)で成形しつつ徐々に冷ましていくことで、あの美しいガラス製品が生まれるのです。

 

ちなみに珪砂だけでもガラスはできますが、その場合は溶融過程でさらなる高温(約2000℃)が必要になり、成形もしにくいというデメリットがあります。

そこで、ソーダ灰や石灰石を混ぜることでガラスの溶ける温度(軟化点)を低くし、成形しやすくしているのです。

日本の珪砂鉱山はちょっと特殊

ニュージーランドの珪砂ビーチ
ニュージーランドの珪砂ビーチ(©︎EmmaElf / flickr

 

日本の場合、ガラスの主原料である珪砂はオーストラリアやマレーシアなどから大量に輸入されていますが、国内産の珪砂が全くないわけではありません。

日本にも愛知県や島根県に珪砂鉱山があって、しっかりと工業用原料として、ガラスメーカーに珪砂を供給しているのです。

石灰石のように国内自給率100%とまでは行きませんが、珪砂もまた、国内で自給できる鉱物資源なのですね。

 

さて、そんな日本の珪砂鉱山ですが、海外の珪砂鉱山とはちょっと様子が異なります。

端的にいうと、日本の珪砂鉱山は「山砂」で、海外のものは「海砂」。

 

オーストラリアなどの珪砂鉱山では、海岸の砂浜で珪砂を採掘したり、あるいは水面下に溜まった珪砂をごそっとかき集めたりしています。

つまり、今まさに珪砂が集積している場所で採掘しているわけですね。

できたてホヤホヤの、新しい地層からなる珪砂鉱山というわけです。

 

これに対し、日本の珪砂鉱山では、山を切り崩して珪砂を採掘しています。

掘り起こしている地層は約2300万年前以降にできたもので、地質学的には決して古い地層ではありませんが、オーストラリアの珪砂鉱山のような現生の地層と比べれば、随分と時代が異なるわけです。

日本の場合、元々は水辺などで集積した珪砂の地層が、長い年月のうちに山となって、現在「山砂」として採掘されているという状況です。

花崗岩の風化によって珪砂が集積する

広島県宮島町、弥山(みせん)山頂の花崗岩と真砂
広島県宮島町、弥山(みせん)山頂の花崗岩と真砂(Public domain / Wikipedia

 

これまで一口に「日本の珪砂鉱山」と言ってきましたが、地域によってもそのでき方は異なります。

日本で最も代表的な愛知県の珪砂鉱山は、河川によって運ばれてきた珪砂が、河口付近の低地や湖に集積することでできました。

 

では、その珪砂はいったいどこから運ばれてきたのでしょうか。

どこかに水晶の山があって、細かく砕けた水晶のかけらが雨に流され、河川を流れ下ってきたのでしょうか。

 

実は、珪砂の起源は花崗岩というありふれた岩石です。

花崗岩というのは、石英、長石、黒雲母などの鉱物からなる白っぽい岩石で、建築材料として広く使われているもの。

この花崗岩が風化すると、石英などの鉱物がバラバラになって「真砂(まさ)」と呼ばれる淡い黄土色の砂ができます。

 

真砂の中の石英ばかりが集積すれば珪砂ということになりますが、真砂には長石や黒雲母も含まれていますので、このまま河川によって運ばれても珪砂鉱山はできません。

ここで大切になってくるのが、鉱物ごとの「風化のしやすさ」です。

 

どういうことかと言いますと、石英はとても風化しにくい鉱物で、長石や黒雲母は比較的風化しやすい鉱物だということ。

ですから、雨や河川の水に長い時間さらされることで、長石や黒雲母はだんだんと溶けていってしまいます。

 

 

したがって、風化の進んだ真砂では石英の割合が大きくなり、珪砂に近い砂ができるのです。

 

ただ、長石も黒雲母も、水に溶けて完全になくなってしまうわけではありません。

特定の元素が水に溶け出すことで「粘土鉱物」と呼ばれる微細な鉱物に変化し、水と一緒に河川を流れていきます。

また、粘土鉱物にならずに、長石や黒雲母の細かい粒子として流れていくものもあるでしょう。

 

このように、石英以外の鉱物が完全になくなってしまうわけではありませんが、風化のしやすさの違いによって石英はほぼ無傷で残り、その他の鉱物は小さくなっていきます。

すると、粒子の大きさの違いで、これらの鉱物は分かれて集積することになります。

 

大きい粒子の方が水に沈みやすいので、河口付近では石英ばかりが集積するわけですね。

細かい粒子は沈澱しにくく、より遠くまで流されていきます。

このようにして、珪砂鉱山ができていったのです。

 

なお、愛知県の珪砂鉱山には、花崗岩だけでなく変成岩に由来する珪砂も集積しています。

この辺りの変成岩は砂や泥でできた堆積岩がマグマの熱によって変化したもので、それらが風化することで、花崗岩の場合と同じように石英だけが集積していきました。

 

珪砂の起源が花崗岩や変成岩ということは、ガラスの原料がこれらの岩石に由来しているということです。

ガラスもまた、石から作られた身近な材料なのですね。

参考文献

コトバンク『ガラス』『ソーダガラス

日本板硝子『ガラスについて調べてきたよ』『総合カタログ 技術資料編

青柳宏一『塩水起源の鉱物と金属資源』堆積学研究70,15-24(2011).

株式会社トウチュウ『珪砂事業(国内砂、輸入砂)

三菱商事『第6回 珪砂採掘事業

野見山邦洋『ソーダ石灰珪酸塩ガラスに用いる天然珪砂の起源』New Glass 30,39-44(2015).

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
Amazon | 楽天ブックス

※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

ガラスの主原料は風化が生んだ透明な砂(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)