カリフォルニア州デスバレーの金属酸化物の地層
©️Paxson Woelber / flickr

 

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ブラック山地のアーティストパレット

うす紫、青緑、黄土色、白、赤、オレンジ、茶色、そして黒。

様々な色に彩られたカラフルな山地は、アメリカ合衆国カリフォルニア州デスバレーの北東側斜面を形成する、ブラック山地です。

名前の通り黒い色をした山地なのですが、斜面の一部に絵具を塗ったような鮮やかな色が見られ、「アーティストパレット」と呼ばれています。

 

もちろん人工的に塗った色ではなく、自然にできたもの。

火山地帯であるブラック山地では、火山の噴出物でできた地層に火山由来の熱い地下水(熱水)が作用して様々な金属元素が濃集し、それに加えて、地層を構成する岩石が熱水によって化学変化を起こして、このように多彩な色を示すようになりました。

そのほか、雨水による風化作用も関係していると考えられています。

なかなかに複雑なプロセスですね。

 

代表的な色については、着色の原因と思われる金属元素あるいは鉱物の化学変化がわかっており、おおむね次の通りです。

まず、地層の色として最初に目に付く青緑色ですが、これは火山灰に含まれる雲母(うんも)という鉱物が風化作用によって化学変化を起こし、「粘土鉱物」と呼ばれる別の鉱物になったことが原因です。

ミントグリーンのような、鮮やかな色をしていますね。

白い部分についても、基本的には鉱物の化学変化によると思われます。

 

うす紫色は、マンガンが濃集した色。

そして赤系と黄色系の色(赤、黄土色、オレンジ、茶色、うすいピンクなど)は、鉄の化合物に由来する色です。

デスバレー以外でも鉄の化合物はいろんな地層で着色の原因となっていますが、酸化物、水酸化物、結晶でないものと言った具合に、鉄の化合物にもいくつかバリエーションがあるため変化に富みます。

 

そのほか、ホウ砂(ほうしゃ)という鉱物が熱水の作用でできているのも特徴です。

ホウ砂はナトリウムとホウ素からなる鉱物で、ホウ素の生産に利用されています。

アーティストパレットの元々の岩石

このようにブラック山地の地層は熱水の作用と風化作用を受けてアーティストパレットへと姿を変えたわけですが、元々の岩石は黒っぽい火山の噴出物でした。

 

およそ1200万年前から400万年前にかけて火山活動があり、噴出した玄武岩質の溶岩、噴石、火山灰などが集積して、ブラック山地の地層ができました。

火山噴出物のほかにも、セメントで固められたような砂利の地層や、蒸発によってミネラル分が濃集される水たまりのような場所でできた地層なども、この辺りでは見られます。

ブラック山地を構成するこれらの地層(アーティスト・ドライブ層と呼ばれています)は非常に厚く、1500メートルほどと見積もられています。

 

なお、ブラック山地を含むデスバレー一帯には17億年前の非常に古い岩盤が広がっており、その上にブラック山地の火山噴出物のような、比較的新しい地層が乗っているという状態です。

デスバレーは断層の動きで広がった谷

デスバレーの風景(バッドウォーター)
デスバレーの風景(©︎Pavel Špindler / Wikipedia

 

デスバレーは、直訳すると「死の谷」です。

ゴールドラッシュの時代、金鉱を探し求めて迷い込んだ一団が奇跡的に生還した際にこう名付けたそうですが、今の時代に訪れる人にとっても、猛烈な暑さと乾きは「死の谷」にふさわしい過酷な状況です。

 

実は、デスバレーは世界で最も暑い場所の一つ。

デスバレーの気温は、毎年5月中旬から10月初旬にかけて摂氏38度を超えるのが普通であり、国際連合の専門機関である「世界気象機関(WMO)」は、デスバレーで1913年7月10日に記録された摂氏56.7度を、世界最高気温として認定しています。

年間の平均降水量は50ミリメートルとごくわずかですが、まとまった雨が降ると鉄砲水となり、涸れた川に土石流が発生するという危険な場所でもあります。

 

さて、そんな「死の谷」がどんな様子かと言いますと、上の写真のような景色が広がっています。

この場所はデスバレーの谷底にできた干上がった塩湖(えんこ)で、名前は「バッドウォーター」。

デスバレーに流れ込む川は乾いた砂に吸い込まれて消滅してしまうため、谷底を流れる川はありません。

 

また、谷底の標高は海面よりもずっと低く、最も低い場所は、なんと海面下86メートル。

デスバレーの西側にはシエラネバダ山脈があり、この辺りは山岳地帯なので、標高が海面下というのは何だか意外です。

でも、デスバレーの形成プロセスを知ると、これほど低い土地になっている理由もよくわかるのです。

 

デスバレーは北西から南東に伸びる谷で、全長は約225キロメートル。

そして、谷の中央部には断層が存在します。

 

およそ300万年前、この断層が水平方向にずれながら移動し始めたことで、デスバレーの場所には谷が形成されていきました。

その後も断層の動きは継続し、谷底は徐々に拡大。

その結果、谷底の中央部が沈下して行ったというわけです。

 

こうしてデスバレーの谷底は低くなり、最大で海面下86メートルまで下がっているのです。

現在も断層の移動は継続しており、徐々に谷底は広くなっています。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)

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