「白華(はっか)」と呼ばれるコンクリートにできたつらら。このような現象を「白華現象」または「エフロレッセンス」と言う。
「白華(はっか)」と呼ばれるコンクリートにできたつらら。このような現象を「白華現象」または「エフロレッセンス」と言う(©︎Jnn / Wikipedia, CC BY 2.1 jp

 

コンクリートにできる炭酸カルシウムのつらら

コンクリート製の橋の下やマンションの壁などに、鍾乳石に似た白っぽいつららができていることがあります。

これは「白華(はっか)」と呼ばれる炭酸カルシウムのかたまりで、コンクリートの成分が雨水に溶けてしみ出し、空気中の二酸化炭素と反応して固体になったものです。

水が滴り落ちるコンクリートの下面ではつらら状になり、割れ目などから水がしみ出している壁面では、水の流れた跡に沿ってでこぼこした盛り上がりができます。

 

白華は見た目が鍾乳石とよく似ているだけでなく、実は成分も同じ。

どちらも炭酸カルシウムでできています。

 

と言うことは、「白華はコンクリートにできた鍾乳石」と言えそうですが、白華と鍾乳石ではでき方が異なるため、やはり別物なのです。

それぞれのでき方を比較するために、まずは白華のでき方から見ていきましょう。

 

白華の元になっているコンクリートというのは、セメント、水、砂、砕石を混ぜて固めたものです。

コンクリートが硬化する過程でセメントと水からケイ酸カルシウムと水酸化カルシウムができるので、硬化後のコンクリートというのは、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、砂、砕石でできていることになります。

 

これらの成分の内、白華は水酸化カルシウムから作られます。

いろんな化学物質の名前が出てきてちょっとややこしいですが、鍾乳石と比較する上で大切なのは、「水酸化カルシウム」からできた炭酸カルシウムであるということ。

 

水酸化カルシウムは水に溶けやすいので、雨水などがあるとそこに溶け込んでしまいます。

そして割れ目に沿ってコンクリートの表面まで出てきた水酸化カルシウムは、今度は空気中の二酸化炭素と反応して(くっついて)、水に溶けにくい炭酸カルシウムへと変化するのです。

こうして鍾乳石に似た白華ができあがるというわけです。

鍾乳石と白華の違い

石垣島鍾乳洞(沖縄県石垣市)
石垣島鍾乳洞。沖縄県石垣市(©︎663highland / Wikipedia, CC 表示 2.5

 

次に鍾乳石のでき方ですが、白華が水酸化カルシウムからできるのに対し、鍾乳石は、「炭酸水素カルシウム」からできます。

こちらについても、もう少し詳しく見ていきましょう。

 

鍾乳石の元になっているのは、石灰岩という岩石です。

石灰岩は、白華や鍾乳石と同じく炭酸カルシウムでできた岩石。

この石灰岩が分布する土地に雨が降ると、地表からしみ込んだ雨水が石灰岩を溶かし、地下に空洞を作って、その壁面に鍾乳石ができて鍾乳洞となります。

 

さて、先ほど白華のところで、炭酸カルシウムは「水に溶けにくい」と言っていたのに、どうして石灰岩は雨水に溶けてしまうのでしょうか。

それは、地下の石灰岩に到達する雨水には空気中や土壌中の二酸化炭素が溶け込んでいて、弱いながらも酸性の水になっているからです。

 

石灰岩(炭酸カルシウム)は酸性の水に溶けやすく、二酸化炭素入りの雨水に触れると「炭酸水素カルシウム」という物質になって、水に溶けてしまいます。

そして、石灰岩が溶けてひとたび地下に空洞ができると、その壁面には炭酸水素カルシウムを含んだ地下水がしみ出してくるようになる。

そうすると、空洞の中の空気は土壌中に比べて二酸化炭素の濃度が低いので、空洞の壁面にしみ出した地下水からは二酸化炭素が逃げていき、炭酸水素カルシウムは再び炭酸カルシウムに戻って壁面で固まってしまいます。

 

これが大まかな鍾乳石のでき方です。

重要なのは、「炭酸水素カルシウム」からできたものであるという点。

 

まとめると、白華も鍾乳石も同じく炭酸カルシウムでできていますが、白華は「水酸化カルシウム」が二酸化炭素とくっついてできた炭酸カルシウム。

これに対して鍾乳石は、「炭酸水素カルシウム」から二酸化炭素が抜けてできた炭酸カルシウム。

よく似ていても、このようにでき方に違いがあるのですね。

コンクリートの強度に問題はないけれど

コンクリート建造物にできた白華と鉄錆色。
コンクリート建造物にできた白華と鉄錆色(©︎Nikola Smolenski / Wikipedia, CC BY-SA 3.0 rs

 

なお、コンクリートに白華ができているからといって、そのコンクリートの強度が著しく低下しているということはありません。

セメント成分が割れ目に沿って少しずつ溶けているのは確かですが、それはほんの表面だけのことで、建造物全体の強度に影響を及ぼすほどのものではないからです。

 

ですが、比較的多くの白華が見られる場所では、コンクリートの内部で鉄筋が錆び始めている可能性があります。

その目安となるのが、白華の色。

 

白華の一般的な色は半透明のきれいな白色ですが、しばしば淡いベージュ色、黄土色、赤褐色など、色の付いたものもあります。

着色の原因として考えられるのが、鉄筋に由来する鉄錆の混入です。

ですので、赤褐色など色の濃い白華が見られる場合は、コンクリートの中の鉄筋が劣化している可能性が高く、注意が必要となります。

参考文献

北工房『エフロレッセンス(白華現象)は危険か、危険ではないのか』(2020年1月22日)

株式会社さくら事務所『マンション外壁の白い染み、エフロレッセンスの原因と対策』(2020年10月19日)

久保田セメント工業『白華(エフロレッセンス)とは

住友大阪セメント『コンクリート表面の白華現象

京都青少年科学センター『鍾乳洞のでき方

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

コンクリートにできる鍾乳石のようなつららの正体(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)