グラシアル・ペリート・モレノ(アルゼンチンの氷河)
©︎José Bevevino / flickr

南極とグリーンランドに次ぐ3番目の巨大氷河

南米アルゼンチンにあるロス・グレシアレス国立公園では、湖に流れ込む複数の氷河が見られます。

写真の氷河はその中の一つ、ペリト・モレノ氷河。

その先端部分がアルヘンティーノ湖に流れ込んでいます。

ペリート・モレノ氷河の場所の衛星写真
ペリト・モレノ氷河の衛星写真(Googleマップ)

 

これほど巨大な氷河の写真、なんだか南極みたいですね。

手前の湖が海だったら、見間違えてしまいそうです。

 

ペリト・モレノ氷河があるのは南アメリカ大陸の南の方ですが、南極大陸と比べればまだまだずっと低緯度。

緯度で言うと南緯50度くらいの場所にあります。

氷河で有名なアルヘンティノ湖の位置(南米アルゼンチン)
南アメリカ大陸の南部、ペリト・モレノ氷河の場所(Googleマップ)

 

南アメリカ大陸の最南端からは船旅の南極大陸ツアーなども企画されているので、距離的に近いと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

参考までに、南アメリカ大陸最南端の街「ウシュアイア」がおよそ南緯55度で、ウシュアイアから南極大陸の最北端「プライムヘッド」(南緯約63度)までの距離が1000キロメートルくらいです。

 

ペリト・モレノ氷河からプライムヘッドまでだと、直線距離で約1500キロメートルも離れていることになる。

1500キロメートルと言えば、おおよそ東京から沖縄までの直線距離に相当します。

結構な距離ですよね。

 

このように、緯度的には南極大陸から大きく離れた場所にあるペリト・モレノ氷河ですが、それにもかかわらず、この辺り一帯の氷河は南極大陸、グリーンランドに次いで、世界で3番目の大きさを誇る巨大氷河なのです。

他の2か所の氷河に比べれば、比較的温暖な環境にある氷河だと言えるでしょう。

 

なお、ここで言う「この辺り一帯の氷河」とは、ペリト・モレノ氷河を含むアンデス山脈南端部に広がる氷河のことで、この巨大氷河は「南パタゴニア氷原」と呼ばれています。

 

比較的温暖な環境にある南パタゴニア氷原の巨大氷河を支えているのは、アンデス山脈における大量の降雪。

海からの強い偏西風が吹き付ける南アメリカ大陸の南部では、アンデス山脈にぶつかった偏西風が大量の雪を降らせるのです。

その大量の雪が、長い年月をかけて自らの重みで圧縮され、やがて氷河になる、と言うわけです。

長年の圧縮で青く見える氷

「アンデス山脈に降った雪が、長年の圧縮で氷河になる。」

このことは、氷河の色にも関係しています。

 

冒頭の写真を見ると、氷が異様に青いですよね。

もちろん撮影条件や色補正の条件にもよりますが、ペリト・モレノ氷河の氷は、実際に青く見えるのです。

 

その理由は、ここの氷河の氷が、長年の圧縮によって空気を含まなくなった透明度の高い氷だから。

透明な氷は光の乱反射が起こりにくいので、より氷の奥深くまで光が透過し、その結果、赤い光の成分が氷に吸収されてしまって青く見えるのです。

 

もう少し補足しますね。

まずは降り積もったばかりの雪を考えてみましょう。

雪は白いですよね。

 

でも、雪の粒である氷の結晶は、透明。

透明な粒がたくさん集まって白く見えているのです。

これは、雪の粒があまりにも小さいので、表面に当たった光があらゆる場所で乱反射し、光が持つ全ての色の成分が混ざった状態で目に飛び込んでくるからです。

光の成分というのは虹の7色のことで、全部混ざると白い光になるという性質があります。

 

さて、このような細かい雪の粒が、だんだんと圧縮されて氷へと変化していきます。

そうすると、粒と粒が融合し、中の空気は抜けて、大きめの透明な氷が作られるようになる。

 

大きめの透明な氷は、細かい雪の粒ほどは光を乱反射させません。

氷に当たった光は、ある程度透過し、しばらくしてから反射する。

 

そして、光は氷の中を透過するときに、少しずつ赤色の成分が吸収されてしまうのです。

ですから、雪が氷になればなるほど、目に飛び込んでくる光は青っぽくなる。

氷河のように長年圧縮された氷であれば、より一層青く見えるというわけです。

 

ただし、もちろん泥や大気中の不純物が混ざっていてはいけないので、透明な氷に限ります。

温暖化でも後退しないペリト・モレノ氷河の謎

さて、先ほどペリト・モレノ氷河のことを、「南パタゴニア氷原から伸びる氷河の中の一つ」と説明しましたが、「氷河の中の一つ」と言っても、その大きさには圧倒されます。

どれほど巨大なのか、まずはこちらの写真でペリト・モレノ氷河の全景をご覧ください。

アルゼンチンのペリート・モレノ氷河全景
ペリト・モレノ氷河の全景(©︎Petr Meissner / flickr

 

写真の通り、山岳地帯を埋め尽くす広大かつ分厚い氷河。

ペリト・モレノ氷河の面積は約250平方キロメートルで、長さが約30キロメートルにも達します。

 

写真は氷河の先端部から上流側を見ているところなのですが、押し寄せてくる氷の壁の高さが、平均で74メートル、幅が約5キロメートル。

74メートルと言えば、例えるなら24階建てのタワーマンションの高さです。

ものすごい迫力ですね。

 

氷河の先端はアルヘンティーノ湖に流れ込んでいるため、氷河の下部は水面下に沈んでいます。

湖に沈んでいる厚さも合わせると、先端部の氷の厚さは170メートルほどにもなります。

 

そして、驚くことにこの氷河は、年間およそ700メートルの速さで成長しているというのです。

成長した分は先端部分でアルヘンティーノ湖に流れ込んでいきますので、全長はほぼ一定です。

 

でも、年間700メートルの速さで氷河が流れ、湖に流れ込んだ分だけ、また上流部で氷河が成長しているのです。

この速さ、1日にすると約2メートルですね。

止まっているように見える氷河でも、実際には、まさに「河」のように流れているわけです。

 

近年の地球温暖化の影響で、南パタゴニア氷原にある50以上の氷河のほとんどが、その量を減らして後退しています(長さが短くなっている)。

南パタゴニア氷原全体で見ると、氷河の量が減り続けているのは確かなこと。

しかし、そのような中でもペリト・モレノ氷河は成長を続けていて、少なくとも後退はしていないのです。

 

ペリト・モレノ氷河の成長はアンデス山脈の豊かな降雪だけでは説明がつかず、いまだに議論の的となっています。

参考文献

場所の情報