(イラスト提供:Clker-Free-Vector-ImagesによるPixabayからの画像)

 

今回お伝えするのは、「象牙質液体輸送システムの停滞・逆流が虫歯をつくる」という話です。

虫歯の根本的な原因に迫る重要な医学的知見を解説していますので、ぜひ参考にしてください。

生物の体には「自己防衛システム」が備わっている

人に限らず、生物の体にはいわゆる「自己防衛システム」が備わっています。

体の一番外側は皮膚によって守られ、傷ができても修復し、内部に入り込んだ細菌は速やかに排除されます。

これらの自己防衛システムが崩れた時に、病気になるわけですね。

 

この自己防衛システムでもっとも重要な役割を果たしているのが、血液の流れです。

血液の流れが鈍くなった部分で、病気になります。

細菌に感染したり、機能が低下したり。

歯にも自己防衛システムがある

体にはこのように自己防衛システムがしっかりあるので、普段は特にケアしなくても病気になりません。

でも、歯は常に磨かないと虫歯になりますよね……。

歯にだけは自己防衛システムがないのでしょうか?

 

いえ、そのようなことはなく、歯にも自己防衛システムがちゃんとあるのです。

しかも、体の他の部位と同じく、血液の流れと密接に関係した自己防衛システムです。

口と体は「象牙質液体輸送システム」でつながっている

歯の中に血液は流れていませんが、かと言って、歯は石ころのようなただの無機物ではありません。

歯の中には、血液由来の透明な液体が流れているのです。

このような歯の中の液体の流れを、「象牙質液体輸送システム」と言います。

 

当然ですが、血液は歯の中には入れません。

その代わり、歯の根元の血管から歯髄(歯の神経などが集まった繊維状の束)へと、血液の成分の一部が流れ込んでいます。

そして血管から歯髄へと流れ込んだ液体は、歯髄から象牙質へ、象牙質からエナメル質へと流れ、最終的には口の中に出て行きます。

 

つまり、歯の内側から歯の外側に向かって、一定方向に流れる液体輸送システムがあるのですね。

そしてこの「象牙質液体輸送システム」を介して、口と体はつながっているのです。

歯の自己防衛システムは2つ

歯の自己防衛システムには2つあって、ひとつはこの「象牙質液体輸送システム」です。

歯の内側から外側に向かって、一定の方向に常に液体が流れているため、口内の虫歯菌は歯の内部に入れず洗い流されてしまいます。

 

ですから、この液体輸送システムがしっかりしていれば、歯の中はいつもクリーン。

虫歯菌による汚染が起こりません。

これが一つ目かつ最大の自己防衛システムです。

 

もう一つの自己防衛システムは、唾液のpH緩衝能力です。

「緩衝(かんしょう)能力」というのは少し難しい言葉ですが、荷物に詰めるプチプチを「緩衝材」と呼ぶように、刺激や力を分散・吸収して和らげる能力のことを言います。

ここで言う「pH緩衝能力」というのは、ある環境のpHの変化に対して、その変化を和らげて、元のpHの状態に戻してしまう能力です。

 

これがなぜ歯の自己防衛システムになるかと言うと、虫歯菌の出す酸によって歯の表面のpHが下がってしまった時、正常な唾液のpHは7.4程度ですので、唾液によって歯の表面のpHが再び中性付近へと戻されるのです。

これが唾液によるpH緩衝能力。

pHが下がってしまうと歯の成分が溶け出して虫歯になってしまうため、この唾液のpH緩衝能力によって、私たちの歯は虫歯から守られているのです。

「象牙質液体輸送システム」と並んで、こちらも大切な自己防衛システムと言えるでしょう。

 

つまり、象牙質液体輸送システムが停滞・逆流せずに正常に機能しており、かつ唾液のpHが中性付近であれば、たとえケア(=歯みがき等)をしなくても虫歯にはならないのです。

一方、象牙質液体輸送システムが停滞・逆流すれば、どんなに歯みがきをがんばっても虫歯を防ぐことは困難です。

なぜなら、通常は歯の内部を洗い流す役割を果たしていた液体輸送システムが、一転して歯の内部を虫歯菌で汚染するシステムに変わってしまうからです。

これは恐ろしいことで、そうなるとすぐに虫歯は進行します。

 

