ほぼ完全に崩壊したラーセンB棚氷
砕けた無数の氷が浮かぶ海と、その沿岸に残された板状の氷。
衛星から撮影されたこちらの写真は、南極大陸から南アメリカ大陸(チリやアルゼンチン)に向かって伸びる南極半島の先端部分にあった、ラーセンB棚氷(たなごおり)の崩壊後の様子です。
棚氷というのは、陸上でできた厚い氷河が沿岸部分から海に押し出されたもので、厚さ数十メートル(ときに200メートル以上)を超える巨大な平板状の氷です。
陸地と切り離されて海に流れ出た氷は「氷山」と呼ばれますが、棚氷の場合は、陸地の氷河とつながっているのが特徴。
つながったまま、海上に押し出されて海に浮かんでいます。
ラーセンB棚氷は、日本の滋賀県ほどの大きさの巨大な棚氷でしたが、2002年にほぼ完全に崩壊し、海に浮かぶ小さな氷の塊となりました。
冒頭の写真は2016年に撮影されたもので、崩壊した後の姿になります。
南極半島の東側沿岸に位置するこの辺りの棚氷は、元々はラーセン棚氷と呼ばれ、ラーセンB棚氷を含むもっと広大なエリアを指していました。
ところが、1995年に最も先端に位置する部分が崩壊して大きく形状が変わったため、崩壊した部分をラーセンA棚氷として区別し、その他の部分も、ラーセンB、ラーセンCなどとエリアごとに呼ぶようになったのです。
このうち最大の面積を占めるのはラーセンC棚氷で、面積は崩壊したラーセンBの10倍以上に相当する約5万平方キロメートル。
そのラーセンC棚氷も、2017年に一部が氷山として分離しました。
▼▼▼動画もあります▼▼▼
ラーセンC棚氷の分離は先端部分だけで起こった現象
ラーセンC棚氷から分離した氷山の面積は約5800平方キロメートルで、これは東京23区の9倍以上に相当します。
分離した部分だけで、2002年に崩壊したラーセンB棚氷を上回る面積。
しかし、ラーセンC棚氷の場合は、全体から見れば先端部分だけが氷山として分離したわけであり、氷河の押し出しに伴って棚氷の先端が崩壊するのは、特に珍しいことではありません。
一方、ラーセンB棚氷の場合は、棚氷の全部が一気に崩壊したという点で、他にあまり例を見ないものでした。
なお、棚氷の崩壊の原因として気候変動(地球温暖化)の影響が懸念されていますが、今のところ明確な根拠はなく、気候変動に関連した崩壊ではないとされています。
また、陸上の氷とつながっているとは言え、棚氷は崩壊前からすでに海に浮かんでいた氷ですので、棚氷の崩壊(あるいは分離)によって海水面が上昇するということはありません。
それよりも心配なのは、棚氷は陸上の氷河が海に押し出されるのをせき止める役割を果たしていたので、一気に崩壊することで新たな氷河が海に流れ込み、それによって海水面が上昇してしまうことです。
地球上の氷の90パーセントが南極にある
南極大陸は、6大陸(ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、南極大陸、オーストラリア大陸)の中で、5番目の大きさを持つ大陸です。
オーストラリア大陸の約2倍の面積。
そして、面積の約98パーセントが氷に覆われていて、土や岩が露出している場所はほんのわずかしかありません。
4000万年以上前には南極大陸も温暖な気候だったそうですが、大陸の移動や大気中の二酸化炭素濃度の変化により、徐々に氷ができ始めたと言うことです。
少なくとも1500万年前以降は、ずっと氷に閉ざされた世界。
そのため、南極大陸を覆う氷河(氷床とも言います)は、厚いところでは1000から2000メートルにも達します。
当然ながら南極大陸の氷河は世界最大で、地球上の氷の90パーセント以上が南極大陸にあると見積もられています。
このことは、地球上の淡水の多くが南極大陸にあることを意味し、その割合は推定70パーセントにも上ります。
地球上で一番寒い場所
南極大陸はまた、地球上で一番寒い場所でもあります。
観測された最低気温の記録は、摂氏マイナス97.8度(2004年から2016年までの衛星データによる記録)。
ドライアイスも凍る温度です。
南極大陸がこれほどの寒さを記録するのは、地球の果て(南極)に位置していることだけが理由ではありません。
緯度が高いことに加えて、南極大陸は標高も高いのです。
内陸部の広い範囲が上の写真のような山岳地帯で、標高は3000メートル以上(大陸全体の平均標高は約2300メートル)。
最高峰はエルスワース山脈のヴィンソン・マシフで、標高4892メートルもあります。
摂氏マイナス97.8度という最低気温も、このような山岳地帯で記録されました。
同じ地球の果てでも、北極がそれほど寒くないのは、北極には陸地がないからです。
海水は陸地に比べて温かい(冷えにくい)ので、その海水の温度が北極の氷山にも伝わって、北極は南極ほど寒くなりません。
そして、陸地がないということは、標高はほぼ0メートル(海水面と同じ高さ)。
標高から見ても、南極の方がずっと寒い環境であることがわかりますね。
参考文献
- BBCニュース | 南極の棚氷に亀裂 巨大な氷山が海に?
- Sustainable Japan | 【南極】ラーセンC棚氷、南極大陸から分離。東京23区の9倍の面積、厚さは東京タワーに匹敵
- 国立極地研究所 | 南極・北極ナンバー(2017年4月号)
- 宇宙地球環境研究所 極地50のなぜ | 北極と南極では気温はどちらが低い?
場所の情報
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)