謎に包まれたグランドキャニオンの侵食過程
赤茶けた平らな高地を深く刻む大渓谷、米国アリゾナ州北部のグランドキャニオンは、コロラド川の渓谷です。
長さ446キロメートル、渓谷の幅は6キロメートルから29キロメートルもあり、深さは平均1200メートルに達するという圧倒的なスケール。
1979年に世界遺産に登録された、特別に偉大な地球の造形の一つです。
さて、グランドキャニオンはコロラド川の侵食作用で作られたというのが一般的な説明ですが、その侵食過程はまだまだ謎に包まれています。
議論の的になっているのは、「いつできたか」ということ。
これには2つの主張があって、ひとつは比較的最近の隆起(陸地が上昇すること)によって、この500万年ほどの間に侵食されたと言う「若いグランドキャニオン」説。
この説はシンプルで、500万年あるいは600万年ほど前から今のコロラド川が侵食を開始し、およそ200万年前までにほぼ現在の深さ(平均1200メートル)に達したと言う考え方です。
そしてもう一つは、グランドキャニオンの起源はもっと古く、7000万年ほど前からすでに侵食が始まっていたとする、「老いたグランドキャニオン」説。
「老いたグランドキャニオン」説の鍵となるのは、約7000万年前から5500万年前に起こった「ララミー変動」と呼ばれる隆起です。
この大規模な隆起により、グランドキャニオンを含む一帯はおよそ1500メートルから3000メートルも上昇したと言われています。
7000万年前と言えば白亜紀の末、恐竜たちが繁栄していた時代ですね。
ララミー変動をきっかけにして、恐竜時代からすでに侵食が始まっていたとするのが、「老いたグランドキャニオン」説の考え方です。
ちなみに、グランドキャニオンの最上部の地層は、約2億3000万年前の「カイバブ石灰岩層」です。
7000万年前のララミー変動よりもずっと古くに形成された地層で、非常に平らな「台地(テーブルのように平らな土地)」を形成しています。
グランドキャニオンの頂上がおおむね平坦で、標高が2000メートルから2500メートルと一定であるのは、最上部の硬いカイバブ石灰岩層が侵食されずに残っているためです。
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形成時期の異なる複数の渓谷がつながったという説
グランドキャニオンは若い渓谷なのか、それとも年老いた渓谷なのか。
この議論に解決を与えそうな、3つ目の説があります。
それは次のようなもの。
まず、もともとこのエリアには、現存しない古代の河川によってできた、形成時期の異なる複数の渓谷があった。
そして、それらが600万年ほど前に始まったコロラド川の侵食によってつながり、現在のグランドキャニオンができた。
このような説です。
先の2つの主張を見事につなぐ考え方ですね。
実は、グランドキャニオンの広大な渓谷が「全部同時期に」できたのかどうか、それも謎のままなのです。
つまり、形成時期が場所によって違うのではないか、と言うこと。
グランドキャニオンには大きく分けて東エリアと西エリアがあるのですが、東と西で別々の時代に侵食が始まった可能性が示されています。
東エリアの侵食は約2500万年前にスタート。
一方、西エリアの侵食時期はそれよりももっと古く、7000万年前から5500万年前くらいと考えられています。
ちょうどララミー変動の時期ですね。
西エリアについては、さらにいくつかの形成時期に分けられる可能性があるとのこと。
そして、これらの古い渓谷が、600万年ほど前に始まったコロラド川の侵食によって一つにつながったと言うわけです。
500万年から600万年ほど前というこの時期は、カリフォルニア湾ができた時期でもあります。
グランドキャニオンを抜けたコロラド川が最終的に海とつながる河口がカリフォルニア湾。
このことは、カリフォルニア湾ができることでコロラド川の勾配(傾斜の度合い)が大きくなったことを意味します。
その結果、よりいっそう侵食が進むようになりました。
グランドキャニオンはなぜこんなに深いのか
これまで「グランドキャニオンはいつできたのか」についてお話してきましたが、もうひとつの疑問があります。
それは、「莫大な侵食の量」です。
特に深さ。
なぜこんなにもグランドキャニオンは深いのでしょうか。
グランドキャニオンがいつできたにせよ、先ほどまでの説明だと、いずれにしてもコロラド川もしくは現存しない古代の河川によって削られてできたわけです。
コロラド川は確かに大きな川ですし、流れの急な場所もありますが、この広大なグランドキャニオンを削るにはどうしても力不足だと感じてしまう。
それほどまでに、グランドキャニオンの削られ方は凄まじいのです。
これについては、過去の河川の侵食力が現代のそれよりもずっと強かったためと考えられています。
河川の侵食というのは、どこまでも深く掘り進んでいけるわけではなく、「侵食基準面」というある一定の標高までしか掘り進むことができません。
この基準面は、河川が最終的に注ぎ込む海の「平均海面(高さ)」で決まります。
侵食されるエリアの標高が平均海面と比べて高いほど侵食力は大きくなり、逆に平均海面に近くなるほど侵食力は弱くなります。
グランドキャニオンは、ララミー変動により大規模な隆起を経験していますね。
この隆起によって海面との標高差が急激に大きくなり、侵食力が大きくなったというのが、グランドキャニオンの「莫大な侵食の量」を説明する基本的な考え方です。
すなわち、3000メートルも隆起することで河川の勾配が急になり、流れが速くなり、その分、地層を削る力も大きくなったというわけです。
そのほか、過去には氷河時代の影響で、今よりもっと水量が豊かであったことも大事な要因です。
参考文献
- 山野井徹(1998)アメリカ西部の地質巡検.山形応用地質18,9−22.
- 講談社ブルーバックス | 意外! 日本は世界1位の「超深海」大国
- 旅行の友 | グランド・キャニオン国立公園 気温