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私たちの身近にある月。

この月が、もしもある日突然なくなったら、どうなってしまうのでしょうか。

 

この話題は様々なところで語られていて、世界が破滅するんじゃないかとか、破局的な変化が起こって世界が終わってしまうんじゃないかとか、大災害が起きるんじゃないかとか、いろんなことが言われています。

しかし、実際のところどうなのでしょう。

 

▼▼▼解説動画もあります▼▼▼

真っ暗な夜空になり、毎日が星空ショーに

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まず、ポジティブな側面から考えてみたいと思います。

もしもある日突然、月がなくなったら。

1番目は、「真っ暗な夜空になり、毎日が星空ショーになる」です。

 

……何をのんきなことを言っているんだ!

と言われそうですけれども、月明かりはかなりの明るさなので、月がなくなったら夜空が真っ暗になって、そのぶん星空観察がしやすくなります。

 

場所によっては天の川が見えるかもしれませんし、流れ星も見つけやすくなるでしょう。

獅子座流星群、あるいはペルセウス座流星群が来る季節であれば、月の明るさを気にすることなく毎晩美しい星空ショーを見ることができるのです。

 

しかし、ご想像の通り月がなくなるというのは大変なことで、いつまでも星空ショーに浸っているわけにはいきません。

他にもいろんなことが起こります。

干潟が消滅して、潮干狩りができなくなる

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もしもある日突然、月がなくなったら。

2番目は、「干潟が消滅して、潮干狩りができなくなる」です。

 

潮干狩りと聞くと、またちょっと身近なところなので危機感があまり湧いて来ないかもしれませんが、これは「潮の満ち引き」に関係する重大なことです。

 

月は、その引力によって地球の海水を引っ張っています。

それによって、地球では潮の満ち引きが起こるわけですね。

 

干潟というのは、潮が満ちた時には海水に覆われますが、潮が引いた時には海面から顔を出し、大気に触れるようになる場所のこと。

大きな川の河口など、海と陸の境界部分によく見られます。

 

干潟は潮の満ち引きがあるからこそ生まれる地形で、その潮の満ち引きは、月の引力が海水を引っ張ることによって起こる。

つまり、月がなくなれば潮の満ち引きもなくなり、干潟もなくなり、その結果潮干狩りもできなくなるということです。

補足:太陽による潮の満ち引きもある

ただ、月の引力による潮の満ち引きはなくなるのですが、潮の満ち引きが完全になくなってしまうわけではありません。

実は月以外に、太陽からの引力によっても潮の満ち引きはわずかに起こっているのです。

 

潮が満ちる「満潮」と潮が引く「干潮」だけでなく、最も水位の高い満潮である「大潮(おおしお)」というのを、聞いたことがあると思います。

大潮になるのは、太陽と月と地球が一直線上に並んだとき。

月の引力と太陽の引力の両方が一緒になって海水を引っ張るため、より大きく潮が満ちるのです。

 

太陽は月と比べてあまりにも距離が遠いため、その引力の影響は目立たないのですが、このように確かに地球の潮の満ち引きに影響を与えています。

生活排水が浄化されず、近海が汚れる

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もしもある日突然、月がなくなったら。

次も干潟に関係することなのですが、3番目は「生活排水が浄化されず、近海が汚れる」です。

 

干潟というのはとても大事な役割を担っていまして、その大事な役割というのは、水の浄化作用です。

干潟は陸と海の間、特に大きな川の河口などに発達し、干潟には川や雨水によって陸地からの生活排水が流れ込みます。

 

「生活排水」と言っても、見るからに汚い水というわけではありません。

一見するとそんなに汚れていない水に見えるのですが、陸から流れ込む川や雨水の中には、有機物や栄養塩(窒素やリン)が多く含まれているのです。

 

これら有機物、窒素、リンを取り除いて水を浄化してくれているのが、干潟。

もう少し正確に言えば、干潟に住んでいる微生物です。

バクテリアや植物プランクトンなどですね。

 

これらの微生物は、有機物を分解したり窒素やリンを吸収したりして、水から取り除いてくれるのです。

 

