鉱物の仲間に入れてもらえない
真珠は6月の誕生石にもなっている宝石ですが、生物の体内で作られたものであるため、鉱物ではありません。
真珠はおもに「炭酸カルシウム」という物質でできていて、成分も原子の並び方も、実は霰石(あられいし)という鉱物とまったく同じです。違うのは、どのようにできたかという点だけ。同じ物質なのに、どうして霰石は鉱物で、真珠は鉱物ではないのでしょうか。
それは、鉱物とは「自然界にある固体の物質で、地質作用によって作られたもの」であると、世界中の鉱物学者が集まって取り決めをしたからです。特に「地質作用によって」という部分が重要で、地質作用を受けたことがない真珠は鉱物ではないのです。
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地質作用でできたものが鉱物
「地質作用」というのは、自然界での「岩石を作る働き」「岩石を変化させる働き」「岩石を破壊する働き」のことをいいます。具体的には、例えば次のような働きです。
- マグマが冷えて岩石ができる
- 土砂が厚く積もって岩石ができる
- 地下深くの圧力や熱で岩石が変化する
- 水や空気との化学反応で岩石が変化する
- 隕石が落下して岩石が破壊される
こうして見てみると、真珠貝が真珠を作る働きは、地質作用ではないことがわかりますね。
真珠を作っている炭酸カルシウムと同じ物質は、例えば、地表に流れ出たマグマが冷えるときにもできますし、熱い地下水との化学反応によって岩石が変化するときにもできます。これらはまさに地質作用ですので、こうしてできた炭酸カルシウムは、霰石(あられいし)という鉱物名で呼ばれます。
貝殻の外側は方解石と同じ物質
体内で真珠を作る貝、すなわち真珠貝には、アコヤガイ、シロチョウガイなどがあります。これらの貝は、貝殻の内側もきれいな虹色をしています。真珠と同じ物質でできているわけですね。
一方、貝殻の外側には、真珠のような輝きはありません。外側部分も成分としては真珠と同じなのですが、原子の並び方に違いがあり、別の物質でできているのです。
貝殻の外側を作っている物質は、鉱物でいうと方解石(ほうかいせき)と同じものです。ここでもやはり、物質としては全く同じなのに、方解石は鉱物で、貝殻は鉱物ではないということになります。
それにしても、鉱物学者たちはなぜ、「地質作用によってできたもの」だけを鉱物と呼ぶことにしたのでしょうか。それは、鉱物の価値として、「それを調べれば地球の歴史がわかる」ということを一番大切にしているからです。
生物が作る真珠や貝殻は、生物が生きていくためにできるもの。詳しく調べても、地球そのもののことはわからないのです。
鉱物の解説:霰石(あられいし)
霰石はカルシウム(Ca)、炭素(C)、酸素(O)でできた鉱物で、物質名としては炭酸カルシウム。同じ成分の方解石とは、原子の並び方が異なります。
真珠は霰石と同じ物質でできていますが、鉱物ではありません。真珠や貝殻のように、生物の体内、あるいは体の一部として作られる鉱物のような物質は、「生体鉱物」と呼ばれています。サンゴの骨格(硬い部分)、ウニの棘、卵の殻、脊椎動物の骨や歯なども生体鉱物です。
「霰(あられ)」とは、空から降ってくる小さな氷の粒のこと(直径5mm未満)。霰石にはいろんな見た目のものがありますが、その中の代表的なものに、丸い小さな粒として見つかるものがあります。その粒の大きさがちょうど霰くらいで、そこから「霰石」という名前がつけられました。
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