また、健康な唾液ではなく、食生活の乱れなどによって唾液のpHが下がってしまうと、唾液によるpH緩衝能力がうまく発揮されません。

すると歯の表面のpHは虫歯菌が出す酸によって酸性になり、虫歯ができやすくなります。

 

なお、2つの自己防衛システムのうち、より重要なのは「象牙質液体輸送システム」の方です。

なぜなら、歯の内側から外側に向かって液体が常に供給されていれば、その液体にも唾液と同じくpH緩衝能力がありますので、虫歯菌が洗い流されることに加えて歯の表面のpHも中性付近に保たれるからです。

象牙質液体輸送システムを停滞・逆流させる要因

歯の自己防衛システムとして最も重要な「象牙質液体輸送システム」。

これを停滞・逆流させてしまう原因には、以下の5つがあります。

  1. 砂糖の高摂取
  2. ストレス
  3. 運動不足
  4. 微量栄養素の不足
  5. 薬の服用

 

砂糖には象牙質輸送システムを逆流させてしまう効果があり、たいへん害が大きいです。

また、ストレスも液体輸送システムを停滞させる原因となります。

 

運動不足については、ラットを使った実験で、虫歯の発症率が約3倍も大きくなったそうです。

運動不足は他にも様々な健康上のトラブルを引き起こすので、運動は最も大切な「薬」なのかもしれません。

(運動することで糖が速やかに消費されますし、ストレスも軽減されますので、運動による効果は複合的なものです。)

 

そして、栄養素の不足も象牙質液体輸送システムを乱します。

特に、銅、鉄、マンガンと、その他の微量元素が足りていないと液体輸送システムが停滞・逆流しやすくなります。

 

最後は薬の服用。

薬の種類にもよると思いますが、基本的に薬は、体にとって不純物です。

異物が体内に混入した時と同じ反応で、できるだけ薄めて体外に排出しようとします。

その希釈・排出の過程で、象牙質液体輸送システムも乱れてしまうようです。

砂糖の害は虫歯菌の酸が増えることではない

これまでの話で、虫歯の原因は象牙質液体輸送システムが停滞・逆流することであると、理解していただけたでしょうか。

ところで、これまでの一般常識では、虫歯の原因は甘いものを食べること、でしたね。

確かに、砂糖は体にも歯にも悪いものです。

 

しかし、意外なことに、砂糖が歯に悪い理由は私たちが普段抱いているイメージと少し異なります。

多くの人が、「甘いものを食べる→糖分が虫歯菌の餌になる→虫歯菌が活動して酸が増える→虫歯になる」と考えているのではないでしょうか。

 

興味深いことですが、専門家の実験では、虫歯にならないヘルシーな食事をしても、砂糖の多い食事をしても、虫歯菌が出す有害な酸の量はほとんど変わらなかったそうです(同程度のカロリーを摂取した場合)。

つまり、砂糖の害悪は、虫歯菌の出す酸の量が増えることではなかったのです。

 

上述した通り、砂糖が悪い本当の理由は、象牙質液体輸送システムを逆流させることです。

その他、砂糖には唾液のpHを下げてしまうという効果もあり、二重の意味で歯の自己防衛システムにとって破壊的な役割を果たします。

最後に

以上、少し専門的な内容でしたが、虫歯の根本的な原因である「象牙質液体輸送システムの停滞・逆流」について解説しました。

虫歯になる仕組みがわかれば、対策もしやすくなります。

ぜひ参考にして、それぞれの虫歯対策に活かしてください。

参考文献

『Dentinal fluid transport – revolutionary theory of natural caries resistance and cariogenesis』→ http://www.healingteethnaturally.com/dentinal-fluid-transport-steinman-leonora.html

Steinman, R.R., Leonora, J. (1971) Relationship of Fluid Transport Through the Dentin to the Incidence of Dental Caries. J. Dent. Res. 50, 1536-1543.