道路のアスファルトは石油製品の残り物
日本の道路はほとんどがアスファルトで舗装されていますが、アスファルトというのは石油に含まれる成分の一つ。
150℃くらいに加熱された状態では黒くて粘り気の強い液体ですが、冷えると固まります。
道路工事の現場を思い出してみると、なんとなくイメージが湧きますね。
ただし、道路工事で舗装用に使われている黒っぽい材料は、アスファルトそのものではなく、アスファルトの中に骨材となる砕石や砂を混ぜ込んだものになります。
砕石はおよそ2cm以下の小石で、岩石の種類は様々。
砂岩や頁岩(けつがん)、流紋岩、安山岩などを適度に砕いて、大きさをそろえて使っています。
砂は天然の川砂や海砂が使われることが一般的で、こちらも特に決まった種類はありません。
というわけで、舗装用のアスファルトには砕石や砂が混ぜ込まれており、アスファルトそのものとしては、粒々の見えないのっぺりとした液体、ないしは固体ということになります。
ちなみにヨーロッパではこれを「ビチューメン(bitumen)」と呼び、骨材と混ぜたもののことを「アスファルト」と呼んでいるため、少し注意が必要です。
さて、石油からは実にいろんな石油製品が作られます。
LPガス、ガソリン、灯油、軽油、重油など。
精製前の石油(原油)を加熱することで、沸点の異なるいくつかの石油製品に分けていくわけですが、沸点の比較的低いLPガス、ガソリン、灯油、軽油などが分離された後には、350℃ほどの高温でも気体にならない「重たい」成分が残ります。
「重たい」と言っても油なので、水よりは軽いですが、他の石油製品に比べると重たい成分。
黒っぽい色をしていて、粘り気があります。
この重たい成分が、今度は真空容器の中でさらに沸点ごとに分けられ、重油やアスファルトなどの石油製品ができる。
つまりアスファルトとは、石油を精製する過程で最後に残る、いわば「残り物」なのです。
日本では原油を輸入して国内で石油製品を作っているため、その過程でアスファルトが大量にできてしまうわけですね。
日本の道路にアスファルト舗装が圧倒的に多いのは、大量の石油製品を生産していることと深い関係があるのです。
石油は地下の空洞に溜まっているわけではない
アスファルトは石油に含まれる成分なので、「道路のアスファルトも元々は石から取り出されたもの」と言うことができます。
でも、石油のことを「石から取り出された」と言われると、何だか違和感がありませんか。
直観的に、「石から鉄を取り出す」という表現はしっくり来るのに、「石から石油を取り出す」という表現には多くの人がしっくりきません。
なぜなら、一般的なイメージでは石油は石に染み込んでいるものではなく、地下の空洞に地底湖のように溜まっているものだからです。
しかし、これは誤解です。
石油は砂岩などの堆積岩の中に、粒子の間の隙間を埋めるように、染み込んで溜まっているからです。
石油の採掘というのは、この染み込んだ石油を地下から汲み出す作業なのです。
ここで少し、石油のでき方について見てみましょう。
石油のことを「化石燃料」と言うように、石油は大昔の生物の遺骸が変化してできたものです。
どれくらい大昔かというと、埋蔵量が桁違いに大きい中東油田の石油ができたのが、約2億年前。
当時赤道付近に広がっていたテチス海という巨大な海で、植物プランクトンやそれらを食べる動物プランクトンの遺骸が、長大な時間をかけて海底に沈澱していきました。
通常の海では、海底に住むバクテリアの作用でプランクトンの遺骸は分解されてしまいます。
しかしテチス海ではそうはならず、海底にはプランクトンの遺骸を豊富に含む泥岩の地層が形成されていきました。
テチス海が特別だったのは、約2億年前から1億年前にかけての地球が温暖だったこと、テチス海が赤道付近にあったこと、地中海のような内海だったので海水が攪拌されにくかったこと、などいくつかの理由があります。
ともあれ、そんなわけで2億年前ごろの海底には大量のプランクトンの遺骸が腐らずに集積していくことになりました。
これらの有機物は、海底に泥が降り積もるにつれてどんどん地下深くに埋没していき、高い圧力のために化石になります。
この時にできるプランクトンの化石というのは、動物の歯や骨のような化石ではなく、有機物由来の「ケロジェン」と呼ばれる複雑な化合物。
このケロジェンが地下深くの熱に長期間さらされることで、徐々に分解していって石油ができるのです。
そして、地下深くで作られた石油は、水よりも軽いために岩石中の割れ目を伝って上昇していきます。
そのまま海底や地表に到達すれば、少しずつ漏れ出していくことになり、油田はできません。
油田として石油が溜まるには、上昇してきた石油が砂岩など隙間の多い岩石中に染み込み、さらにはその砂岩の中から逃げ出して行かないように、お椀型の緻密な地層で蓋をされる必要があるのです。
こうした条件がうまく重なった場所に油田ができるわけで、かなり特別な場所であることがわかりますね。
油田を掘るのは石油会社でも、どこを掘れば石油が出るかを考えるのは、地質学者の仕事なのです。
油田のでき方を知ることで、岩石に染み込んだ石油の姿をかなりイメージしやすくなったのではないでしょうか。
プラスチックも石油から
ここまでアスファルトの話をしてきましたが、石油でできている身近な材料といえば、何と言ってもプラスチックですね。
プラスチックについても少しだけご紹介します。
プラスチックは石油製品のうちのナフサから作られる材料です。
ナフサというのは、沸点でいうとガソリンと灯油の中間あたりの成分で、粗製ガソリンとも呼ばれます。
原油から取り出されたナフサにさらに熱を加えることで、ナフサが分解してエチレンやプロピレンなどの気体、ベンゼンなどの液体が生成します。
このときに生成した気体や液体というのは、言わばバラバラに散らばった短い分子。
このバラバラの分子を鎖状に長く繋げることで、固体の物質、すなわちポリエチレンやポリプロピレンと言ったプラスチックの原料ができるのです。
さて、先程の石油のでき方の話を踏まえると、プラスチックもまた、大昔のプランクトンが姿を変えたものということになります。
身近にあふれるプラスチックの見え方が、少し違ってきたのではないでしょうか。
参考文献
一般社団法人日本アスファルト協会『アスファルト基礎知識』
鹿児島大学理学部『石油地質』
秋田大学『石油開発業界で積み上げた技術力と、研究者として磨いた探究マインドをバランスよく伝授』
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。