石墨の成分はダイヤモンドとまったく同じ
石墨は、黒鉛筆の芯に使われている鉱物です。石墨の粉にいくらかの粘土鉱物(カオリン石など)の粉を混ぜて、1000℃以上の高温で焼き固めることで、鉛筆の芯は作られます。石墨と粘土鉱物の割合は鉛筆の硬さによって変わり、HBの鉛筆では70%ほどが石墨です。石墨の割合が多いほど軟らかく、より黒い鉛筆になります。
さて、この真っ黒な姿をした石墨ですが、透明でキラキラと輝くダイヤモンドと、成分はまったく同じです。どちらも炭素100%、つまり炭素原子だけからできています。まったく同じ材料(炭素原子)から、こんなにも姿の違う2つの鉱物ができるなんて、不思議ですね。
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色も硬さも全然違う
石墨とダイヤモンドでは、色も硬さも全然違います。
石墨の色が不透明な黒色であるのに対し、ダイヤモンドは無色透明。その上、ダイヤモンドには光を強く反射する性質と、反射した光が虹色に見えるという性質があり、その輝きときらめきは、数ある宝石の中でも群を抜いています。地味な印象の石墨に比べて、ダイヤモンドはとても美しく、華やかですね。
また、硬さについて言えば、石墨のモース硬度が1〜1 ½であるのに対し、ダイヤモンドは最高ランクの硬度10。石墨はもっとも軟らかい鉱物の一つであり、もう一方のダイヤモンドは、もっとも硬い鉱物なのです。
モース硬度というのは10段階で鉱物の硬さ(傷のつきにくさ)を表したもので、硬度1がもっとも軟らかく傷がつきやすい鉱物です。ドイツの鉱物学者フリードリッヒ・モースが最初に考えた方法なので、「モース硬度」と呼ばれています。
硬度10のダイヤモンドは、他のどんな鉱物で引っかいても傷をつけることができません。
炭素原子の並び方に注目
どちらも炭素という同じ成分でできていながら、ダイヤモンドと石墨にこれほどの違いがあるのは、なぜでしょうか。その理由は、炭素原子の並び方にあります。
この図は、ダイヤモンドと石墨の結晶をものすごく拡大して見た時の、原子の並び方のイメージ図です。原子の並び方のことを「結晶構造」と言い、わかりやすくするために、ボールと棒で示してあります。ボールが炭素原子で、棒が原子同士のつながりを意味します。
一体どれくらい拡大すれば、このような原子の並び方が見えるのかというと、図の点線から点線までの間が1 nm(ナノメートル)という長さです。「1 nm」は1 mmの100万分の1。想像できないほど小さな世界ですね。
図を見てもらうとわかる通り、ダイヤモンドは石墨に比べて炭素原子がギュッと詰まっていて、原子同士がしっかりとつながっています。石墨の方は、原子同士のつながりが平面的で、なんだか隙間の多い形をしていますね。この違いが、硬さや色の違いの原因です。
鉱物の解説:石墨(せきぼく)
石墨は黒鉛とも呼ばれます。
石墨の比重は2.2で、これは同じ体積の水より2.2倍重いことを意味します。一方、成分は同じでも、ダイヤモンドの比重は3.5。同じ体積で比べた場合、石墨よりもダイヤモンドの方がかなり重いことがわかります。結晶構造の違いは、比重の違いにもはっきりと現れているのです。
成分が同じということは、結晶構造をうまく変えることさえできれば、石墨にもダイヤモンドになれるチャンスがあるということです。実際、人工ダイヤモンドの原料は、石墨です。およそ1500℃、圧力5万気圧以上という非常に高い温度・圧力のもとで、石墨は人工ダイヤモンドへと生まれ変わります。
※5万気圧=面積1平方cmあたり約5万kgの重さがかかった状態。
もっと知りたい人のためのオススメ本
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『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)