グランド・プリズマティック・スプリング(イエローストーン)
©︎James St. John / flickr

直径110メートルの虹色の熱水泉

青、緑、黄色、オレンジ、赤。

鮮やかな虹色に彩られたこの熱水泉は、アメリカ合衆国ワイオミング州北西部のイエローストーン国立公園にある、グランド・プリズマティック・スプリングです。

 

太陽光を虹の7色に分けるプリズムに喩えて、このような名前が付けられました。

直径およそ110メートルで、深さが50メートルほど。

熱水泉としては非常に大きく、ニュージーランドのフライング・パン・レイク、ドミニカ国(ドミニカ共和国ではありません)のボイリング・レイクに次いで、世界で3番目の大きさを誇ります。

グランド・プリズマティック・スプリングの全景(©︎Yellowstone National Park / flickr

 

北アメリカ大陸最大の火山地帯に位置するイエローストーン国立公園では、熱水泉以外にも様々な熱水活動(マグマで熱せられた地下水の活動)が見られます。

 

定期的に勢いよく水柱を吹き上げる間欠泉(ガイザー)や、水が少ない代わりに泥や砂が多い泥水泉(マッドポット)。

それから、さらに水が少なくなって水蒸気だけが吹き出している「噴気孔」も、同じく熱水活動の一種です。

これら全てを合わせると、イエローストーン国立公園で見られる熱水活動は、1万か所以上にものぼるとか。

 

なお、イエローストーン国立公園は5つの地域(カントリー)からなる広大な自然公園で、グランド・プリズマティック・スプリングがあるのはガイザー・カントリーという地域。

この辺りはイエローストーン火山のカルデラ地形の内側に位置しており、特に多くの間欠泉(ガイザー)や熱水泉が見られる地域です。

 

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虹色の秘密はシリカ微粒子とバクテリア

さて、気になるグランド・プリズマティック・スプリングの特徴的な虹色。

これらの鮮やかな色彩は、水に含まれるシリカの微粒子とバクテリアによるものです。

それぞれの色について、順番に見ていきたいと思います。

 

まず、一番内側が濃い青色に見えるのは、熱水(マグマの熱で加熱された地下水)に含まれる多量のシリカ微粒子が、青色の光を散乱させるためです。

シリカというのは二酸化ケイ素のことで、高温の熱水には周りの岩石から多量のシリカが溶け込んでいます。

そして、その中の一部はシリカの小さな小さな粒(コロイドと呼ばれます)として存在していて、水に入ってきた光がこの粒々に当たると散乱する。

 

でも、光の成分(虹の7色のこと)のうち、散乱するのは青色だけなのです。

他の赤とか黄色とか緑とかは、青色よりも波長が長いという性質があって、非常に小さな粒であるシリカ微粒子には当たらず、素通りしてしまう。

それで中央部は青く見えているのです。

 

また、熱水泉の端の方にいくと黄色、オレンジ、赤、茶色が見られますが、これらはバクテリア(細菌)の持つ色素の色です。

シアノバクテリアという種類のバクテリアで、色素としてはカロテノイド類(黄色・オレンジ・赤)や葉緑素(緑)を持っています。

 

そして、熱水泉の内側から外側にかけてきれいなグラデーションを作っているのは、温度によって住んでいるシアノバクテリアの種類が異なるからです。

種類が異なれば色素の量や組み合わせも異なるため、結果的にこのような帯状のグラデーションに見えるというわけです。

 

最後に、緑色。

中心部の青色と、周辺部の黄色・オレンジ・赤・茶色の間に見えている緑色は、おもに光の混合によるものです。

バクテリアが作る黄色の反射光が中心部の青色に混ざり、緑色に見えているわけですね。

これで見事な虹色の出来上がり。

 

なお、グランド・プリズマティック・スプリングのバクテリアの色は季節によっても変化します。

夏は赤やオレンジが強くなり、冬には濃い緑色になるのが一般的な傾向です。

熱湯の中で生きる微生物

グランド・プリズマティック・スプリングに住むバクテリアは、熱を好む特殊なバクテリアです。

一般的なものと区別して「極限環境微生物」とか「好熱菌」などと呼ばれたりしますが、例えば黄色の色彩を作るシアノバクテリア(シネココッカス)は、約72度まで生存可能。

オレンジから赤の色彩を作るもの(フォルミディウム)だと約50度までで、茶色の色彩を作るもの(カロトリクス)だと約45度まで生存できます。

 

お気づきかと思いますが、中心部から周辺部に向かう色彩の変化と、それぞれの色彩を作るバクテリアの生存可能な温度範囲が対応していますよね。

つまり、周辺部にいくほど熱水の温度が下がるため、より低い温度に対応したバクテリアへと種類が変化しているのです。

 

これらのシアノバクテリアたちも十分にすごいのですが、グランド・プリズマティック・スプリングの極限環境微生物(好熱菌)は、それだけではありません。

実は熱水泉の中心部に当たる青色や緑色の場所、つまりもっと高温の場所にも、微生物の存在が確認されているのです。

 

それらはシアノバクテリアの仲間ではなくて、クロロフレクサスやデイノコックス・テルムスという、別のバクテリアです。

生存可能な温度は、それぞれ約85度および79度まで。

ここまで来ると、もう熱湯ですよね。

 

虹色の熱水泉は、極限環境で生きる微生物の宝庫でもあるのです。

参考文献

場所の情報

衛星写真で見ると、イエローストーン火山のカルデラ地形がよく分かります。カルデラの内側に、イエローストーン湖やグランド・プリズマティック・スプリングがあります。

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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