石には岩石と鉱物の2種類がある
あなたは「石」と聞いて、どんなものをイメージしますか。川原に落ちている小石でしょうか。あるいは、石像とか、石造りの建物でしょうか。
石というのは、堅い言い方をすると、「岩石と鉱物の総称」です。つまり、石には岩石と鉱物の2種類があるのです。
それぞれを簡単に説明しますと、まず岩石は、鉱物の粒子が集まってできたものを言います。表面につぶつぶが見える石ですね。
これに対し、表面につぶつぶが見えず、つるっとした平面で囲まれた石もあります。水晶などがそうですね。
こういう石は岩石ではなく鉱物ということになるのですが、もう少し詳しい定義では、次のようになります。
「鉱物とは、自然界にある固体の物質で、地質作用によって作られたもの」
ポイントは、「自然界にある」「固体」「地質作用によって作られた」の3つです。プラスチックでできた偽物の宝石はもちろん、人工ダイヤモンドでも、「自然界にある」ものではありませんので、鉱物に入りません。
また、石油や水は液体なので、いくら自然界にあるものでも鉱物ではありません。ただし、これには一つだけ例外があって、水銀は常温で液体ですが、鉱物とされています。
それから、人間や動物の歯、あるいは骨はどうでしょうか。自然界にある固体の物質であり、物質名として「水酸燐灰石(ハイドロキシアパタイト)」という石っぽい名前までありますが、歯や骨は「地質作用によって作られた」ものではありませんので、鉱物には入りません。鉱物ではなく、ただの「天然無機化合物」ということになります。
では、化石になった動物の歯や骨はどうかというと、こちらは地質作用を受けていますので、鉱物になります。
とは言うものの、「地質作用」という言葉が漠然としているため、なかなか判断が難しいところだと思います。地質作用とは、マグマの活動、岩盤の移動や変形、風化作用、堆積作用(小石や砂が集積すること)などの総称で、端的に言えば、自然界で岩石が作られたり変化したりする過程のことです。
なお、ここで紹介した鉱物の定義は、国際鉱物学連合(IMA)が採用しているもので、世界共通の定義になります(Nickel & Grice『The IMA Commission on New Minerals and Mineral Names: Procedures and Guidelines on Mineral Nomenclature, 1998』)。
地球の岩盤は3重構造
さて、岩石についてももう少し詳しく説明したいと思います。数ある岩石の中で何が重要か、そして、大まかにどう分類されるのか、の2点についてです。何しろ石の名前は本当に多く、大枠をつかんでいないとこんがらがってしまいやすいからです。
まず、岩石というのは、地球の岩盤を構成する物質です。地球のことを「岩石惑星」と呼ぶように、地球の大部分は岩石でできているわけですね。足元の地面を掘っていくと、地球の半径約6400kmに対して、約2900kmの深さまでひたすら岩盤が続いています。さらにその下は、液体あるいは固体の、鉄とニッケルの合金です。
さて、この地球の岩盤、大雑把にいうと3重の構造になっています。一番上が白っぽい層で、厚さ30kmほど。その下が黒っぽい層で、厚さ5kmほど。そして残りの部分である厚さ2865kmほどが、緑色ないし茶色の層。
上から順番に、白、黒、緑(茶)になっていて、それぞれを構成する岩石は、花崗岩、玄武岩、橄欖岩(かんらんがん)になります。つまり、数ある地球の岩石の中で特に重要なものは、「花崗岩」「玄武岩」「橄欖岩」の3つなのです。まずはこの3つの名前だけ頭に入れておきましょう。たった3つと思うと、ちょっと気が楽ですね。
また、花崗岩と玄武岩でできた部分を地殻、橄欖岩でできた部分をマントルと呼んでいて、マントルは実に地球の全体積の83%を占める巨大なものです。
それから、地球上のある場所では、3重構造のうちの一番上、すなわち花崗岩でできた白っぽい層がありません。その「ある場所」とは、海底のこと。
簡単にいうと、橄欖岩の岩盤(マントル)の上に玄武岩の薄い岩盤だけが乗っている場所が海底で、その上にさらに花崗岩の少し厚い岩盤が乗っている場所が大陸なのです。そういうわけで、大陸には花崗岩が多く見られ、海底には玄武岩が多く見られるということになります。
大まかな分類は、火成岩、堆積岩、変成岩
次に、岩石の大まかな分類についてです。岩石のでき方に基づいて、火成岩、堆積岩、変成岩の3種類に分類されています。
火成岩は、マグマが冷え固まってできた岩石。地中の深い場所でゆっくりと冷えても、あるいは地表に流れ出して急激に冷えても、マグマ由来であればいずれも火成岩に分類されます。先ほど紹介した花崗岩、玄武岩、橄欖岩は、3つとも火成岩です。
堆積岩は、砂つぶや小石、あるいは火山灰などの細かい粒子が集積して、長い年月のうちに固まったものです。海底や湖底でできることが多く、水成岩とも呼ばれています。
変成岩は、火成岩や堆積岩が熱と圧力で変化したもの。地表の岩石は、地殻変動の結果として高い温度や圧力にさらされることがあります。地下深くに沈み込めば、温度と圧力の両方が高くなりますし、マグマが地表に向かって上昇して来たら、その付近の岩石は非常に高い温度になるからです。こうした環境で熱と圧力にさらされた岩石は、固体の状態を保ったまま別の岩石に変化します。このようなものを変成岩と呼んでいます。
岩石名でも鉱物名でもないもの
最後に少しだけ補足です。岩石名でも鉱物名でもないものの、「〇〇石」などのように岩石っぽい名前がついているものが他にもあります。それらは石材名であったり、鉱石名であったりしますが、石の名前に親しんでいないとなかなか違いがわかりません。
参考のため、以下に「岩石名」「鉱物名」「鉱物のグループ名」「石材名」「鉱石名」について、それぞれの違いを簡単に紹介しておきます。「〇〇石」などの石の名前を見たときに、その名前が「岩石名」なのか「石材名」なのか、あるいは「鉱物名」なのか「鉱石名」なのか、少し意識してみてください。石の名前がもっとすっきりとわかるようになります。
岩石名
地質学の分野で使われている岩石の名前。火成岩、堆積岩、変成岩のいずれかに分類される。
鉱物名
地質学の分野で使われている鉱物の名前。鉱物の定義である「自然界にある固体の物質で、地質作用によって作られたもの」のうち、国際鉱物学連合(IMA)によって名前が承認されているもの。
鉱物のグループ名
化学組成や結晶構造の異なる複数の鉱物をひとまとめにしたグループ名。地質学の分野で使われているが、鉱物名とは区別される。
石材名
石材業界で使われている岩石の名前。地質学で使われている岩石名とは異なる。大まかに分類した石材名と、商品ごとに付けられた細かい石材名が混在している。
鉱石名
鉱物資源となる岩石に付けられた名前。鉱山や製錬所など、産業の現場で使われることが多い。鉱石の中には資源となる主要な鉱物が1つあるいは複数含まれているため、地質学の分野では一般にそれらの鉱物名で呼ばれる。
参考文献
Ernest H. Nickel, Joel D. Grice『The IMA Commission on New Minerals and Mineral Names: Procedures and Guidelines on Mineral Nomenclature, 1998』The Canadian Mineralogist, Vol. 36 (1998)
産総研地質調査総合センターWebサイト『岩石の分類』
国際鉱物学連合(IMA)『IMA Database of Mineral Properties』
松原聰『日本産鉱物種 第7版(2018)改訂版』(鉱物情報,2018)
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。