みなさんご存知のように、地球の誕生は今からおよそ46億年前。

小学校から高校まで理科の教科書でこのように学びますね。

「地球46億年の歴史」の根拠は放射性同位体を使った年代測定ですが、この技術には実は未解決の問題が残されています。

この記事では「46億年」の科学的根拠を示し、その技術的課題についても解説します。

教科書に載っている地球の歴史

まず最初に、理科の教科書の記述を確かめてみましょう。

日本の検定教科書には、「地質年代」という時代区分が載っています。

 

地質年代とは、地球の歴史を大きく4つのパートに区分したものです。

  • 新生代
  • 中生代
  • 古生代
  • 先カンブリア時代

 

この4つです。

そして、それぞれの年代として以下のような数値が割り当てられています。

新生代6600年前〜現在
中生代2.52億年前〜6600年前
古生代5.41億年前〜2.52億年前
先カンブリア時代46億年前〜5.41億年前

 

表のとおり、最も古い時代が「先カンブリア時代」で、その始まりが46億年前です。

つまり、地球誕生は46億年前ということです。

この表は、手元にあった文部科学省検定済教科書(小川ほか,2015;森本ほか,2015)をもとに作成しました。

地球誕生を46億年前とする科学的根拠

多くの科学者が地球誕生を約46億年前と考えているわけですが、一体どうやって測ったのでしょうか。

地球誕生の時期を科学的に決定する試みは、近代科学が発展した17世紀ごろからずっと続けられてきたのですが、「46億年」の根拠が得られたのは20世紀になってからのことでした。

放射性同位体の存在比を利用した年代測定(放射年代測定)により、隕石の形成年代から地球の年齢が明らかになったのです。

 

1956年、米国アリゾナ州で採取されたキャニオン・ディアブロ隕石(鉄隕石)の放射年代測定を実施したクレア・パターソン博士は、隕石の形成年代として次の2つの値を得ました。

  • 45億1000万年
  • 45億6000万年

 

隕石というのは太陽系の形成初期(原始太陽系星雲の誕生から数千万年程度までの期間)に形づくられたものですので、その形成年代がわかれば地球の年代も推定できるというわけです。

後ほど説明しますが、隕石にはウランがほとんど含まれておらず形成年代の特定に非常に好都合だったのです。

 

なお、隕石の形成年代と地球誕生の時期を同じと考えていいかどうかについては議論の余地がありますが、そのズレは数千万年程度だと考えられています。

基本的に、これが「地球46億年の歴史」の科学的根拠です。

 

さて、「46億年」の科学的根拠の未解決問題に入る前に、簡単に放射年代測定の原理を見ておきたいと思います。

放射性同位体による年代測定の原理

放射性同位体あるいは放射性同位元素とは、放射線(α線、β線など)を放出しながら崩壊し、核種変化を起こす元素のことです。

放射性崩壊を起こさない元素はこれと区別して、特に安定同位体と呼ばれます。

 

放射性同位体はそれぞれ固有の崩壊速度を持っており、初めの量の半分にまで減少する期間を半減期と呼んでいます。

すでに知られている放射性同位体の半減期を利用することで、隕石や岩石、氷、化石などの年代測定が可能になるのです。

これが放射年代測定の基本的な原理。

 

・・・と言っても、ちょっとピンと来ないかもしれませんね。

具体的な数字を見ていきましょう。

半減期をざっくりまとめたこちらの表をご覧ください。

 

左端のカラムに書いてある元素が放射性同位体で、これらが放射線を出しながら変化(崩壊)して、真ん中のカラムの元素(崩壊生成物)になります。

元の放射性同位体を「親核種」、崩壊生成物を「娘核種」とも言います。

そして、どれくらいの速度で変化するかというのが右端のカラムで、元の元素が半分になるのに要する期間(半減期)が記されています。

 

例えばカリウム-40(質量数が40のカリウムの放射性同位体)の半減期はおよそ12.6億年、ウラン-238は45億年、ルビジウム-87は488億年で、これくらい長い時間をかけて、徐々に放射性同位体が減っていくわけです。

