地質や岩石をテーマにした自然公園、ジオパーク。豊かな自然が作り出す景勝地は、観光スポットとしてもたいへん人気があります。
それだけに多くの人が気軽に来られるように整備されていますが、場所によっては思わぬ事故に遭うことも。例えば、山でスズメバチに刺されたり、毒ヘビに噛まれたり、クマに襲われたり、あるいは遭難してしまったり。海岸でも、満ち潮によって帰り道がなくなってしまったり、崖から足を滑らせてしまったり、高潮で海に転落してしまったり、いろんな事故がありえます。
こんな話をすると、なんだかちょっと怖いですね。とは言え、知っていれば対策が立てられますので、怖い話ではありません。せっかくの楽しい自然体験ですので、より安全に、安心して、ジオパークに行ってもらえたらと思います。
さて、具体的な対策についてですが、登山届を出す(専用アプリ「コンパス」を利用)、潮の満ち引きの時間を確認する、といったことはインターネットで簡単にできますし、ハチやヘビの毒を抜くポイズンリムーバーや、クマよけの鈴など、各種アウトドア用品を準備することも有効です。
この記事では、サイエンスコミュニケーターとして全国のジオパークや自然公園を巡り、野外観察・写真撮影を行なっている当サイト管理人(地学舎代表・渡邉)が、普段の調査で使っている便利なアウトドア用品をご紹介します。
「あると安心」な非常用グッズのほか、「あると便利」な野外観察用品もご紹介していますので、ぜひ参考にして、ジオパーク巡りを存分に楽しんでください。
「あると安心」な非常用グッズ
ポイズンリムーバー
ハチやヘビの毒を吸引して、応急処置をする道具です。散策中に万が一、スズメバチに刺されたり、マムシなどの毒ヘビに噛まれてしまったら、すぐに病院へ行かなければなりません。
しかし、山の中ではタクシーを呼んだり救急車を呼んだりすることはできませんから、応急処置がとても大事。
市販のポイズンリムーバーにはいくつか種類がありますが、選ぶポイントとしては、構造がシンプルで、吸引口が広いものと狭いものの2種類ある製品がおすすめ。ハチに刺されたりしてパニックになっている時に使うものですから、複雑な使い方を要するものでは役に立ちません。
こちらの写真のものは、吸引口を患部に押し当て、レバーを上に引くだけです。片手で操作できますし、直感的に使い方がわかるので迷うこともありません。
また、吸引口が小さすぎると、患部に的確に当てるのが難しいですし、かといって広すぎると、指先など曲面が多い部分には押し当てることができません。ですので、吸引口は広いものと狭いものの2種類あるものが良いでしょう。
ただし、交換パーツとして吸引口が4つも5つもあるようなものは、使用時にどれを使えばよいか迷ってしまうので、注意が必要です。
クマよけの鈴
山でクマに出会わないようにする、クマよけの鈴です。いろんなタイプのものが販売されていますが、小型で、音が大きいものがおすすめです。
小型がいいのは、できるだけ荷物を軽くしたいからです。
また、音が小さいと、クマよけに効果がありません。クマだって、そんなに耳がいいわけではなく、小さな鈴の音だと聞こえないからです。屋内で鳴らすと少々うるさいくらいがちょうど良く、できれば遠くまで響く、澄んだ音のものがいいでしょう。
私が愛用しているのは上の写真の製品で、ズボンのベルトに通したり、リュックサックに付けたりして使っています。
商品の中には、使わないときに音が出ないように、鈴の中の「舌(ぜつ)」(※おもりのこと)を固定してサイレントモードにできるものがありますが、やや高価であることと、安価なものは音が悪いので、あまりおすすめしません。音を出したくないときは、ポケットに仕舞えばOKです。
ホイッスル
山の斜面で足を滑らせて谷底に転落し、骨折や怪我で自力での帰還が困難になってしまった時、救助を要請するのに必要となるのがホイッスルです。「ピーッ!」という高い音が鳴るので、声で助けを求めるよりもずっと効果があります。
ホイッスルを選ぶときは、弱い息でも音が鳴るタイプのものにしましょう。転落のときに胸を強く打ってしまうと、息をすることも辛いような状況になるからです。
強く吹かないと鳴らないタイプのホイッスル(体育の先生が使っているようなもの)は、できればやめた方が賢明です。
「あると便利」な野外観察用品
ルーペ
鉱物観察用に、ルーペが一つあると便利です。
ジオパークに行くと様々な種類の石(岩石、石ころ)に出会うと思いますが、石は鉱物の集まりでできていて、その一粒一粒がとても美しい姿をしています。その小さな美しい世界を覗いてみるのに、たいへん重宝するのが携帯用ルーペ。
選ぶ時のポイントは、レンズの倍率と大きさです。倍率は10倍、レンズの直径は2cmくらいのものが使いやすくておすすめ。上の写真の製品の「D20」という表記は、直径(Diameter)が20mm(=2cm)という意味です。
もっと倍率の高い製品も市販されていますが(例えば20倍とか40倍とか)、倍率が高くなると焦点(ピント)を合わせるのが難しくなるので、あまりおすすめできません。
また、倍率が高いほど視野が暗くなるので、自然光(照明なし)ではたとえ焦点が合っても観察しにくいことが多いです。
フィールドノート
あると意外と便利なのが、手書きのノートです。ジオパークに行くといろんな発見・学びがあるのですが、メモを取らないとすぐに忘れてしまいますね。
どんなことをメモするかと言うと、例えば、
- いつ、どこに行ったか
- 何を見たか
- 何を感じたか
- 覚えておきたい解説の内容
- (石を拾うなどしたら)どこで拾ったものか etc.
※石や砂の採取は、動植物と同様、国立公園・国定公園では禁止されています。ジオパーク内でも「採取禁止」の場所が多くありますので、石を持ち帰る際には十分に気をつけてください。
この中で、特に大事なのが「何を感じたか」です。
「いつ」「どこで」などは、スケジュール帳やパンフレット(あるいはホームページ)を見れば、後からでも思い出せます。でも、「何を感じたか」は、その時にその場所で書き留めておかないと、もう二度と思い出せません。
私たちの感覚は、言わば「ナマモノ」です。思い出を日記に書くつもりで、気軽に、ノートに書き留めておくことをおすすめします。そうすると、ジオパークでの発見・学びが生き生きと記憶に残るようになるでしょう。
野外での観察に使うノートを一般に「フィールドノート」と言いますが、特別なものでなくて構いません。持ち運びしやすい小さめのものが良いでしょう。おすすめは、表紙が硬いもの。野外で使うので、下敷きになるような硬い表紙があった方が、断然書きやすくなるからです。
私が使っている上の写真のノートは、A5サイズで、表紙と裏表紙が硬い厚紙でできています。中の紙は方眼になっていて、線がありません。スケッチを残したい時に、ノートの線が邪魔になるので、私の場合は無地や方眼を好んで使っています。