2009年の桜島南岳噴火
2009年の桜島南岳噴火(©︎Krypton / Wikipedia

 

焚き火の後の「灰」と火山灰の違い

桜島の噴火で知られる鹿児島県。

県内では日常的に火山灰が降り積り、自動車や道路、農作物やビニールハウスの上に積もった火山灰を、毎日のように除去しています。

桜島の火山活動は、爆発的な噴火だけでも1年に200回以上記録されていますから、住民への火山灰の影響はとても大きいと言えますね。

 

ところで、身近に噴火している火山がない地域の人にとって、火山灰のイメージはどんなものでしょうか。

「灰」と言うくらいですから、火山灰も焚き火の後に残る灰と似たようなものだと、漠然と想像しているかもしれません。

色もなんとなく似ていますし。

 

でも、火山灰と焚き火の後に残る灰とは、全くの別物です。

 

私たちが日常的に目にする「灰」は、植物などの有機物、すなわち落ち葉や枯れ草、藁、小枝などを燃やした時の「燃えかす」です。

焚き火の後の灰を思い出してみるとわかるように、ふわっとした柔らかい感じの物質ですね。

炭酸カリウム、ケイ酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸などでできています。

 

これに対し火山灰は、ざらざらした砂つぶでできています。

火山灰は爆発的な噴火で空中に巻き上げられた、粒の細かいガラス、鉱物、あるいは岩石の粉ですので、植物の燃えかすのように柔らかいものではありません。

むしろ硬くて尖っている粒子。

 

そのため、車に積もった火山灰を乾いた布で拭き取ろうとすると、細かい引っかき傷がついてしまいます。

鹿児島県の人は、水で洗い流すか圧縮空気で吹き飛ばしているそうです。

火山灰を構成する硬くて尖った粒子

1980年に噴火したセントヘレンズ山の火山灰
1980年に噴火したセントヘレンズ山の火山灰(Public domain / Wikipedia

 

火山灰を構成する砂つぶサイズの粒子について、もう少し詳しく見てみたいと思います。

 

火山灰は、おもに火山ガラス、マグマ中で結晶化した鉱物、爆発で粉砕された周囲の岩石の残骸、の3つでできています。

いずれも直径2mm以下の砂つぶで、非常に細かいために、水蒸気などの火山ガスと一緒に空高く巻き上げられます。

 

まずは火山ガラスですが、これは発泡したマグマのしぶきが急冷されてできた、尖ったガラスのかけらです。

色は透明で、顕微鏡で見ると粉々に砕け散ったガラスのかけらのように見えます。

 

ただし、火山ガラスは窓ガラスの「ガラス」とは少し違います。

ここで言う「ガラス」は、窓ガラスなどに使われる特定の物質のことではなく、「結晶になっていない固体」を指す言葉。

つまり火山ガラスとは、溶けた岩石であるマグマが空中で急冷した際、あまりにも速く固体になったために、結晶になれなかった粒子のことです。

 

火山が爆発するとき、地下のマグマは炭酸飲料のように激しく発泡し、爆発に伴ってそのしぶきが空中に飛び散ります。

よく振ったコーラのボトルから、勢いよく泡が噴き出すあのイメージです。

噴き出たコーラは細かくはじけながら、しぶきをまき散らしますね。

あのしぶきのようなマグマが冷えて固まるので、粉砕されたガラスのように、小さくて尖った火山ガラスができるのです。

 

なお、噴火の際には、しぶきではなくもう少し大きなマグマのかたまりも発泡しながら空中に飛び散りますが、これらは火山ガラスではなく、噴石と呼ばれます。

噴石には軽石とスコリアの2種類があり、火山ガラスよりもずっと大きくて重いので、噴煙として舞い上がらずに地上に落下してきます。

 

次に、火山灰に含まれる2つ目の粒子、「マグマ中で結晶化した鉱物」についてです。

これは、火山が噴火する前からマグマ中ですでに形成されていた、小さな鉱物粒子のこと。

鉱物名で言うと、角閃石や輝石、磁鉄鉱、長石などで、融点が比較的高いために、マグマの温度低下に伴って溶け切れなくなった成分と言えます。

 

