米国ミシガン州の縞状鉄鉱層
©︎James St. John / flickr

 

▼▼▼動画もあります▼▼▼

鉄と碧玉でできた縞模様

鮮やかな赤色と鈍く光る銀色が交互に重なり合い、美しい縞模様を作っているこの岩石は、縞状鉄鉱層(しまじょうてっこうそう)と呼ばれる約21億年前の岩石です。

写真の岩石が露出している場所は、アメリカ合衆国ミシガン州イシュプミング郊外。

五大湖の一つであるスペリオル湖の南側、アッパー半島の付け根辺りです。

 

縞状鉄鉱層は、鉄を主体とする鉱物と二酸化ケイ素を主体とする鉱物が互いに重なり合い、厚さ0.5から3センチメートルほどの縞模様を作っている岩石の総称で、世界中の古い地層からたくさん見つかっています。

地殻変動の影響で地層はグニャグニャと変形しており、鉄を豊富に含むため、一般的な岩石よりも非常に重い(密度が高い)のが特徴。

 

そして、一口に縞状鉄鉱層と言ってもいろんなバリエーションがあり、その中のいくつかには特別な岩石名が付けられています。

冒頭の写真で示した縞状鉄鉱層の岩石名は、ジャスピライト。

名前からも分かる通り、ジャスパー(碧玉)という宝石の一種を含む岩石なのです。

 

ジャスパーの成分は基本的には水晶と同じで、二酸化ケイ素でできています。

そこに不純物として酸化した鉄(錆びた鉄)が混ざることで、鮮やかな赤色になる。

つまり、縞模様の中の赤い部分がジャスパーですね。

 

一方、黒みがかった銀色の部分は鉄鉱石で、磁鉄鉱(マグネタイト)と赤鉄鉱(ヘマタイト)と言う酸化鉄の鉱物でできています。

2000キロメートルに渡る巨大な鉄の鉱山

イシュプミング郊外にある縞状鉄鉱層は、ジャスパー・ノブと呼ばれる小さな丘を形成しています。

こちらの写真がジャスパー・ノブの様子。

ミシガン州イシュプミングの町中にある縞状鉄鉱床の露頭(ジャスパー・ノブ)
ジャスパー・ノブの縞状鉄鉱層(©︎James St. John / flickr

 

ただし、これは全体の分布から見たらほんの一部に過ぎません。

この辺りの縞状鉄鉱層は、カナダ東部からスペリオル湖周辺まで、実に2000キロメートル以上に渡って帯状に伸びているのです。

世界中の縞状鉄鉱層の中でも最も有名かつ広大な分布域。

そして、十分に産業利用可能な品質の鉄鉱石ですので、大規模に採掘が行われてきました。

 

ここで少し、資源という観点から縞状鉄鉱層を見てみたいと思います。

北アメリカ大陸を始め世界各地に分布する縞状鉄鉱層は、規模が大きいだけでなくそのほとんどが資源として利用可能な品質であるため、地球上で最も重要な鉄の鉱石となっています。

 

鉄は古くから人類の文明を支えてきた金属であり、今もなお、大量に利用されていますね。

ところが、様々な金属の枯渇が心配される中、鉄についてはなぜか、枯渇の心配がされていません。

こんなにたくさん使っているのに、です。

 

その理由は、縞状鉄鉱層という巨大な鉄の鉱山が世界中に広がっていて、その埋蔵量が人間の利用する量と比べても圧倒的に多いからなのです。

何ともありがたい話ですね。

「リサイクルするよりも、鉄鉱石から鉄を取り出した方が安く済む」という話は、こういう資源事情から来ているわけです。

縞状鉄鉱層の形成は18億年前に終了

しかし、遠い未来を考えると安心してもいられません。

縞状鉄鉱層が形成された年代は18億年以上前(ジャスパー・ノブは約21億年前から19億年前まで)で、それ以降は約7億年前の一時期を除き、全く形成されていないのです。

言わば岩石の「絶滅種」であり、現在の地球上でも未来の地球上でも、縞状鉄鉱層が新たに形成されることはありません。

遠い未来の話にはなりますが、「無くなれば終わり」ということです。

 

縞状鉄鉱層が現在の地球上で形成されないのは、その形成プロセスが、地球46億年の歴史の中でたった一回だけあった重大イベント、「酸素の増加」と深く関係しているからです。

 

光合成を行う微生物(シアノバクテリアと呼ばれます)が地球上に現れる前は、地球の大気は二酸化炭素と窒素でできていて、酸素はほとんどありませんでした。

最初の光合成生物が現れたのが約32億年前で、少なくとも約27億年前には大量のシアノバクテリアによる光合成が始まっていたことが、化石の証拠からわかっています。

 

さて、縞状鉄鉱層が形成された年代にはすでにある程度の酸素があったわけですが、この酸素が鉄と結びつかなければ、縞状鉄鉱層を構成する酸化鉄鉱物(磁鉄鉱や赤鉄鉱)はできません。

肝心の鉄はどこから来たのでしょうか。

 

実は、陸上の岩石が侵食によって削られて海洋へと運ばれていき、そのような土砂から海水中に鉄が溶け出したと考えられています。

ただし、海洋は海洋でも、浅い海ではなく深海底です。

 

縞状鉄鉱層の形成よりももっと前から、光合成生物の活動で酸素はある程度あったと書きましたが、それは浅い海や大気中の話であって、深海までは酸素が行き届いていなかったと考えられます。

無酸素の状況では鉄分は安定的に海水に溶けますので、深海底では鉄分に富む海水ができたことでしょう。

あるいは、海底の火山活動に伴う熱水の噴出で、海底下から直接鉄分が供給されたという説もあります。

 

いずれにしても、深海底では豊富に鉄分を含む海水ができていて、その海水が深層流と呼ばれる深海の流れに乗って移動し、やがては海洋表層へと上がって行く。

そうして、光合成生物によって酸素が放出されている浅い海(大陸棚のような場所)に到達することで、海水中の鉄分と酸素が反応して縞状鉄鉱層の酸化鉄が形成されるというわけです。

 

約18億年前に縞状鉄鉱層の形成が終了したのは、無酸素状態で海水中に溶けていた鉄分が全て酸化されてしまったから。

それ以降、海水中に大量の鉄分が溶けている状態が再現されることはなく、おそらく今後もありませんので、縞状鉄鉱層は岩石の「絶滅種」になってしまったのです。

 

なお、長年の研究にもかかわらず縞状鉄鉱層の形成プロセスはまだまだ謎に包まれていて、縞模様ができる理由や分布域が帯状に伸びる理由などについては、ほとんど明らかになっていません。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


Amazon | 楽天ブックス