こうした浄化作用が干潟にあるのは、干潟という場所がバクテリアなどの微生物にとって住みやすいから。

干潟は、潮の満ち引きによって定期的に海面から顔を出し、大気と接します。

その時に干潟の砂には酸素が十分に供給され、微生物の活動が活発になるわけですね。

 

このように、干潟は水の浄化作用という大事な役割を担っていますので、もし月がなくなって潮の満ち引きがストップし、干潟がなくなると、陸から流れ込む生活排水で近海が汚れてしまうのです。

ウナギの値段が高騰する

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もしもある日突然、月がなくなったら。

4番目は、「ウナギの値段が高騰する」です。

 

月とウナギと何の関係があるのか、と不思議に思いますよね。

ウナギも、実は干潟と深い関係がある生き物なのです。

ウナギは赤ちゃん、つまり稚魚の時代を干潟で過ごすため、干潟がなくなることで成長の場が奪われ、その結果ウナギの数が減ってしまう。

元々値段の高いウナギですが、さらに高級になるというわけです。

 

ウナギは川に住む淡水魚だと思われていますが、ウナギが卵を産む場所は海です。

川に住んでいるウナギが産卵の時期になると川を下ってきて、海の深い場所に向かって泳いで行く。

産卵場所は結構深くて、日本のウナギの場合はマリアナ海溝付近の深海だと考えられています。

2000メートルとか3000メートルといった深い場所。

 

ウナギの生態はまだ良くわかっていないことが多く、研究が進められている最中ですが、深海で卵を産むことはどうやら確かなようです。

そして、孵化した卵は浮遊性の幼生(半透明の小さな生き物)となり、海の中を漂いながら川の河口に広がる干潟にたどり着きます。

 

干潟にたどり着いたウナギの幼生は稚魚へと姿を変え、干潟の穏やかな環境で成長していく。

そして、やがて青年(成魚)になったウナギが川を上って行って淡水魚になる、というわけです。

 

ですから、月がなくなって干潟がなくなるということは、ウナギにとっては赤ちゃんから子供時代を過ごすゆりかごのような環境がなくなってしまうことを意味し、その結果、ウナギの数は減ってしまうのです。

 

また、ウナギ以外にも稚魚の時代を干潟で過ごす魚は結構います。

例えば、カレイ、ハゼ、アユなど。

こういった魚も赤ちゃんの時代を干潟で過ごすので、干潟がなくなればたいへん危機的な状況になります。

北極と南極の氷がますます溶ける

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もしもある日突然、月がなくなったら。

5番目は、「北極と南極の氷がますます溶ける」です。

 

今現在、気候変動の影響で北極や南極の氷が溶けつつあると言われていますが、もし月がなくなると、これらがもっと溶ける可能性があります。

北極や南極の氷が溶けることと、月と、一体どんな関係があるのか。

鍵となるのは、地球の自転運動です。

 

地球は、コマのようにくるくる回っていますよね。

この回転が地球の自転ですが、回転している軸のことを「自転軸」あるいは「地軸」と言います。

 

この地軸が、現在は23.4度くらい傾いています。

太陽の周囲を回る公転面に対して、垂直な方向から23.4度傾いた状態。

この傾いた状態のまま、地球は太陽の周りを回っているわけです。

 

地軸の傾きは非常に安定していて、過去100万年の間に2.4度ほどしか変化していません(22.1〜24.5度、約4万1000年周期)。

このような地軸の安定性に大きな役割を果たしているのが、月の存在なのです。

大きな質量の月が地球の周りを回ってくれることで、コマのような地球の回転も安定するのですね。

 

月がなくなると言うことは、地軸の安定性が失われてしまうことを意味します。

そうすると、地球はコマがふらつくように地軸をフラフラさせながら太陽の周りを公転することになる。

実際に、大きな衛星を持たない火星では、自転軸の傾きが最大で10度も変化することが観測されています。

 

さて、地軸がフラフラすることで、例えば現在よりももっと地球が横倒しになったとします。

つまり、地軸の傾きが23.4度よりももっと大きくなったとする。

 

