チェコ共和国産のウラン鉱石。黒色の部分が瀝青ウラン鉱。
チェコ共和国産のウラン鉱石。黒色の部分が瀝青ウラン鉱(©︎Jan Helebrant / flickr, CC BY-SA)

 

原子力発電にはウランの核分裂が必要

原子力発電の燃料と言えば、ウランですね。

原子力発電所では、ウランの核分裂反応の熱によって水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回し、発電しています。

 

核分裂反応とは、ウランなどの原子核が分裂して、2つ以上の元素になる反応のこと。

ウランが発電の燃料に利用されるのは、核分裂反応を起こしやすい元素だからです。

 

しかしながら、核分裂反応は天然のウラン鉱石では起こりません。

ウラン鉱石からも放射線は出ていますので、なんとなく核分裂反応が起こっているように思えるかもしれませんが、放射線が出ることと核分裂とは異なります。

「放射線が出る」という現象は、ウランなどの放射性元素から、ヘリウムの原子核(アルファ線)、電子(ベータ線)、あるいは電磁波(ガンマ線)が放出される現象であり、放射性崩壊と呼ばれています。

放射線を出しながら徐々に別の元素へと変化していくため、「崩壊」という言葉が使われています。

 

これに対し、核分裂反応というのは、例えば1個のウラン原子がセシウムとルビジウムに分かれたり、あるいはヨウ素とイットリウムに分かれたりする反応です。

両者で大きく違うのは、反応によって生じる熱の量。

放射性崩壊でも熱は出ますが、核分裂反応で生じる熱は桁違いに大きくなります。

この熱を発電に利用しているわけですね。

天然ウランには「235」が足りない

アメリカ合衆国ユタ州ハッピージャック鉱山のウラン鉱石。黄色い部分がカルノー石。
アメリカ合衆国ユタ州ハッピージャック鉱山のウラン鉱石。黄色い部分がウランを含むカルノー石(Public domain / Wikipedia

 

天然のウラン鉱石は、放射線は出しているけれども、核分裂反応は起こっていない状態。

そして、天然のウラン鉱石から精製したウラン(=天然ウラン)をそのまま燃料にするだけでは、核分裂反応は起こらず、発電ができません。

 

なぜ天然ウランでは核分裂反応が起きないかというと、それは、ウランの同位体の一つである「ウラン235」の割合が低すぎるからです。

 

同位体とは、同じ元素なのに重さの異なるもののこと。

例えばウランの場合、同位体としてウラン238、ウラン235、ウラン234などが存在します。

「238」とか「235」という数字は、原子核の中にある陽子と中性子を足した数。

 

ウランの陽子の数は92個で一定なので、「ウラン238」には中性子が146個、「ウラン235」には中性子が143個あることになります。

この場合、中性子を多く持つウラン238の方が、ウラン235よりも重たくなり、同じウランなのに重さの異なる複数のウランが存在することになるわけですね。

 

さて、天然に存在するウランの同位体には極端な偏りがあって、約99.3%がウラン238です。

残りの約0.7%がウラン235で、ウラン234はほんのわずか。

 

ところが、原子力発電の燃料には、量の少ないウラン235が必要なのです。

理由はウラン235に核分裂反応を起こしやすい性質があるからで、エネルギーの低い(=移動速度の遅い)中性子をウラン235にぶつけることで、高い確率で核分裂が起こります。

ウラン238では、同じ方法を使っても核分裂反応は起こりません。

 

原子力発電に使われるウラン燃料にはウラン235が約4%も含まれていて、残りの約96%がウラン238。

自然界の存在比(ウラン235が約0.7%)と比べると、ウラン235の割合がずっと多いことがわかりますね。

 

ウラン燃料というのは、ウラン235の割合を特別に高くしたウランのことで、「天然ウラン」に対して「濃縮ウラン」と呼ばれています。

つまり、ウラン燃料を作るにはその何倍もの量の天然ウランが必要であり、濃縮後に残る「ウラン235を含まないウラン」は、同じウランにも関わらずただの廃棄物になってしまうのです。

 

