専門家の文章はわかりにくいと、出版関係の先輩からよく言われます。
理由はざっと、以下の通り。
- 文章が硬い(論文みたい)。
- 聞いたことのない専門用語が平気で使われている。
- 漢字が多い。
- 結論を言い切らずに、どうとでも取れる言い方をする(結局どっちなの!)。
いろいろと反省点はあるわけですが、ご指摘のおかげで私の文章はかなりマシになったと思います。
これまで出版した2冊の本は、幸いにして読者の方々から、「すごくわかりやすい」「面白い」という感想を多数いただきました。
そんなわけで、今回は私が考える「わかりやすい解説のコツ」を、一つご紹介したいと思います。
理系研究者でも、他の専門家や技術者でも、このコツを押さえればかなり一般受けの良い文章が書けます。
コツは各論から入ること
理系研究者が一般向けにわかりやすい解説を書くコツは、ずばり「各論から入ること」です。
各論、つまり具体例や誰もが知っている身近なものから、話をスタートさせること。
これだけではおそらくピンと来ないと思いますので、専門家の皆さんが慣れ親しんだ「論文」との比較で考えてみましょう。
理系研究者に限らず、各分野の専門家の方々は、おそらく論文を書いたり読んだりすることが多いと思います。
論文の話の流れを思い出して欲しいのですが、大雑把に言うと、
総論 → 各論 → 総論
の順でストーリーが進んでいきますね。
イントロダクションでは、その分野において一般化された大きな問題について、まず最初に言及します。
そして、その問題の解決に必要なもっと小さな研究課題へと、徐々にブレイクダウンしながら話を展開。
イントロの最後で、「だからこの論文では、〇〇について研究しました」と、各論を取りあげます。
論文のボデイでは、先ほどの各論の内容、つまりは自分の研究内容について詳しく述べる。
そして、ディスカッションの最後の方で、この研究成果がイントロの冒頭で述べた大きな問題の解決に、どう役立つかを説明します。
今後の応用の可能性などに言及しつつ、総論へと話の流れを持っていって、この論文をフィニッシュするわけですね。
まとめると、総論から始まり、各論を詳しく述べて、総論で終わる。
これが論文の基本スタイルであり、専門家の人たちはこの形式に慣れているのです。
だからこそ、一般向けの解説を書くときにも総論から入ってしまうわけですが、そこをあえて「各論から入るようにしましょう」というのが、私の言いたいことです。
論文で言えば、自分自身の研究内容の細かい話から入る、ということですね。
かなり無茶なことを言っていますが、これにはちゃんと理由があります。
総論に終始するからわかりにくい
なぜ各論から入るべきかというと、一般向けの解説で総論から入ると、そのまま総論だけ述べて終わってしまうことがよくあるからです。
総論とは一般化された内容であり、往々にして抽象的な内容を含むので、結局はわかりにくい解説になってしまいます。
総論だけ述べて終わってしまうのは、わかりやすく一般向けに書こうとした結果でもあります。
専門家が一般向けの解説を書くとき、総論からスタートさせた場合には、なるべく複雑な内容、例外的な内容、細かい根拠などに立ち入らないように、気を付けることでしょう。
ですがその結果、教科書的な味気のない解説になったり、理由が述べられないまま結論だけ登場したりすることがよくあります。
つまり、総論から始めると、各論の深い部分に入っていくのがすごくすごく大変になるのです。
このようなことは、論文では決して起こりません。
なぜなら、レビュー論文や総説を除き、通常の論文は各論(自分の研究)を述べるものなので、総論から始めても必ず各論に到達するようにできているのです。
そうでなければ自分の研究を述べられないので、論文として成立しません。
ここが、論文と一般向けの解説との、大きな違いです。
掘り下げられないなら、最深部から始めればいい
一般向けの解説では、総論から各論へと掘り下げていくのがとても大変、ということはお分かりいただけたと思います。
ではどうすればいいのか。
掘り下げられないなら、一番深い場所から始めればいいのです。
総論ではなく、各論から。
思いっきり身近な例を取り上げて、読者の持っている予備知識でも十分に理解できるような言葉で、その例を解説します。
読者の目線で、その具体例を眺めて見ればいいでしょう。
総論なんて(と言ったら失礼ですが)、面白くもなんともありません。
学校の教科書が面白くないのも、同じ理由です。
各論に深く入れていない。
そんなわけで、理系研究者をはじめとする専門家がわかりやすい解説をするには、まず何よりも、各論から入ることです。
そして、そこから総論につなげていく。
当たり前ですが、各論から始まって各論で終わっては意味がありません。
せっかく読者の興味を引いたのに、そこから読者の知らない広い世界へと案内できなければ、読者にとって得るものは少ないでしょう。
一般向けの解説を頼まれたときには、
各論 → 総論
という流れを意識して、わかりやすく面白い文章を書いていただけたらと思います。
PS.
渡邉の一般向け著書はこちらの2冊です。よかったらぜひ読んでみてください。