カッパドキアのギョレメ地区上空から見たウチヒサール地区(トルコ)
©︎Amrit Patel / flickr

キノコ形の奇岩が立ち並ぶカッパドキア地方

朝日に照らされた渓谷沿いの街のあちこちに、先の尖った岩石の小塔が見えます。

ここは、キノコ形の奇岩で有名なトルコ共和国カッパドキア地方の、ギョレメ国立公園(ウチヒサール地区)。

上空から見ると、渓谷に沿って浅く広く侵食された地形がとても印象的ですね。

 

カッパドキア地方はアナトリア高原の一部であり、標高1000メートル程度の高地。

そして、高地のほとんどが、火山灰土壌が固まってできた「凝灰岩(ぎょうかいがん)」という岩石でできています。

 

凝灰岩が広く分布するということは、火山が多い場所でもあります。

冒頭の写真の後方に、いくつかの小山が見えますよね。

これらはアジギョル・ネブシェヒルにある火山群で、その多くが、粘り気の強い流紋岩質の溶岩が丘のように盛り上がってできたものです(溶岩円頂丘と言います)。

 

とは言っても、これらの小さな火山がカッパドキアの凝灰岩を形成したわけではありません。

カッパドキアに分厚い凝灰岩の地層を形成した火山は、もっと大きな火山です。

 

その大きな火山とは、東にあるエルジェス山(標高3917メートル)と、南西にあるハッサン山(標高3268メートル)で、共に大型の成層火山。

およそ500万年前から1100万年前にかけて、何層もの火山灰の地層が集積したと考えられています。

 

なお、約300万年前にもエルジェス山で大規模な火砕流(火山噴火に伴って火山灰や軽石が水蒸気と一緒に高速で流れ下る現象)が発生しましたが、この時の火山灰の分布はカッパドキア東部に限られており、カッパドキア中心部の凝灰岩には含まれていません。

 

▼▼▼解説動画もあります▼▼▼

キノコ形の奇岩の成因はよくわかっていない

カッパドキア(トルコ)
カッパドキアで見られるキノコ形の奇岩(©︎Pedro / flickr

 

立ち並ぶキノコ形の奇岩は、カッパドキアを象徴する風景ですね。

実はこれらの奇岩がどうやってできたかは、よくわかっていません。

わかっていることと言えば、侵食されやすい凝灰岩の地層が雨や川の流れで削られてできた、ということくらい。

 

どう言うことか、説明しますね。

まず、上の写真の手前の方に写っている、たくさんのキノコ形の小塔を見てください。

トルコでは「妖精の煙突」と言うそうですが、キノコ(あるいは煙突)の頂上部には、帽子のように先の尖った岩が乗っています。

 

このような地形の場合、上に乗っている帽子のような岩石が侵食されにくい硬い岩石だったため、そこだけ侵食されずに残って塔のようになった、とも考えられます。

実際、侵食作用への抵抗力の違いで塔のような地形ができることは、よく知られている現象。

 

ただ、カッパドキアの場合は、積み重なっている地層がどれも同じく凝灰岩なので、侵食のされやすさに大きな違いが生じないのです。

侵食のされやすさに違いがないと言うことは、「どうしてそこだけ残って他の場所が削られてしまったか」の説明がつかないわけですね。

だから、成因が謎に包まれているのです。

 

それにしても、写真を見るとカッパドキアの凝灰岩はいろんな形をしていますね。

左手前では塔が何本かつながって壁のようになっていますし、後方の台地の斜面にはひだ状の地形ができています。

あるいは、画面右のやや奥には、先の尖ったテント形の岩が集まっています。

 

また、キノコ形の奇岩が並んでいる地面と、台地の上面とで、きれいな段差ができているようにも見えますね。

なぜこれら2つの面では侵食が進みにくく、「面」として残っているのでしょうか。

本当に、不思議な地形です。

奇岩群と地下都市の遺跡が世界遺産に

カッパドキア地方は、「ギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群」として、1985年に世界遺産に登録されています。

 

「岩石遺跡群」とは、多くの地下都市や洞窟住居のこと。

なんと250余りもの地下都市がカッパドキアの凝灰岩地帯に存在し、それらが掘り始められた時期は、紀元前4000年にまで遡ると言われています。

 

特に大きな地下都市としては、ネブシェヒル、カイマクル、デリンユク、ギョレメなどの地下都市が知られており、何世紀にも渡って掘り進められた地下通路の深さは、地下60メートルを超えるとのこと(最大で地下113メートル)。

水路や通気口などの他、礼拝堂、ワイン醸造所、学校、住居、食糧貯蔵庫などのインフラが整備されていたということです。

 

柔らかくて削りやすい凝灰岩の性質が、このような地下都市を発達させることになったわけですね。

ここで凝灰岩について少し触れてみたいと思います。

 

凝灰岩というのは、かかとの角質を削る「軽石」を想像してもらうのが一番近いのですが、ガサガサとした手触りの白っぽい岩石です。

穴ぼこが多く、軽い。

だから、スコップなどでガリガリやれば比較的簡単に削れるのです。

 

成分としては、火山灰や噴石が固まったものなので、基本的には溶岩(流紋岩質溶岩や安山岩質溶岩)と同じ成分です。

どこが違うかと言うと、溶岩は地表に流出したマグマがそのまま冷えて固まったもの。

凝灰岩に比べるとガチッとして重い岩石です。

これに対し、凝灰岩は、噴出した溶岩が空中に飛び散って細かい砂つぶや小石のようになった後、地上に降り積もって固まったものです。

 

なお、カッパドキアのような侵食地形は石灰岩地帯のカルスト地形に似ていると思われるかもしれませんが、岩石の種類は全くの別物です。

石灰岩は炭酸カルシウムを主成分とする岩石で、雨水や地下水に溶けやすいと言う性質があります。

ですので、カルスト地形は岩石が溶けてできた地形。

 

一方、凝灰岩地帯であるカッパドキアの地形は、岩石が削られてできた地形です。

同じく侵食作用でできた地形ではありますが、「溶けてできたか、削られてできたか」と言う大きな違いがあるのです。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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