©︎Gabriel Pollard / flickr

火山の噴気で沸き立つ泥のプール

ブクブクと沸き立つ泥のプールは、火山の多いニュージーランドで象徴的な風景の一つです。

一見すると地面から泥水が湧き出ているようにも見えますが、噴き出ているのは水蒸気などの火山ガスで、泥や水ではありません。

火山の噴気孔にたまった雨水が、噴気によって泥と一緒にかき混ぜられている、という状態です。

 

では温度はどうかと言うと、火山の噴気が出ているわけですから、やはり熱い。

高温のスチームが水たまりを熱しているわけです。

しかも火山ガスに含まれる硫酸などの影響でかなり酸性度が高く、素手で触れるようなものではありません。

 

そして、火山の噴気は、実は泥の生成にも深く関わっています。

地面を覆う火山灰や火山礫(れき)と言うのは、泥とは別物。

何だか見た目は似ていますけどね。

 

泥って、ちょっと粘り気がありませんか。

火山灰はもっとさらさらしていて、砂のような感じです。

泥というのは火山灰や砂よりももっと細かい粒でできていて、しかも粘土の成分をかなり含んでいるのが特徴です。

 

では粘土とは何かと言うと、砂をどんどん細かくしていけば粘土になると言うものではなく、砂粒から粘土へと、別の物質に変わる必要がある。

そのためには水や熱が必要なのですが、火山地帯では、ちょうど火山の噴気が水や熱を供給してくれているのです。

 

その結果、噴気の通り道では火山灰から粘土(粘土鉱物と呼ばれています)ができ、この粘土が雨水と共にかき混ぜられて泥のプールが出来上がるというわけです。

 

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ホワイト島はカルデラに囲まれた活発な火山島

冒頭の写真は、ニュージーランドで最も活発な火山と言われる火山島、ホワイト島(先住民マオリによる名称は「ファカアリ」)の泥プールです。

 

ニュージーランドには北島と南島の2つの大きな島がありますが、火山活動が盛んなのは北島の方。

ホワイト島は、北島・北東部の沖合い48キロメートルのところにある小さな島で、海底火山が海面に顔を出した火山島です。

噴煙を上げるホワイト島(©︎Julius Silver / Pixabay

 

ホワイト島の位置(Googleマップ)

 

上空から見ると長方形に近い形をしており、縦が3キロメートル、横が2キロメートルほどの大きさ。

標高は321メートルですが、島の大部分は海面下に隠れていて、海底からの高さは1600メートルほどになります。

写真の通り、中心部にある火口はすり鉢状のカルデラ地形に囲まれています。

 

ホワイト島の火山活動が始まったのは、少なくとも15万年以上前のこと。

玄武岩と比べて二酸化ケイ素の多い溶岩(安山岩またはデイサイトと言います)でできており、鹿児島県の桜島と同じタイプの成層火山です。

 

1826年以降、数十回の噴火が記録されていますが、特に噴火活動が顕著になったのは1975年の12月ごろから。

そして、2019年に発生した大規模な水蒸気爆発では観光に訪れていた47人が被災し、行方不明者を含め死者21人という大惨事になりました。

灰色の地面を染める鮮やかな硫黄

もう一度、冒頭の写真を見てみましょう。

泥のプールの周りがレモン色になっていますが、これは火山ガスに含まれていた硫黄の色です。

 

火山ガスの成分である二酸化硫黄や硫化水素は、地表付近で冷やされ温度が下がると、硫黄の結晶になります。

そのため、噴気孔の周りには硫黄の結晶がたくさん集積するのです。

流水で運ばれた硫黄が集積するホワイト島内の風景(©︎Krzysztof Belczyński / flickr

 

ホワイト島は硫黄が豊富なので、20世紀初頭には硫黄鉱山として開発が試みられたこともありました。

しかし、1914年のカルデラの崩落で開発に当たっていた労働者10人が全滅し、鉱山開発は中止。

鉱山が撤退した後は島に定住者はおらず、観光客や火山研究者が訪れるだけとなりました。

 

なお、2019年の大規模な火山災害のあとは、観光客の立ち入りも禁止されています。

2万5000年前に起きたタウポ火山帯の超巨大噴火

ホワイト島は、ニュージーランド北島を縦断するタウポ火山帯の北の端に当たります。

そしてこのタウポ火山帯が、世界最大級の噴火地帯なのです。

 

約2万5000年前、タウポ火山帯の南の方に位置するタウポ湖で、噴出物の総量が1兆トンを超える超巨大噴火が起こりました。

噴出物1兆トン以上というのは、確認されている火山活動としては世界最大規模。

 

これほどの規模になると、上空を覆う噴煙は地球の気温を劇的に低下させ、大半の植物の成長が困難になるほど空を暗くすると考えられています。

その影響は、直径2キロメートルの小惑星が地球に衝突したのに匹敵するとのこと。

 

しかもこのような噴火は珍しいものではなく、地球はたびたび壊滅的な火山噴火を経験してきたのです。

例えば、タウポ火山帯の数千年前には、鹿児島県の姶良(あいら)火山で噴出物1兆トンを超える巨大噴火が起きています。

インドネシアのトバ火山でも、約7万5000年前に超巨大噴火がありました。

 

火山が人類文明に及ぼし得る脅威は、私たちが想像する以上に大きいのかもしれません。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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