加熱すると紫色が消えてしまう
紫水晶(むらさきすいしょう)の名前でも知られるアメシスト。美しい紫色は、不純成分として含まれる鉄が原因です。ただし、単に鉄が含まれるだけでは紫色にはならず、そこに放射線の作用が加わることで、はじめて紫色になるのです。
アメシストの紫色は、実は意外とデリケート。産地によって違いはありますが、加熱や長時間の直射日光(紫外線)によって、色あせたり変色したりしてしまいます。アクセサリーにもよく使われる身近な宝石ですから、ちょっと心配ですね。
といっても、「加熱」というのは350〜450℃を超える比較的高温での加熱なので、普通は心配いりません。保管するとき、直射日光が当たらないようにだけ注意しましょう。
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淡い黄色の水晶はシトリン
不純成分として同じく少量の鉄が含まれるものの、淡い黄色の水晶もあります。名前はシトリン。レモンの仲間のシトロンから名付けられました。和名の「黄水晶(きずいしょう)」もよく使われます。
シトリンとアメシストの違いは、鉄以外の不純成分と、放射線の作用を受けているかどうか。シトリンの黄色の発色は鉄とも関係がありますが、おもにもう一つの不純成分であるアルミニウムが原因です。そして、シトリンは放射線の作用をほとんど受けていません。
ここで放射線について少し補足します。「放射線」と聞くと、原子力発電所で発生する放射線とか、病院の検査・治療で使われる放射線を想像するかもしれません。でも、ここでいう放射線というのは、そういった人工的なものではなく、天然の放射線です。
「ラドン温泉」と呼ばれる種類の温泉を聞いたことがあるでしょうか。温泉の中に少量の放射性物質(ラドン)が溶けていて、そこから出る放射線が健康に良いとされる温泉です。
アメシストを紫色にしているのも、このラドン。イメージとしては、地下の岩盤の中にできた小さな空洞に「ラドン温泉」が溜まっていて、その中でできる水晶が、しばしば紫色のアメシストになるのです。
わざと加熱してシトリンを作ることも
天然のシトリンはアメシストよりも珍しく、多くは産出しません。
でも、天然にこだわらなければ、アメシストを加熱することで「シトリンぽいもの」は作れてしまいます。アメシストの弱点である「加熱すると紫色が消えてしまう」という性質を逆に利用して、わざと黄色っぽい色にしてしまうわけですね。
実際、鉱物標本の展示即売会(ミネラルショー)に行くと、アメシストを加熱して作ったシトリンが多く出回っています。これらのシトリンの場合、黄色というよりは褐色(茶色っぽい色)になりがちで、発色の原因も不純成分のアルミニウムではなく、鉄と酸素が結合してできた細かい別の鉱物の粒(おもに赤鉄鉱)が原因です。色の濃いものが多く、天然のシトリンとはある程度見た目で区別できます。
ただし、天然のシトリンにも、褐色のものがけっこうあります。ロシアのウラル地方、ブラジル、コンゴ(旧ザイール)、ザンビアなどでは淡い褐色のシトリンが産出するので、必ずしも「褐色ならアメシストを加熱して作ったシトリン」というわけではありません。
鉱物の解説:石英(せきえい)[アメシスト]
アメシストも、シトリンも、そして無色透明の普通の水晶も、鉱物としてはすべて同じ「石英」です。
石英はケイ素(Si)と酸素(O)でできた鉱物で、結晶の形がはっきりとしない細かなものであれば、ほとんどの岩石に含まれているありふれた鉱物です。石英の中で結晶の形がはっきりしているもの、つまり、平らな面で囲まれた柱や板のような形をしたものを「水晶」と呼んでいます。
鉱物の分類法では、石英は「ケイ酸塩」に分類されます。ケイ酸イオン(ケイ素と酸素が組み合わさってできたイオン)をおもな成分とする鉱物、という意味です。イオンというのは、電気を帯びた原子の集まり(原子団)のことで、イオンとイオンはくっついたり反発したりします。
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