なお、資源として採掘されるウラン鉱石にはいくつかの種類があって、代表的なものは次の通りです。

  • 閃ウラン鉱:ウランと酸素からなる鉱物。黒色の結晶で、やや金属光沢がある。
  • 瀝青(れきせい)ウラン鉱:閃ウラン鉱の一種で、結晶の形を持たないもの。瀝青(ピッチ)のような油脂光沢がある。
  • カルノー石:ウラン、バナジウム、カリウム、酸素からなる鉱物。黄色の細かい結晶で、砂岩の中にできることが多い。
  • コフィン石:ウラン、ケイ素、酸素からなる鉱物。黒色の細かい結晶で、岩石の割れ目や隙間を埋めるようにできる。
  • 燐灰(りんかい)ウラン鉱:ウラン、リン、カルシウム、酸素からなる鉱物。黄色〜黄緑色の板状の結晶で、紫外線を当てると黄緑色の蛍光を発する。

 

このようにウラン鉱石には複数の種類がありますが、ウラン235の割合に違いはなく、いずれも0.7%ほどになります。

天然ウランが核分裂を起こしたレアケース

アフリカ大陸中央部に位置するガボン共和国(Googleマップ)
アフリカ大陸中央部に位置するガボン共和国(Googleマップ)

 

ここまでお話ししてきた通り、天然のウラン鉱石ではウラン235の割合が低すぎるため、核分裂反応は起こりません。

ですが、それは現在の地球での話。

 

実は約20億年前の地球で起こった天然の核分裂反応の記録が、アフリカ大陸中央部、ガボン共和国の地層に残されているのです。

地名を取って「オクロの天然原子炉」と呼ばれるその場所では、ウラン235の核分裂によって生成する元素の一つ、ネオジムの同位体組成(同位体の割合)に特殊な傾向があり、詳しい調査の結果、過去に核分裂反応が起こっていたことが分かりました。

 

20億年前の地球と現在の地球とでは、天然ウランにおけるウラン235の割合が異なります。

その理由は、ウラン235の放射性崩壊の速度が、ウラン238のそれよりも6倍以上速いからです。

 

冒頭で少し触れましたが、放射性崩壊とは放射線を出しながら少しずつ別の元素へと変化していく現象で、ウランの場合、トリウム、プロトアクチニウム、ラジウムなどを経て、最終的には鉛へと変化します。

そのため、長い時間をかけてウラン238もウラン235も少しずつ減っていくのですが、ウラン235のほうが減り方が速い。

その結果、現在の地球のように、天然ウランにおけるウラン235の割合はとても低くなってしまいました。

 

このことを踏まえるなら、大昔の地球では、もっとウラン235の割合が高かったわけです。

計算によると、オクロの天然原子炉が核分裂反応を起こした約20億年前の地球では、天然ウランにおけるウラン235の割合は3%ほどだったと見積もられています。

 

3%と言えば、原子力発電用ウラン燃料におけるウラン235の割合(約4%)に匹敵する高さ。

ウラン235の割合が高かったために、天然のウラン鉱石でも核分裂反応が起こったわけですね。

 

ただし、オクロの天然原子炉は今のところ類例のないレアケース。

ウラン鉱石を含む地層は世界のあちこちにありますが、オクロとその近隣の地域以外で核分裂反応の証拠が見つかったことはありません。

 

核分裂反応が起こるには、ウラン235の割合の他に、地層が地下水で満たされていなければならないなど、いくつかの条件が必要です。

オクロの天然原子炉は、核分裂反応のための好条件が整ったとても珍しい場所だったと言えます。

参考文献

関西電力『原子力発電の概要

コトバンク『ウラン』『閃ウラン鉱

Weblio辞書『閃ウラン鉱』『ピッチブレンド』『コフィン石』『燐灰ウラン鉱』『カルノー石

放射線医学総合研究所『ウラン鉱

環境研ミニ百科『天然原子炉

ATOMICA『天然原子炉(オクロ原子炉)

A・P・メシク『20億年前の天然の原子炉』日経サイエンス2006年2月号.

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