そうすると、北極や南極では夏場の太陽の位置が現在よりも高くなって、温かい太陽のエネルギーをたくさん受け取ることができるようになります。

夕方とお昼頃を比べるとお昼頃の方が温かいように、太陽のエネルギーは位置が高いほど効率よくその土地に降り注ぐのです。

その結果、北極や南極の氷はますます溶けるようになるというわけです(ただし、夏場に限る)。

 

一方、地軸が不安定になった結果、逆に地軸の傾きが小さくなることも考えられます。

その場合は、北極や南極での太陽の位置がもっと低くなるので、今よりも温度が下がり、氷の量も増えることになります。

補足:お米もパンもなくなる

また、地軸がフラフラすると四季がめちゃくちゃになってしまいますので、気候の変化に弱い植物は育たなくなってしまいます。

 

お米や小麦というのは結構デリケートな植物。

特に、園芸品種として改良されているものは特定の気候に最適化されているため、気候の変化にうまく適応できません。

 

自転軸がフラフラして四季がめちゃくちゃになったら、おそらくお米も小麦も育たないでしょう。

つまり、お米もパンもなくなってしまうということです。

日本でも白夜が見られるようになる

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もしもある日突然、月がなくなったら。

6番目は、「日本でも白夜(びゃくや)が見られるようになる」です。

 

白夜というのは、一晩中太陽が沈まない夜のこと。

ノルウェーやアイスランド、グリーンランド、アラスカ、カナダといった緯度の高い地方で見られる現象です。

 

日本で白夜が見られるかどうかというのは、自転軸の傾きによります。

日本の緯度というのは、だいたい北緯20度から46度ぐらい。

 

最も緯度の高い北緯46度を基準にしますと、自転軸の傾きがおよそ44度傾けば、真夜中であっても日本の最北端ではギリギリ太陽の光が差し込むことになります。

つまり、現在の自転軸の傾きである23.4度から、約20度以上自転軸が横倒しになることで、日本でも白夜が見られるようになる。

 

月がなくなることで地球の自転軸がどれくらい傾くかは、実のところ良くわかりません。

ただ、大きな衛星を持たない火星の自転軸が、最大で10度ほどふらついているという観測データはあります。

 

火星の例から考えれば、月がなくなることで地球の自転軸が20度以上傾くというのは、ちょっと考えにくいことです。

しかし、火星と地球では大きさも質量も違いますので、自転軸のふらつきが予想外に大きくなることもあるでしょう。

ですので、日本でも白夜が見られる可能性があるということです。

すさまじい強風が吹いて、外を歩けなくなる……ことはない

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もしもある日突然、月がなくなったら。

7番目は、「すさまじい強風が吹いて、外を歩けなくなる……ことはない」です。

 

ないなら別に書かなくてもなさそうですが、ここであえて書いたのは、いろんな場所で「月がなくなったら強風が吹き荒れる」と言われているからです。

だから、ちょっと真剣に考えてみたい。

 

「強風が吹き荒れる」の根拠は、月がなくなると地球の自転が超高速になるから、というものです。

どういうことか、順番に見ていきますね。

 

まず、月はその引力で地球の海水を引っ張っていると、最初の方でお話ししました。

この引っ張りの結果として、回転する地球と海水との間で摩擦が起こり、地球の自転はブレーキをかけられているのです。

だから、地球の自転はだんだんと遅くなっている。

 

月がなくなるということは、地球の自転を遅くしている張本人がいなくなるわけですから、地球の自転はもっと速くなるのではないかと考えられるのです。

その結果、地球は超高速で自転するようになり、地球の表面には強風が吹き荒れて生物の住めない星になる。

 

こういうことが言われているわけですね。

でも、良く考えてみるとこれはちょっとおかしい。

月がなくなっても、地球の自転は速くならないはずなのです。

 

月の引力が地球の自転を遅くしているというのは事実です。

しかし、月がなくなっても、遅くなった自転の速度は元に戻らない。

 

なぜなら、地球の自転が遅くなるというのは、地球の回転運動のエネルギー(正確には角運動量)が月に移った結果だからです。

 

