鳥取県、浦富海岸の鴨ヶ磯(かもがいそ)。山陰海岸ジオパーク
鳥取県、浦富海岸の鴨ヶ磯(かもがいそ)(©︎Yuniko / Wikipedia

 

花崗岩とマツの木が織りなす美しい景観

身近な岩石に、花崗岩という白くて硬い岩石があります。

急峻な渓谷や海岸に露出している花崗岩の巨石を見ると、しばしば岩から直接マツの木が生えているのですが、そういう風景を見たことがあるでしょうか。

 

白い花崗岩にマツの木の鮮やかな緑が映えて、とても美しい景観を作っています。

色彩のコントラストだけでなく、マツの木のうねり具合とか、ゴツゴツした岩の質感など、そのフォルムも魅力的ですね。

 

「マツの木が生えた花崗岩なんて見たことない」という人は、日本三景の一つ、宮城県の松島を思い浮かべてください。

海に浮かぶ小島は波に洗われて白い岩肌を見せ、その上に緑のマツの木が並んでいます。

ここの岩石は凝灰岩(火山灰が固まった岩石)なので、花崗岩とは異なるのですが、イメージはこんな感じです。

いわゆる「白砂青松(はくしゃせいしょう)」の日本の風景。

 

花崗岩とマツの木の組み合わせが見られる場所としては、木曽川の上流(長野県上松町(あげまつまち))や山陰海岸ジオパークの浦富海岸(うらどめかいがん)(鳥取県岩美町(いわみちょう))などがあります。

木の根から生える菌糸が養分の吸収をサポート

木曽川上流の寝覚の床(ねざめのとこ)(長野県木曽郡上松町)
木曽川上流の寝覚の床(ねざめのとこ)(長野県木曽郡上松町)(©︎Mamusi Taka / Wikipedia

 

さて、そんな魅力的な日本の風景ですが、よくよく考えてみると、岩から直接マツの木が生えているなんて、とても不思議です。

植物が生えるには、何と言っても土が必要なはず。

それなのに、マツの木は岩の割れ目から生えているので、土らしきものはほとんどありません。

土壌の養分を、いったいどこから吸収しているのでしょうか。

 

その謎を解く鍵は、どうやらマツの根から生える菌類にあると考えられています。

「菌類」とはカビのことで、字は同じでもバクテリア(細菌類)の菌ではありません。

わかりやすく言えば、菌糸を伸ばす生き物たち。

 

マツに限らず、陸上の植物の約90%が根に菌類を持っているのですが、この菌類が細く長い菌糸を伸ばすことで、植物の養分の吸収を助けているのです。

植物の根に住み着いた菌類は、植物の根が伸びる範囲よりも遥かに広い範囲に菌糸を伸ばします。

そして、植物の根が届かないところからリンや窒素などの養分を吸収し、植物に与え、その代わりに菌類は、植物が光合成で得た糖類を受け取ります。

また、菌類は養分だけでなく、水分の吸収も助けています。

 

このような「持ちつ持たれつ」の関係を共生と言いますが、菌類と共生している植物の根を「菌根(きんこん)」と呼び、菌根を作る菌類のことを「菌根菌(きんこんきん)」と呼んでいます。

 

岩から直接生えるマツの木も、根っこに住んでいる菌根菌から養分をもらっていると考えられます。

マツの根は比較的大きな岩の割れ目にしか入り込めませんが、目に見えないほど細い菌糸が小さな割れ目に沿って広がり、岩の隅々から、あるいはちょっとした岩の窪みに溜まった土壌から、養分を吸収してくれているのでしょう。

 

植物と菌根菌の共生が始まった時期は約4億年前と考えられており、陸上の乾燥した環境で植物が繁栄するために、進化のかなり初期から菌類の助けを得ていたようです。

水分が少ない、養分が乏しいなど、植物にとって過酷な環境であるほど、菌類の果たす役割は大きいと言えます。

菌糸は岩を食べている

青森県上北郡、十和田湖の岩場に生えるアカマツ
青森県上北郡、十和田湖の岩場に生えるアカマツ(©︎Joka2000 at Flickr / Wikipedia

 

伸ばした菌糸によって遠くから養分を取ってきてくれる菌根菌。

花崗岩に生えているマツの木もそのおかげで元気に成長できていると思われますが、菌根菌の役割について、さらに面白い研究が進められています。

 

それは、菌根菌が岩石を溶かすことで、もっと直接的に岩石から養分を吸収しているという知見。

「岩を食べる菌(Rock-eating fungi)」という刺激的なタイトルで1997年に論文が発表され(Jongmansほか『Rock-eating fungi』Nature 389号)、その後も詳細な研究が続けられている分野です。

 

これまでの研究報告によると、菌根菌は酸を分泌することで鉱物粒子を溶かし、そこから鉄やリンを吸収している可能性が高いということです。

顕微鏡で鉱物粒子を見ると虫の食ったような細長い穴や溝ができており、それらの中には菌糸が入り込んでいて、まさに「岩を食べる菌」という表現がピッタリの状況。

 

菌根菌の働きについてはまだまだ謎が多いのですが、花崗岩に生えているマツの木も、もしかしたら岩を食べて成長しているのかもしれませんね。

参考文献

鳥取県⽴山陰海岸ジオパーク海と大地の自然館『ニュースレター2020.8』Geofield 32(2020).

東北大学総合学術博物館『キンコンキンってなんだ?

SMART AGRI『「アーバスキュラー菌根菌」とは何者か?〜理化学研究所 市橋泰範氏 中編

JAXA『植物に対する土壌の役割 2(菌根菌:きんこんきん)

ZME Science『Fungi eat yummy minerals from rocks using acid and mechanical force

A. G. Jongmans, N. van Breemen, U. Lundström, P. A. W. van Hees, R. D. Finlay, M. Srinivasan, T. Unestam, R. Giesler, P.-A. Melkerud & M. Olsson『Rock-eating fungi』Nature 389, 682–683 (1997).

Rosenstock, N., Smits, M., Berner, C., Kram, P., Wallander, H.『Rock-eating fungi: Ectomycorrhizal fungi are picky eaters』EGU General Assembly 2014, held 27 April – 2 May, 2014 in Vienna, Austria.

L. van Schöll, T. W. Kuyper, M. Smits, R. Landeweert, E. Hoffland, N. van Breemen『Rock-eating mycorrhizas: Their role in plant nutrition and biogeochemical cycles』Plant and Soil 303, 35-47 (2008).

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

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菌と共生して岩を食べる植物たち(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)