建物の内装に使われる重厚で華やかな大理石。
「大理石」はいくつかの岩石の総称ですが、その中で最もポピュラーなものと言えば、やはり結晶質石灰岩の大理石です。
純白に淡いグレーの模様の入った、美しい石材ですね。
さて、実はこの結晶質石灰岩、貝殻と同じ成分でできているのです。
大理石と貝殻では見た目にずいぶんと差がありますが、どちらも成分はほぼ100%炭酸カルシウム。
では何が違うかと言いますと、炭酸カルシウム結晶の「種類」と「大きさ」、それから結晶の間を埋める「不純物」が異なります。
まず結晶の種類ですが、結晶質石灰岩は、方解石(ほうかいせき)と呼ばれる1種類の炭酸カルシウムの鉱物でできています。
これに対して貝殻は、方解石と霰石(あられいし)という2種類の鉱物が合わさったもの。
方解石も霰石も炭酸カルシウムの鉱物ですが、結晶の構造、すなわち原子の配列が異なります。
霰石の方が原子が密に詰まっていて、密度が大きい。
硬貨(10円玉)でひっかいた時の傷のつきやすさを比べても、霰石の方が傷がつきにくく、硬いです。
次に結晶の大きさですが、結晶質石灰岩の場合、砂つぶサイズの方解石の集合体でできています。
結晶のサイズは1mm〜5mm程度。
全体的に均質です。
一方、貝殻の場合は結晶サイズがもっと小さくて、方解石も霰石も、0.1mm以下の微細な結晶。
しかも全く均質ではなく、多くの貝殻が3層から5層の層状の構造になっています。
それぞれの層で結晶のサイズや形態(板状や柱状など)、あるいは並び方が異なっていて、貝殻は言わばベニヤ板のようになっているのです。
最後に、結晶の間を埋める不純物について。
これは貝殻が持つ大きな特徴なのですが、貝殻の場合、方解石や霰石の結晶の間には有機物が含まれています。
その量は、多いところで重さの5%ほど。
レンガの隙間をモルタルが埋めるように、板状や柱状の結晶の間を、有機物が埋めているのです。
このように、大理石の代表である結晶質石灰岩と貝殻とでは、成分は同じ炭酸カルシウムでも、結晶の特徴に違いがあることがわかります。
ちなみに炭酸カルシウムには、酸に溶けやすいという性質があります。
塩酸を含むトイレ用洗剤「サンポール」をかけると、結晶質石灰岩(大理石)も貝殻も、ブクブクと二酸化炭素の泡を出しながら溶けてしまいます。
参考文献
東京大学総合研究博物館『貝殻微細構造』
中原晧『貝殻における表面形態と内部構造』表面科学15,184-188(1994).
産総研地質調査総合センター『真珠をつくる貝類-アコヤガイとアワビの貝殻構造-』地質ニュース.
地球のかけら〜石の魅力と宝石採集の旅〜『【第55回】アラゴナイト』
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。