フレデフォート・ドーム(隕石クレーター)
©️Júlio Reis / Wikipedia

現存する世界最大の隕石クレーター

現存する世界最大の隕石クレーターは、南アフリカ共和国にあるフレデフォート・ドームです。

隕石の衝突によってできた凹地の直径が、なんと約300キロメートル。

 

冒頭の写真がフレデフォート・ドームの衛星写真なのですが、写真中央部に見えている半円形の凹地は、実はクレーターの全体像ではありません。

この半円形の地形はクレーターの中心部にできたリング状の丘であり、クレーターの全体像との関係は次の図の通りです。

フレデフォート・ドーム(衝突構造)の全体像
現在のフレデフォート・ドームと衝突直後のクレーターの比較(©︎Oggmus / Wikipedia

 

図中のオレンジ色の半円形が冒頭の写真で見えている部分で、点線で描いてある大きな円が、クレーターの全体像。

つまり「直径約300キロメートル」と言うのは、点線の円の大きさのことです。

オレンジ色の部分は、直径にしておよそ50キロメートルと言ったところ。

 

遥か昔にできた隕石クレーターであるため、長年の侵食作用で地形が削られてしまい、元々のクレーターの姿を見ることはできないのです。

ですが、岩石の性質を丁寧に調べることで、衝突直後の隕石クレーターの大きさが直径約300キロメートルにも及ぶ巨大なものであることが明らかになりました。

 

なお、フレデフォート・ドームと共に「地球史の三大隕石衝突」と言われる巨大隕石クレーターに、カナダのサドベリー隕石孔とメキシコのチクシュルーブ・クレーターがあります。

いずれも衝突直後の地形はほとんど失われてしまっていますが、サドベリー隕石孔の直径が約250キロメートル、チクシュルーブ・クレーターの直径が約180キロメートル。

チクシュルーブ・クレーターは、およそ6600万年前(白亜紀末)の恐竜絶滅の際に、地球環境を激変させた隕石の衝突跡だと考えられています。

 

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深くえぐられた岩盤がリバウンドしてドームができた

ところで、冒頭の写真から「リング状の丘」の姿は見えたでしょうか。

けっこう見えにくいのですが、半円形の凹地の中心から左斜め上に進んでいくと、影になっている崖の部分がありますよね。

その崖を登り切ったところから、今度は緩やかな下り坂になっているのです。

 

このように、クレーターの中心部がリング状の丘になって盛り上がっているため、「ドーム」と呼ばれているわけですが、冒頭の写真が凹地にしか見えないと、なぜこれがドームなのかよくわかりませんね。

ここではまず、フレデフォート・ドームの中心がリング状に盛り上がっていると言うことを押さえておいてください。

 

実は、このリング状の丘というのは、巨大な隕石の衝突跡でしか見られない地形。

どのようにしてできたのか、順番に見て行きたいと思います。

 

フレデフォート(クレーターの中心にある町の名前です)の辺りに隕石が落ちたのは、およそ20億2300万年前と見積もられています。

衝突した隕石の大きさは、直径10から15キロメートル。

例えば小惑星イトカワの大きさが500メートルほどなので、このとき地球に衝突した隕石がどれだけ大きかったのか想像できると思います。

衝突のエネルギーは、広島型原爆の約58億倍と言う途方もない大きさ。

 

そして、地球に衝突した巨大隕石は南アフリカの地面を深くえぐり、およそ地下25キロメートルにまで到達。

大地を覆っていた花崗岩の岩盤は、最初こそものすごい衝撃で破壊・圧縮されましたが、その後に、今度はリバウンドして盛り上がってきました。

そのため、クレーターの中心には盛り上がった花崗岩のドームができたのです。

長年の侵食に耐えた硬いシリカの地層

衝撃のリバウンドでできた花崗岩のドームは、その後、徐々に風雨による侵食作用で削られて行きました。

もちろん削られたのは花崗岩のドームだけではありません。

花崗岩のドームの周囲には、衝突によって空中にまき散らされた大量の噴出物が降り積り、クレーターを埋めていましたし、その下には、花崗岩の岩盤を覆うように珪岩(けいがん)の地層、溶岩の地層、炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの地層などがありました。

 

これらの地層が長年の侵食にさらされた結果、地表から深さ2キロメートル以上(最大で10キロメートル)が削られてなくなりましたので、本来なら隕石の衝突跡は地上からすっかり消えてしまうはずでした。

しかし、花崗岩を覆っていた地層の一つ、珪岩の地層が侵食に強く、この部分だけが選択的に侵食から取り残されることになったのです。

 

「珪岩」と言うのは、シリカ(二酸化ケイ素)を主体とする砂岩やチャート岩などが、マグマの熱でより硬い岩石に変化したもの。

この珪岩の地層が、現在のフレデフォートの辺りでリング状の丘のように見えていると言うわけです。

かつて地下25キロメートルから盛り上がってきた花崗岩の岩盤は、リングの内側の、少し凹んだところに顔を覗かせています。

 

余談ですが、南アフリカ共和国は金(ゴールド)の産地として有名ですね。

南アフリカの金鉱山は、フレデフォートの隕石衝突の際に生まれたと考えられているのです。

凄まじい衝撃で地下の岩石が圧縮され、破壊され、ひっくり返され、そして溶かされた結果、金鉱山が生まれたと言うわけです。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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