ブレンダ・サープ『プロの撮り方:風景を極める』(日経ナショナルジオグラフィック,2018)
「写真を撮るというのは、どういう行為なのか」ということを考えさせられる一冊です。
著者のブレンダ・サープさんの写真は、アンセル・アダムスを思わせる感動的な風景写真で、その写真の素晴らしさが著書の内容に説得力を持たせています。
テクニックもさることながら、ブレンダさんが強調するのは撮影者の姿勢。
自然と対峙することで、自然からのメッセージをいかに汲み取ることができるか。
そこを大切にしている写真家だと思いました。
内容を簡単にご紹介します。
写真家は幸せな職業
ブレンダさんは、写真家は幸せな職業だと言います。
自然が撮影者にだけ見せてくれる様々な表情を捉え、その感動を他の人々にシェアすることができる、そんな幸せな職業。
それは一瞬の出来事かもしれないし、目を凝らさないと分からないことかもしれない。
でも、自然と真剣に向き合った写真家だけが、その表情を捉えることができます。
言わば、「撮影者が発見した自然の姿を写真に記録する」というのが、写真を撮るという行為なのです。
良い写真とは何か
私も長らく写真に携わってきましたが、何が「良い写真」なのか、言葉で表すことがなかなかできません。
「良い写真」には定義というものはなく、あらゆる自由な発想で、良い写真は次々と生まれていくはず。
そんな風に考えていました。
ブレンダさんは、「良い写真とは何か」という点について、できる限り言葉で解説してくれています。
私が印象的だったのは、「語りかける写真」という表現でした。
物語を語るのは作家だけではなく、写真家も語れるはずだと、ブレンダさんは言います。
写真を見たときに、その風景に引き込まれ、撮影者の視点を共有し、そしてその中に物語を感じられる作品。
これが、「良い写真」の一つの姿です。
今思えば、私がこれまで良いと感じた写真家の作品には、どれも物語がありました。
風景写真だけでなく、抽象的な、個人の世界観を写した作品であっても、やはりストーリーが感じられるものに魅力を感じました。
空気感が伝わり、撮影者の思いが伝わり、感動(喜びも悲しみも)を共有できる。
そんな写真は、本当に魅力的です。
無駄なものを取り除く、引き算の構図づくり
最後に、ブレンダさんが書いていたテクニックを一つご紹介。
それは、「無駄なものを画面から排除する」という構図の作り方です。
私はこれを「引き算の構図づくり」と呼び替えました。
画面から、余分なものをどんどん引き算していくわけです。
例えばごちゃごちゃした背景だと、鑑賞者の目は「主役」から逸れて、背景を見に行ってしまうでしょう。
そういう時は、鑑賞者の目が主役に留まり続けるように、背景をぼかして気にならなくします。
あるいは反対に、視線の流れが遮られて写真の世界に入っていけないこともあります。
前景から背景に向かって小川が流れていて、優美な曲線を描いているのに、途中に木の枝が割り込んでその曲線を断ち切っていたら。
鑑賞者の目は、前景の小川を辿って背景へと移っていく途中で、突然木の枝が気になってそちらに逸れてしまうでしょう。
この場合は木の枝を画面から排除するか、あるいは小川を横切らない位置にずらしてあげる必要があります。
その他、近景の風景写真に空が入ると景色が遠のいてしまうとか、パターン模様を作っている花畑などは、画面いっぱいにパターンを入れて余白をなくした方が良いとか、いろんな「引き算」のテクニックが解説されています。
撮影者だけに見える世界を効果的に伝えるために、そして、物語のある写真作品を生み出すために、ぜひ活用したいテクニックです。