2色のリチア電気石につけられた宝石名
「トルマリン」の宝石名で知られるリチア電気石には、緑、ピンク、赤紫、青など、さまざまな色のものがあります。そして、これらの色が組み合わさって、2色や3色の結晶になることもしばしば。
中でもこちらの写真のように、結晶の外側が緑色で、内側がピンク色や赤紫色のものは、「ウォーターメロン・トルマリン」という宝石名で呼ばれています。「ウォーターメロン」は、英語でスイカのこと。柱形の結晶を輪切りにすれば、確かに切り口の色がスイカのように見えますね。
でも、この長細い形から連想するのは、スイカよりもむしろ金太郎飴かもしれません。どこを切っても同じ模様が現れます。
▼▼▼動画で見る▼▼▼
リチア電気石ができる場所、ペグマタイト
リチア電気石がスイカのような、あるいは金太郎飴のような2色の結晶になるのは、結晶が成長する途中で、周囲の地下水の成分が変化するからです。一体どんなしくみで2色になるのか、まずはリチア電気石のでき方から紹介します。
リチア電気石ができる場所は、「ペグマタイト」と呼ばれる花崗岩の中の空洞です。花崗岩は、マグマが地下深くでゆっくりと固まってできる岩石。マグマの中には結構な量の水(重さで5%くらい)が溶けていて、マグマが固まって岩石になると、マグマに溶けていた水が取り残されて、岩石のあちこちに高圧の水蒸気で満たされた空洞ができます。この水蒸気は高温で、ミネラルたっぷり。
このような高温の水蒸気で満たされた空洞では、水蒸気の温度が下がるにつれてさまざまな鉱物の結晶が生まれ、大きく成長します。リチア電気石のその一つ。
こうして、リチア電気石などの大きな結晶を含む空洞が花崗岩の中にできあがり、これを「ペグマタイト」と呼んでいます。
成長の途中でマンガンがなくなった
では、この話を踏まえて、リチア電気石が2色になる理由を説明します。
例えば、外側が緑色で、内側がピンク色の結晶の場合、最初にピンク色の結晶が成長します。ピンク色は、不純成分として含まれるわずかな量のマンガンが原因なので、内側のピンク色の結晶が成長した時には、水蒸気にマンガンが含まれていたことになります。
その後、リチア電気石やほかの鉱物が成長するにつれて、水蒸気に溶け込んでいたマンガンはなくなり、代わりに、まだ水蒸気中に残っていた別の成分がリチア電気石に入るようになります。緑色の原因は、鉄やクロム、あるいはバナジウムと考えられていますので、ピンク色の結晶が成長した後の水蒸気には、これらの成分が残っていたのでしょう。
こうして、水蒸気の成分が途中で変化することで、2色のリチア電気石ができあがります。結晶の内側と外側で色が分かれている場合もあれば、上の写真のように、結晶の長さ方向に色が分かれている場合もあります。
鉱物の解説:リチア電気石(りちあでんきせき)
おもな成分としてリチウム(Li)を含む、電気石の一種です。リチア電気石の宝石名として知られる「トルマリン」は、実は族名(グループ名)である「電気石」の英語名。リチア電気石の学名は、「エルバアイト」といいます。
リチア電気石は、おもな成分のほかに含まれるわずかな成分(不純成分)によって、さまざまな色の結晶になります。不純成分の種類と色との関係はけっこう複雑で、例えば、本文で紹介したマンガンは、ピンク色のほか、赤紫色や黄色の原因にもなっています。鉄も、緑色以外に、深い青色の原因になることがあります。
上の写真は、「パライバ・トルマリン」の宝石名で知られる、ブラジルのパライバ州で発見された明るい青または青緑色のリチア電気石。色の原因は銅とマンガンです。
もっと知りたい人のためのオススメ本
この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。
『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)