地球と月の回転運動は互いに密接に関係していて、実は地球と月を合わせた全体で、回転運動のエネルギーが一定になっているのです。

だから、例えば地球の回転が遅くなれば、その分の回転運動のエネルギーは月に移る。

そして、月はもっと遠くの軌道を回ることで、エネルギーの大きな回転運動をするようになるのです。

 

「地球の回転運動のエネルギーが月に移ってしまった」というのがポイント。

何十億年もかけて少しずつ少しずつ移り、現在その分のエネルギーは月が持っているという状態です。

 

ここで、月が突然なくなるわけですね。

そうしたら、地球がかつて持っていた回転運動のエネルギーは、月と一緒に消えてしまいます。

地球が失ったエネルギーは、もう戻ってこない。

 

だから、地球の自転速度は何も変わらないわけです。

月がなくなっても自転が超高速になることはなく、従って、強風で外を歩けなくなるということもありません。

ここまでのまとめ

というわけで、もしもある日突然、月がなくなったら、以下のようなことが起こります。

  1. 真っ暗な夜空になり、毎日が星空ショーに
  2. 干潟が消滅して、潮干狩りができなくなる
  3. 生活排水が浄化されず、近海が汚れる
  4. ウナギの値段が高騰する
  5. 北極と南極の氷がますます溶ける
  6. 日本でも白夜が見られるようになる
  7. すさまじい強風が吹いて、外を歩けなくなる……ことはない

 

こう見てみると、ちょっと拍子抜けしたかもしれませんね。

地球が滅亡するほどの大災害にはならなさそうですから。

 

しかし、自転軸の傾きが不安定になるというのは大変な驚異です。

気候の変化が激しくなることで農作物が育たなくなり、食料不足は間違いなく危機的な状況になるでしょう。

戦争が起きたり、さらには人類が滅ぶという事態にもなりかねません。

 

また、自転軸が横倒しに近くなるほど、夏場の暑さ・冬場の寒さが厳しくなります。

その結果、地球上の多くの場所で、人間の住む場所が奪われるかもしれません。

 

このようなわけですから、結構大きな変化が起こるということはわかっていただけるのではないでしょうか。

その結果、こんな暮らしになるかも

以上を踏まえて、月がなくなった結果私たちの暮らしはどうなるのか、大胆に予想してみたいと思います。

人工の月

月がなくなれば、夜空が真っ暗になって毎晩が星空ショーになるわけですが、星の明かりだけではあまりにも夜が暗すぎる。

そこで、人類は人工の月を打ち上げるのではないかと思います。

 

実際に中国では、街灯の電力を節約するために人口の月を打ち上げる計画があるそうです。

人工栽培

また、農業においては人工栽培がますます盛んになるでしょう。

 

自転軸がフラフラすることで地球の気候が劇的に変化すれば、今まで育ててきた作物は気候の変化に適応できず、途端に全滅してしまいます。

もはや人工的に環境をコントロールするしか、作物を育てる道がありません。

 

お米、小麦をはじめとする様々なタイプの農業が、人工栽培をもっともっと発達させていくと思われます。

 

それと同時に、人類の主食も変化することでしょう。

今はお米や小麦が主食ですが、これらが気候の変化に適応できなかった場合、もし他に適応できる作物があれば、それが主食になる可能性が高いです。

気候の変化に比較的強いとされるトウモロコシ、大豆、イモ類などかもしれませんし、あるいは全く別のものかもしれません。

地下都市

自転軸が現在よりも横倒しに傾いた場合、夏場の暑さ・冬場の寒さが極端に厳しくなります。

そうすると、たとえ冷暖房設備があったとしても、地上では生活が困難になります。

 

そこで、気温の変化が少ない地下へと生活の場所を移すのではないかと思います。

つまり、地下都市が発達する。

 

外に出られないのは辛いですし、地下都市でどうやって太陽光を取り入れるかなど、課題はたくさんあるでしょう。

実現するには高度なテクノロジーが必要ですが、地上で住む場所を失った人類が生き残る手段として、有望な選択肢の一つです。

 

以上、今回は「もしもある日突然、月がなくなったら」について考えてみました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

もっと知りたい人のためのオススメ本

『もしも、地球からアレがなくなったら?』渡邉克晃・室木おすし(文友舎,2021)


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