結晶ではない火山ガラスと違い、これらは結晶化した鉱物。

ドロドロのマグマの中に、砂つぶサイズの鉱物粒子が混ざっているイメージです。

これらの鉱物はマグマが発泡しながら噴き出すときに、液体部分と分かれて空中に巻き散らされます。

その際、非常に細かい粒子なので、噴煙が作る上昇気流に乗って、火山ガラスなどと一緒に空高く舞い上がると言うわけです。

 

最後に3つ目の、「爆発で粉砕された周囲の岩石の残骸」について。

これは、火山が爆発するときに火口周辺の岩石を破壊するために発生する、岩石の粉です。

 

火山が勢いよく爆発する理由は、発泡によって地下のマグマが膨張しているのに、マグマの出口が岩石に塞がれていて、なかなか外に出られないという状況が起こるからです。

栓をしたままシャンパンを思いっきり振ったような状態。

そのため、火山内部のマグマの圧力は上昇し、あるとき一気に出口を塞いでいた岩石が破壊され、爆発的な噴火が起こるのです。

 

ですから、爆発的な噴火では元々あった山が破壊され、岩石が砕かれるわけですね。

そのときに発生した岩石の粉が、火山ガラス、マグマ中の鉱物粒子と一緒になって、火山灰として空に噴き上がるのです。

航空機の事故につながる理由

2010年に噴火したアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山
2010年に噴火したアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山(©︎NASA/MODIS Rapid Response Team / Wikipedia

 

ここまで見てきたように、火山灰の内訳は、火山ガラス、マグマ中の鉱物、爆発で粉砕された岩石の粉、の3つでした。

火山灰がざらざらした砂つぶであることが、内訳を見るとよくわかりますね。

 

さて、大規模な噴火が起きると、火山灰の影響で航空機が飛ばなくなることがあります。

2010年にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山が噴火した際には、ヨーロッパの航空路線に遅延や欠航が相次ぎました。

航空機が飛ばなくなるのは、火山灰によってジェットエンジンの停止という、重大事故が起きる可能性があるからです。

 

火山灰を構成する粒子の一つ、火山ガラスは、結晶化した鉱物に比べて融点が低く、ジェットエンジンの燃焼温度では溶けてしまいます。

そのため航空機が火山灰の中を飛ぶと、エンジンに入った火山ガラスが溶けて中で詰まり、最悪の場合にはエンジンを停止させてしまうのです。

 

実際、1982年には、マレーシアからオーストラリアへ向かっていたブリティッシュ・エアウェイズの航空機が、インドネシア上空で4つのエンジンが全て停止するという事故に見舞われました。

このとき噴火していたのは、インドネシアのガルングン火山。

幸いにも不時着寸前のところでエンジンが回復し、死傷者は出なかったと言うことです。

 

エンジンの停止以外にも、噴煙で視界が悪くなったり、火山灰の硬い粒子が機体にぶつかることで、コックピットの窓ガラスが曇りガラスのようになって見えなくなる危険性もあります。

 

このような理由で、大規模な噴火が起きると航空機が飛ばなくなってしまうのです。

参考文献

鹿児島県『活動火山噴火(降灰)による農作物等の被害防止対策について

鹿児島県霧島市『火山灰の健康への影響と対策

桜島・錦江湾ジオパーク『桜島の爆発回数』『桜島の火山灰で病気にならないの?

コトバンク『』『草木灰』『火山灰

HORTI『草木灰とは?作り方や肥料成分、使い方は?カリウムとリン酸を含む?

大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ『火山灰の特徴

ウェザーニュース『霧島山新燃岳噴火から10年 危険な「準プリニー式噴火」とその後

信州大学『火山灰に含まれる鉱物を調べよう

Business Insider『火山が噴火すると、なぜ飛行機が飛ばなくなるのか?』(2017年11月29日)

気象庁『火山灰の監視・予測

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

火山灰は尖ったガラスや鉱物からなるつぶつぶ(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)