アメシスト(ブラジル産)
【アメシスト】写真中央の黄褐色の鉱物は方解石。写真の横幅:15.6cm/ブラジル産/個人蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

加熱すると紫色が消えてしまう

紫水晶(むらさきすいしょう)の名前でも知られるアメシスト。美しい紫色は、不純成分として含まれる鉄が原因です。ただし、単に鉄が含まれるだけでは紫色にはならず、そこに放射線の作用が加わることで、はじめて紫色になるのです。

アメシストの紫色は、実は意外とデリケート。産地によって違いはありますが、加熱や長時間の直射日光(紫外線)によって、色あせたり変色したりしてしまいます。アクセサリーにもよく使われる身近な宝石ですから、ちょっと心配ですね。

といっても、「加熱」というのは350〜450℃を超える比較的高温での加熱なので、普通は心配いりません。保管するとき、直射日光が当たらないようにだけ注意しましょう。

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淡い黄色の水晶はシトリン

シトリン(ブラジル産)
【シトリン(黄水晶)】標本の横幅:2.5cm/ブラジル・ミナスジェライス州産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

不純成分として同じく少量の鉄が含まれるものの、淡い黄色の水晶もあります。名前はシトリン。レモンの仲間のシトロンから名付けられました。和名の「黄水晶(きずいしょう)」もよく使われます。

シトリンとアメシストの違いは、鉄以外の不純成分と、放射線の作用を受けているかどうか。シトリンの黄色の発色は鉄とも関係がありますが、おもにもう一つの不純成分であるアルミニウムが原因です。そして、シトリンは放射線の作用をほとんど受けていません。

ここで放射線について少し補足します。「放射線」と聞くと、原子力発電所で発生する放射線とか、病院の検査・治療で使われる放射線を想像するかもしれません。でも、ここでいう放射線というのは、そういった人工的なものではなく、天然の放射線です。

「ラドン温泉」と呼ばれる種類の温泉を聞いたことがあるでしょうか。温泉の中に少量の放射性物質(ラドン)が溶けていて、そこから出る放射線が健康に良いとされる温泉です。

アメシストを紫色にしているのも、このラドン。イメージとしては、地下の岩盤の中にできた小さな空洞に「ラドン温泉」が溜まっていて、その中でできる水晶が、しばしば紫色のアメシストになるのです。

わざと加熱してシトリンを作ることも

シトリン(中国で加熱処理)
【アメシストを加熱して作ったシトリン】写真の横幅:約13cm/産地不詳・中国で加熱処理/個人蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

天然のシトリンはアメシストよりも珍しく、多くは産出しません。

でも、天然にこだわらなければ、アメシストを加熱することで「シトリンぽいもの」は作れてしまいます。アメシストの弱点である「加熱すると紫色が消えてしまう」という性質を逆に利用して、わざと黄色っぽい色にしてしまうわけですね。

実際、鉱物標本の展示即売会(ミネラルショー)に行くと、アメシストを加熱して作ったシトリンが多く出回っています。これらのシトリンの場合、黄色というよりは褐色(茶色っぽい色)になりがちで、発色の原因も不純成分のアルミニウムではなく、鉄と酸素が結合してできた細かい別の鉱物の粒(おもに赤鉄鉱)が原因です。色の濃いものが多く、天然のシトリンとはある程度見た目で区別できます。

ただし、天然のシトリンにも、褐色のものがけっこうあります。ロシアのウラル地方、ブラジル、コンゴ(旧ザイール)、ザンビアなどでは淡い褐色のシトリンが産出するので、必ずしも「褐色ならアメシストを加熱して作ったシトリン」というわけではありません。

鉱物の解説:石英(せきえい)[アメシスト]

アメシスト(石川県産)
【石英(アメシスト)】標本の長さ:9.8cm/石川県 小松市 遊泉寺産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

アメシストも、シトリンも、そして無色透明の普通の水晶も、鉱物としてはすべて同じ「石英」です。

石英はケイ素(Si)と酸素(O)でできた鉱物で、結晶の形がはっきりとしない細かなものであれば、ほとんどの岩石に含まれているありふれた鉱物です。石英の中で結晶の形がはっきりしているもの、つまり、平らな面で囲まれた柱や板のような形をしたものを「水晶」と呼んでいます。

鉱物の分類法では、石英は「ケイ酸塩」に分類されます。ケイ酸イオン(ケイ素と酸素が組み合わさってできたイオン)をおもな成分とする鉱物、という意味です。イオンというのは、電気を帯びた原子の集まり(原子団)のことで、イオンとイオンはくっついたり反発したりします。

鉱物データ「クォーツ(石英)」
クォーツ(石英)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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