セメントの主な原料は石灰石
セメントに砂と水を混ぜて固めたものが、コンクリートですね。
「20世紀は鉄とコンクリートの文明」と言われるほど、コンクリートは私たちにとって最も身近な土木・建築材料です。
そんな身近なコンクリートを作るセメントは、おもに石灰石の粉でできています。
セメント原料の約8割は石灰石。
残りの約2割は粘土ですが、その他にもセメントの種類に応じていくつかの成分が添加されています。
さてこの石灰石、どんな石かと言いますと、炭酸カルシウムの鉱物である方解石を50%以上含む堆積岩で、岩石名としては「石灰岩」。
資源として石灰岩を用いる鉱業の分野では、鉱石名として「石灰石」という名前で呼ばれています。
石灰石の国内自給率は100%
実は石灰石は、国内で100%自給できる唯一の鉱物資源なのです。
鉱物資源が少ない日本において、国内自給率100%というのは驚くべき数字。
ほかの身近な資源を見てみると、鉄鉱石の自給率が0%、原油が0.3%ほどですから、石灰石がいかに特別な資源であるか分かりますね。
「鉄や石油製品に比べればセメントなんて……」と思うかもしれませんが、決してそんなことはありません。
セメントがなければ、オフィスビルも、橋も、高速道路の高架も、トンネルも、空港の滑走路も、ありとあらゆるものが作れないのです。
もしも石灰石の国内自給率が鉄鉱石や原油並みだったら、社会インフラ(社会基盤)の多くが外国の資源に依存してしまうことになります。
先ほども少し例を挙げましたが、コンクリート建造物には、下水道、ダム、防波堤、病院、学校など、人々の暮らしに必須のインフラが多数含まれますので、石灰石の自給率はある意味、「社会インフラの自給率」とも言えるでしょう。
セメントの原料となる石灰石は、それほどに重要な資源なのです。
日本に石灰石が多くて、本当に良かったと思います。
日本に石灰石が多い理由
日本に石灰石が多いのは、太平洋の海底にできた大昔の石灰岩が、長い年月をかけて日本列島に運ばれてきたからです。
日本列島には、北海道から九州まで、全国各地に良質の石灰石鉱山が分布しています。
これらの石灰石(岩石名としては「石灰岩」)は、約3億年前〜2億年前にできたものとされていますが、今の日本列島がある場所で堆積したわけではなく、遠く太平洋の真ん中、赤道付近で堆積したものがここまで運ばれてきたと考えられています。
どういうことかと言いますと、約3億年前〜2億年前の赤道付近の海底には、海底火山の噴火によって海山がいくつも形成されました。
海山のいくつかはマグマの噴出に伴って高くなり、やがて海面から顔を出して島になったり、あるいは顔を出さないまでも海面近くまで到達したりしました。
そのような島の周囲、また海山の頂上付近は浅い海になっていますので、赤道付近の温かい海水のおかげでサンゴ礁が発達します。
サンゴ礁というのは、サンゴの骨格や、有孔虫と呼ばれる動物プランクトンの殻が集積したもの。
いずれも主成分は炭酸カルシウムです。
そのため、サンゴ礁が発達した場所には、大量の炭酸カルシウムの岩石が出来上がるわけです。
これがすなわち、石灰岩です。
さて、このようにして太平洋の海底でできた石灰岩は、海底の岩盤の移動に伴って北西の方向、すなわち日本列島の方へと運ばれて来ました。
プレートテクトニクスという考え方で知られるように、太平洋の海底の岩盤は、日本列島のある辺り(ユーラシア大陸の東の端)に向かって継続的に動き続けているのです。
そして、日本列島のところで地下深くへと沈み込んでいく。
約3億年前〜2億年前に太平洋の海底でできたサンゴ礁由来の石灰岩は、数千万年という長い時間をかけて日本列島の辺りまで運ばれ、そこで海底の岩盤と一緒に地下深くへと引きずり込まれていきます。
しかし、これらの石灰岩は海底から出っ張った海山の上にできていますので、引きずり込まれるときにその多くは、日本列島のある陸地の端にくっついて地上付近に取り残されます。
こうして日本列島には石灰岩が広く分布するようになりました。
石灰岩は日本に特有のものではなく、世界中の陸地で見られる岩石ですが、日本の石灰岩は不純物が少なく、鉱石としての品質の良さが際立っています。
なぜなら、世界の多くの場所で見られる石灰岩は、大陸周辺の浅い海でできたサンゴ礁に由来しており、そうした場所の石灰岩には大陸からの土砂が混じりやすいからです。
一方、日本の石灰岩は太平洋の海底にできたサンゴ礁に由来していますので、近くに大陸はなく、泥や砂をあまり含まない純度の高いものになりました。
日本に高品質の石灰石鉱山が多いのは、海底の岩盤が沈み込む場所に日本列島が位置しているからなのですね。
参考文献
太平洋セメント『知られざるセメントの秘密』
近江鉱業株式会社『石灰石の話』
コトバンク『セメント』
杉田隆『石灰石鉱業の現状と課題』
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。