で、放射性同位体が娘核種に変化する速度は常に一定であるという物理的性質を使って、隕石の年代を次のように決定することができます。

 

まず、着目する放射性同位体はウラン-238。

45億年の半減期で鉛-206に変化する放射性同位体です。

 

隕石の中にはウラン-238がほとんど含まれていないため、隕石中の鉛-206はウランに由来して増えることはありません。

すると、隕石中にあるのはもともと含まれていた鉛-206のみということになりますね。

 

鉛の同位体には鉛-204、鉛-206、鉛-207などがあり、ウラン由来の鉛-206がない場合には、その同位体比は常に一定です。

つまり、隕石中の鉛の同位体比は、隕石が形成された太陽系形成初期の同位体比のままほとんど変化していないということです。

 

一方、地球上の一般的な岩石(花崗岩や玄武岩など)にはウランが含まれますので、ウラン-238の崩壊によって鉛-206が増え、鉛の同位体比は変化していきます。

「半減期45億年」という非常にゆっくりとした速度で、少しずつ変化していくのです。

 

地球と隕石が同じ起源をもつと仮定すると、これらのことから、地球の岩石中におけるウラン-238濃度および鉛の同位体比がわかれば、隕石の年代を計算で求めることができるようになります。

未解決の技術的課題

放射性同位体を使った年代測定技術の進展は目覚ましく、近年では非常に少ない試料からも高い精度で年代を決定できるようになってきています。

しかしながら、この手法には原理的に避けられない幾つかの不確定要素があります。

 

その中でも特に重要な問題は、対象とする測定試料の初期の同位体濃度の決定が、しばしば困難であるという点です。

放射年代測定では、試料の年代は初期の同位体濃度からの減少量に基づいて算出することになりますが、測定できるのは現在の濃度のみで、初期の濃度(初期条件)については様々な工夫をして最も確からしい値を推定しなければなりません。

 

また、初期条件の設定という問題に加えて、証明が難しい次の2つのことを前提としなければならない点も重要です。

  1. 測定する試料(隕石や岩石)に関して、何十億年に渡って放射性同位元素の出入りがなかった。(つまり「閉じた系」であった。)
  2. 放射性同位元素の崩壊速度(半減期)は、地球史を通して常に一定だった。

この2つです。

 

放射性同位元素の崩壊速度は熱や圧力によって変化しないとされているため、(2)の前提は科学的に確からしいと言えます。

すなわち、時刻tにおける原子数N(t)は、

放射性同位元素の原子数の時間変化を表す式

の式で表され、λは定数(「崩壊定数」と呼ぶ)です。

 

一方(1)の前提については、確かな根拠を示すことがしばしば困難になります。

何十億年に渡る地殻変動(地球の変化)の中で、一度できた岩石が溶融・再固化すれば、放射性同位元素の出入りがどうしても生じてしまうからです。

測定結果に重大な影響を及ぼすこれらの前提は、いずれも簡単に証明することができません。

 

初期条件や2つの前提の信頼性をより高めるために、これらの課題は今も研究者によって非常にシビアに検討されています。

まとめ

この記事の内容を要約すると、以下の通りです。

  • 「地球誕生46億年」の科学的根拠は、隕石の放射年代である。
  • 放射年代測定の課題は、放射性同位体の初期の濃度が決定しにくいことと、2つの前提(閉じた系・崩壊速度一定)の証明が難しいことである。

最後までお読みいただきありがとうございました。

引用文献・参考文献

  • 小川勇二郎ほか14名『文部科学省検定済教科書 地学』(数研出版,2015).
  • 森本雅樹、天野一男、黒田武彦『文部科学省検定済教科書 地学基礎』(実教出版,2015).

謝辞

下記の画像提供に感謝いたします。

  • skeezeによるPixabayからの画像(地質年代を描いたスパイラル)

もっと知りたい人のためのオススメ本

ロバート・ヘイゼン『地球進化 46億年の物語』(講談社ブルーバックス,2014)

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