©︎JimboChan / Pixabay

鋭く直線的なレイニスフィヤラ海岸の玄武岩

傾く夕陽に向かって伸びる、多数のまっすぐな岩の柱たち。

直線的な亀裂で区切られた鋭い形状と言い、黒味がかった銀灰色の色合いと言い、何となく金属のようにも見えますね。

その表面は、天然の岩石とは思えないほど滑らかです。

 

冒頭の写真は、アイスランド南端のレイニスフィヤラ海岸にある玄武岩の地層。

玄武岩というのは、マグマが地上に噴出してできた黒っぽい色の火山岩です。

冷えて固まる時に全体的に少し縮むため、このような割れ目(節理)が生じました。

柱のように見えるので、「柱状節理」と呼ばれています。

 

柱状節理というのは実はそれほど珍しいものではなく、世界各地の玄武岩地帯でよく見られますが、レイニスフィヤラ海岸はその中でも特に美しい場所の一つ。

海岸にそびえる小山が丸ごと柱状節理でできているという迫力ある大きさで、柱の一本一本も見事な太さです。

太いものだと大人の肩幅を優に超えるほど。

 

また、この海岸には「ブラックサンドビーチ」という別名が付いていて、玄武岩の砂でできた真っ黒な砂浜なのです。

立派な柱状節理の地層と黒い砂浜。

アイスランドでこのような景色が見られるのは、もちろん火山島であることと深い関係があります。

 

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中央海嶺とホットスポットが重なった特別な場所

アイスランドと言えば、火山の国。

ここは大西洋中央海嶺が陸上に姿を現した場所でもあり、ハワイと同様のホットスポットでもあります。

中央海嶺もホットスポットも、どちらも地下深くにあるマントルから熱い岩石が上がってきている場所ですが、アイスランドはこの2つが重なった場所なのです。

だから多数の火山があるというわけですね。

 

先ほどのレイニスフィヤラ海岸のすぐ近くにも、2つの大きな火山があります。

アイスランドで最も危険と言われるカトラ火山と、そのすぐ西にあるエイヤフィヤトラヨークトル火山。

レイニスフィヤラ海岸とカトラ火山の位置(Googleマップに加筆)

 

この辺り一帯はカトラ・ジオパークと呼ばれ、アイスランドの火山地形が特に良く観察できる場所でもあります。

2011年にはアイスランドで初となる、ユネスコの「世界ジオパーク」にも認定されました。

氷河の下に潜むカトラ火山

レイニスフィヤラ海岸の北側には、内陸部の高地を覆う広大なミルダルスヨークトル氷河があります。

©︎Halldóra Eldon / flickr

 

そして、この氷河の下に隠れているのがカトラ火山。

標高は1512メートルです。

 

「カトラ」とは、アイスランドの伝承に出てくる魔女の名前だそうで、その魔女はクレバス(氷河の割れ目)の奥深くに隠れているのだとか。

不気味な名前の通りこの火山には数多くの噴火記録があり、噴火の間隔はおよそ40年から80年。

最も近い大規模噴火が1918年と記録されているので、間隔から言うと、次回の噴火がいつ起きてもおかしくないという状況です。

心配ですね。

 

ところで、カトラ火山が「アイスランドで最も危険な火山」と言われるのは、大規模な噴火が度々起こっていることに加え、火山噴火によって引き起こされる氷河バーストが、下流地域に壊滅的な被害をもたらしてきたからです。

 

氷河バーストというのは、氷河が引き起こす大規模な洪水のこと。

火山噴火や地熱によって火山を覆う氷河の下側が融解し、氷と地表面の間に水の通り道ができることで発生します。

 

イメージとしては、火山を覆う氷河が水圧と浮力で持ち上げられ、氷河の下に大きな川ができるような感じ。

その際、岩や土砂、氷の塊が水と一緒に押し流されて一気に流出するため、氷河バーストが発生すると下流地域の被害はすさまじいものになります。

2010年に噴火したエイヤフィヤトラヨークトル火山

カトラ火山のすぐ西には、ミルダルスヨークトル氷河よりもずっと小規模な氷河、エイヤフィヤトラヨークトルがあります。

その氷河に覆われているのがエイヤフィヤトラヨークトル火山(標高1666メートル)ですが、名前が同じでちょっと混乱しますね。

エイヤフィヤトラヨークトル火山(©︎Bob T / Wikipedia

 

アイスランドではしばしば火山とそれを覆う氷河が同じ名前で呼ばれますが、「ヨークトル」とはアイスランド語で「氷河」の意味。

ですので、基本的には氷河を指すようです。

 

エイヤフィヤトラヨークトル火山は、カトラ火山などの活発な火山に比べれば遥かに噴火の回数は少なく、過去1100年間で4回しか噴火をしていません。

しかし、その4回目に当たる2010年の突然の噴火が、ヨーロッパ全域の航空便に深刻な混乱をもたらすことになりました。

 

氷河の下で起こった爆発的な噴火により、火山の噴煙は上空1万6000メートルにまで到達したと言います。

その火山灰は北西ヨーロッパの上空に滞留し、約30か国で空港が閉鎖。

「戦後最大規模の航空便の停止」と言われるほどの大混乱をもたらしました。

エイヤフィヤトラヨークトルの2010年噴火の衛星写真(©︎NASA / flickr

 

火山の噴火がしばしば航空便に影響を及ぼすのは、視界不良のためだけではなく、火山灰が航空機のエンジンを停止させる恐れがあるためです。

火山灰には「火山ガラス」という微細な二酸化ケイ素が多く含まれていますが、この微細なガラスがエンジン内で溶けて固着すると、エンジンの故障や停止を引き起こしてしまうのです。

 

実際に起きた事故としては、1982年のブリティッシュ・エアウェイズ9便のエンジン停止事故があります。

インドネシア上空を飛行中、ジェットエンジンに火山灰が詰まることで4基のエンジン全てが停止するという深刻な事態になりましたが、乗員の奮闘により何とかエンジンが回復し、幸いにも死傷者は出ませんでした。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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