モロッコのアトラス山脈で採取されたコバルトの結晶
モロッコのアトラス山脈で採取されたコバルト鉱物の結晶(©︎Clint Budd / flickr

 

現代のハイテク産業を支えるレアメタル

レアメタル(希少金属)というのは、産出量が少なく、かつ工業的に重要とされる金属のことです。

具体的にどんな金属がレアメタルかというと、国によって定義は異なりますが、日本ではニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウムなど、55種類の元素のことを指します(2021年現在)。

 

レアメタルは現代のハイテク産業を支える貴重な資源。

例えばスマートフォンには15種類ものレアメタルが使われていて、その内訳は次の通りです。

  • ICチップ:金、銀、銅、スズ
  • コンデンサ:タンタル、マンガン、ニッケル、バリウム、チタン、パラジウム
  • 液晶画面:インジウム
  • 振動モーター:ネオジム、ジスプロシウム
  • バッテリー:リチウム、コバルト

 

ここではスマートフォンを例に挙げましたが、電子部品や先端材料は広く現代の工業製品に使われており、もちろんスートフォンに限った話ではありません。

代表的なものとしては、ハイブリッド車、電気自動車、LED照明、センサー、風力発電機など。

レアメタルが安定的に供給されないと、さまざまな工業製品が生産できなくなるのです。

 

なお、レアメタルと似た言葉で「レアアース(希土類元素)」という言葉がありますが、こちらはもっと狭い範囲の、特定の元素を指します。

具体的には、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、ネオジム、ジスプロシウムなどの17元素。

日本が定める55種類のレアメタルの中には、レアアースも含まれています。

レアメタルの産地は限られている

レアアースを採掘している米国カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山
レアアースを採掘している米国カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山(©︎born1945 / flickr

 

このように現代のハイテク産業に欠かせないレアメタルですが、生産国は非常に限られています。

世界の生産量を元素ごとにいくつか見てみますと、タングステンは中国が82%、コバルトはコンゴ民主共和国が71%、レアアース(17元素合わせて)は中国が63%を占めています(2019年時点)。

 

貴重な資源の供給を一つないしは少数の国に頼っているため、供給元の国の情勢や外交戦略によって、ハイテク産業は極めて大きな影響を受けることになります。

ですので、各国ともこの状況を改善するため、新たな鉱山開発を行ったり、貿易相手国を増やしたり、あるいは国内の備蓄を増やしたりといった対策を行なっています。

 

ところで、なぜレアメタルの生産地は特定の国に偏っているのでしょうか。

石油や天然ガスのように、限られた地域の地層にしか埋まっていないからでしょうか。

 

これも元素によって少し事情が異なりますので、ここではレアアースについて取り上げてみます。

先ほどの数字では、レアアースの生産は中国が63%を占めていましたね。

 

生産量という点で見れば中国が圧倒的ですが、資源としてレアアースが存在している国は中国だけではありません。

中国の生産量が際立って多いのは、実は採掘にかかるコストが安いためなのです。

 

レアアースの鉱石には放射性元素であるトリウムやウランが含まれていますので、鉱山開発によって深刻な環境汚染が引き起こされます。

鉱山からの廃水が周辺の土地を汚染するわけですね。

もちろん労働者の被ばくも深刻な問題です。

 

このような環境への悪影響があるため、環境規制の厳しい国では対策に膨大なコストがかかったり、そもそも採掘や製錬ができなかったりするのですが、中国では規制がゆるく、大規模な採掘が行われているのです。

それに加え、人件費の安さも採掘コストを抑えるのに大きく貢献しています。

 

こうして採掘コストの安さを武器に、中国はレアアースの生産量を大きく伸ばしてきましたが、当然ながら環境汚染の深刻さは規制の有無とは関係ありません。

中国北部、モンゴルと国境を接する内モンゴル自治区のバオトウ市に世界最大のレアアース鉱山があるのですが、そこでは周辺の農地に汚染が広がっているということです。

 

このような状況を踏まえると、少なくともレアアースについては、生産量が中国に偏っているおもな原因は各国の環境規制にあると言えます。

逆に言えば、そこを乗り越えられれば他の地域でも生産が可能になり、中国に依存しなくても済むということです。

 

しかし、そんなことが可能なのでしょうか。

海底の泥が次世代のレアアース鉱山に

東京都小笠原村の南鳥島。Aerial view of Marcus Island and the runway which supports the US Coast Guard station located there. Marcus Island is the southernmost island in the Japanese chain.
東京都小笠原村の南鳥島(Public domain / Wikipedia

 

環境汚染を引き起こすことなくレアアースを採掘する新たな方法が、実は日本で始まっています。

日本の最東端にある島、南鳥島の周辺の海底で、2013年に高濃度のレアアースを含む泥が発見されました。

 

高濃度のレアアース源となっているのは、この泥に大量に含まれる魚の骨の化石です。

魚の骨は、生きている間はほとんどレアアースを含みませんが、死後に海底に堆積してからは、海水中のレアアースを非常に高い濃度になるまで濃集します。

 

南鳥島の周辺には巨大な海山があるのですが、今からおよそ3450万年前、地球の寒冷化に伴って海山の周りで栄養に富む深海底の海水が上昇し、大量の魚が集まるようになったと考えられています。

それらの死骸が長い年月の間にレアアースを蓄え、高濃度のレアアースを含む泥を形成したのです。

 

海底の泥がレアアースの採掘に有利な点は、レアアースの濃度が高いことだけではありません。

海底の泥には、陸上のレアアース鉱山とは違い、放射性物質であるトリウムやウランが含まれていないのです。

 

そのため、採掘のために海底から引き上げた大量の泥をどこかに廃棄しても、放射能で環境を汚染する心配がありません。

環境規制の問題をクリアできる採掘方法というわけです。

 

これらの利点に加え、鉱石に比べて泥の方がレアアースの抽出が容易であること、また、海底の浅い部分(海底下数m以内)に溜まっている泥なので採掘しやすいこと、などの利点もあります。

水深5800mほどの深海底での採掘ですので、高度な技術を要することは確かですが、基本的には既存の技術を応用することで採掘可能ということです。

 

2021年現在、東京大学を中心に採掘、製錬、残泥処理などの技術開発が進められていますが、まだ商業化には至っていません。

レアメタルの一部であるレアアースは、ハイテク産業を支える重要な鉱物資源。

国を挙げての迅速な技術開発、商業化が望まれます。

参考文献

コトバンク『レアメタル』『希少金属

SUREコンソーシアム『回収が期待される金属

ケータイWatch『第438回:レアメタル とは

日本経済新聞『レアメタル、なぜ特定の国に?

IBM『急げ、南鳥島沖のレアアース開発――中国鉱山の30倍の高濃度、埋蔵量は日本の年間需要の300年分以上(前編)』(2013年11月5日)

IBM『急げ、南鳥島沖のレアアース開発――中国鉱山の30倍の高濃度、埋蔵量は日本の年間需要の300年分以上(後編)』(2013年11月12日)

岡部徹『世界最大のレアアース鉱山・白雲鄂博鉱山を視察』(テンミニッツTV)

経済産業省資源エネルギー庁『日本の新たな国際資源戦略 ③レアメタルを戦略的に確保するために』(2020年7月31日)

神戸大学『南鳥島沖の「超高濃度レアアース泥」は地球寒冷化で生まれた』(2020年6月18日)

東京大学基金『南鳥島レアアース泥を開発して日本の未来を拓く

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

ハイテク製品に必須のレアメタル(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)