日本の地熱資源量は世界第3位
太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーの利用が昨今ますます注目されていますが、地熱発電もその一つ。
地熱発電とは、温泉地から噴出する蒸気でタービンを回して電力を得る、化石燃料に頼らない発電方法です。
日本は火山地帯であり、多くの温泉がありますので、地熱発電はとても有望な選択肢であるように思えます。
実際、「地熱資源量」と呼ばれる潜在的な地熱発電の能力で比較すると、日本はアメリカ、インドネシアに次いで世界で第3位の資源量を有しています。
ところが発電設備の容量、つまり実際の発電能力で比較すると、日本はかなり順位を落とし、2020年時点で世界第10位という状況です(『令和2年度 地熱エネルギーの開発・利用推進に関する提言』新エネルギー財団,2021)。
トップのアメリカに比べると6分の1以下、第2位のインドネシアに比べても3分の1以下の発電量しか得られていません。
日本は世界第3位の膨大な地熱資源量を持ちながら、現状ではそれを十分に生かせていないのです(地熱資源量のうち、利用できているのは2.6%ほど)。
そして、日本の地熱発電の低迷ぶりは、火力発電などの他の発電方法と比較すると、より一層明らかになります。
日本の全発電量(2020年時点)の内訳を見てみますと、火力が75.1%で最も多く、次いで太陽光が8.9%、水力が7.8%、原子力が3.7%となっています。
その他ではバイオマスが3.4%、風力が0.9%で、地熱は最も少ない0.3%(『【速報】国内の2020年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況』環境エネルギー政策研究所,2021)。
火力発電は言うに及ばずですが、太陽光発電や水力発電と比べても、地熱発電の全発電量に占める割合は格段に小さいのです。
1,000mを超える大深度掘削で蒸気を掘り当てる
高い潜在能力を持っていながら、どうして日本では地熱発電の利用が少ないのでしょうか。
その理由として、森林法、温泉法、自然公園法などによる規制が厳しくて、温泉地や国立公園での開発がなかなか進まないという実態はあります。
しかし、地熱発電が低迷している最大の理由は、開発リスクの高さにあります。
地熱発電には200〜350℃という高温の蒸気が大量に必要なのですが、そういった条件を満たす蒸気を掘り当てることはかなり難しく、時間とコストがかかるのです。
そのあたりの掘削の難しさについて、少し詳しく見てみましょう。
地熱発電で掘削するのは、深さ1,000〜3,000mの地層中に溜まった蒸気および熱水です(熱水は蒸気と分離した後に地中に戻されます)。
地表からしみ込んだ雨水が地下深くでマグマによって加熱され、高温の蒸気や熱水になるわけですが、せっかく加熱された地下水も岩盤の割れ目などを伝って散逸してしまうと地熱発電に利用することはできません。
地熱発電に利用できるのは、そのような蒸気や熱水が地下の「容器」に大量に溜まった場所に限られるのです。
「容器」というのは蒸気や熱水を保持できる地層のことで、硬くて緻密な岩盤でなはく、粒子同士の間に隙間があって地下水が浸透しやすい岩盤が、「容器」に適しています。
細かい隙間の中に蒸気や熱水を溜めることができるからですね。
それと、「容器」の上には「蓋」も必要です。
「蓋」に適しているのは、今度は地下水を通しにくい緻密な地層(例えば泥岩)で、そうした地層に覆われることで、「容器」に溜まった蒸気や熱水が地表に逃げて行かず、地層中に大量に溜まるようになります。
地熱発電に利用可能な蒸気(高温かつ大量)はこのような地質条件が揃わないと確保できませんので、掘ればすぐに見つかるというものではありません。
地表からの調査によって候補地を決めた後、何回か掘削して、目当ての蒸気や熱水が出たり出なかったりといったことを繰り返しながら、徐々に開発を進めていくことになります。
初期調査から操業開始まで、10年以上かかるのが普通です。
2019年に営業運転を開始した秋田県湯沢市の山葵沢(わさびざわ)地熱発電所は、国内で23年ぶりとなる新規の大規模地熱発電所ですが、調査から運転開始までに26年かかったということです。
成長の鍵は時間とコストの削減
ここまで、地熱発電の低迷の理由は開発リスクの高さにある、という話をしてきました。
操業までに10年以上かかるという開発期間の長さに加え、掘っても当たるとは限らないという不確実さが、事業化の妨げになっています。
しかも、うまく掘り当てた場合であっても、想定通りの蒸気量が得られるかどうかは操業を継続してみないとわかりません。
調査や建設にかかるコストも高額になりがちです。
地熱発電用の掘削は、一般の温泉の掘削とは異なりとても深く掘るため、一回の掘削に数億円のコストがかかります。
温泉用の井戸は深くても数百mあたりですが、地熱発電の場合、上述の通り1,000〜3,000mといった大深度が必要。
地熱発電に使われる高温の蒸気は、地下深くに眠る資源であるため、開発するのはけっこう大変なのです。
このような状況ですので、地熱発電の成長の鍵は、「いかに時間とコストを削減して、開発リスクを下げるか」だと言えます。
具体的な方策としては、①別の事業でたまたま蒸気を掘り当てた井戸を地熱発電事業者が譲り受ける、②調査のために掘削した井戸でも蒸気が出れば発電施設として活用する、などが検討されています。
地熱発電は純国産のクリーンなエネルギー源であり、技術面でも日本は世界トップクラス。
開発リスクの低減を図りつつ、今後ますます成長していってほしい分野です。
参考文献
日本地熱協会『地熱発電の現況と課題』(2021年1月14日)
日本地熱協会『わが国の地熱発電ー現状と課題ー』(2018年10月24日)
NHK『地熱発電の課題 脱炭素社会実現のために』(2021年2月8日)
東北大学阿尻研究室『超臨界水とは』
文部科学省『水の特性を生かした様々な活用 2.超臨界水』
EnergyShift編集部『地熱発電とは? 仕組み・メリット・デメリット』(2021年3月2日)
新ネルギー財団『令和2年度 地熱エネルギーの開発・利用推進に関する提言』(2021年3月)
環境エネルギー政策研究所『【速報】国内の2020年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況』(2021年7月27日)
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。