地学博士のサイエンス教室 グラニット

地球科学コミュニケーター・渡邉克晃のブログです。

垂直の断崖に囲まれた氷河地形。ノルウェー南西部のリーセフィヨルド

リーセフィヨルドのプレーケストーレン(ノルウェー)
©️Falk Lademann / flickr

 

▼▼▼動画もあります▼▼▼

フィヨルドにそびえる垂直の断崖

ノルウェー南西部に位置するリーセフィヨルドは、西側の海から東側の山間部へと、ほぼ東西に伸びる細長い入り江。

1万年以上前の氷河の侵食作用によって作られました。

 

写真手前に頂上が平らになった垂直の断崖が見えると思いますが、この岩壁は特に「プレーケストーレン」と呼ばれ、ノルウェー語で「教会の説教壇」を意味します。

頂上の面積は約25メートル四方で、水面からの高さはおよそ600メートル。

たくさんの人がその上に立っていますが、もちろん柵などはありません。

 

それにしても、上面も側面も平らで、美しい形をしていますね。

上面は真上から見ると、ほぼ正方形になっています。

 

リーセフィヨルドの両岸にそびえる断崖は、岩石で言うと花崗岩でできています。

花崗岩というのはマグマが地下深くで固まった白っぽい岩石で、石英・長石・黒雲母などの比較的大きな結晶(数ミリメートルから1センチメートル)が寄り集まった岩石。

実はプレーケストーレンの平面的な美しい断面は、花崗岩の性質と深く関係しているのです。

 

どういうことかと言いますと、全ての石には割れやすい方向(「石目(いしめ)」と言います)があって、花崗岩の場合、3方向ある石目がそれぞれ直角に交わっているので、全体的に見るとサイコロ型の割れ目になりやすい性質があるのです。

リーセフィヨルドの断崖を形成している花崗岩にもこのような3方向の割れ目が形成されていて、氷河がこの崖の辺りに到達したときに、大きな四角いブロックがプレーケストーレンの周りから落下したと考えられます。

その結果、説教壇のような四角い崖が取り残されたというわけですね。

 

また、プレーケストーレン自体も将来的には落下する可能性があり、実際に正方形の頂上の付け根辺りには、大きな割れ目ができています。

もし落下したら、大きな津波が周辺地域に被害を及ぼすと予想されていますが、定期的な割れ目の観測からはそのような兆候は見られないとのことです。

U字谷が水没してできた独特の地形

フィヨルドというのは、氷河によって削り取られた「U字谷(ゆーじこく)」と呼ばれる細長い谷に、海水が浸入することで形成された地形です。

谷の断面がアルファベットの「U」の字のようになっていて、平らな底部と両サイドにそびえる断崖絶壁からなるのが特徴です。

また、谷の幅も入り口(海側)から最奥部まであまり変化がありません。

 

リーセフィヨルドは、3億5000万年以上前の花崗岩が氷河によって削られてできました。

ノルウェー語で「光のフィヨルド」を意味するそうですが、花崗岩の谷は白っぽいため、朝日に照らされて白く輝く姿をそのように呼んだのかもしれませんね。

 

さて、およそ7万年前から1万年前までの期間は、私たちが生きる現代から見て最後の氷期にあたり、この頃は世界的に氷河が発達していました。

ノルウェーのあるスカンジナビア半島は、厚さ2000メートルを超える氷に覆われていたと考えられています。

 

その間、山々を覆う分厚い氷は自らの重みで徐々に流れ下りながら、氷河となって花崗岩の山々にU字谷を形成して行ったわけです。

氷河が移動する時には、削り取った岩石のかけらや土砂を下流へと押し運ぶため、それら積み重なった岩石や土砂の山が先端部に残り、海水が谷へ進入するのを妨げる堤防のようになります。

 

しかし、氷期が終わると世界的に氷河が溶けて海水面が上がるため、その堤防を乗り越えてU字谷に海水が浸入してくる。

こうしてU字谷は水没し、長さ42キロメートルに渡るリーセフィヨルドが生まれました。

 

リーセフィヨルドの実際の水深を見てみると、海へ至る谷の出口では水深13メートルほどしかないのに、谷を少し中に入ったプレーケストーレンの辺りでは、水深400メートル以上になっています。

高さ1000メートルの絶壁に挟まった石

イェラグ(リーセフィヨルド南岸・ノルウェー)
リーセフィヨルド最奥部の絶壁(©︎Werner Bayer / flickr

 

リーセフィヨルドの両岸にそびえる垂直の崖は、高いところでは1000メートルを超えます。

そんな断崖絶壁の様子がよくわかるのが、こちらの写真。

 

ここは遥か下の方にリーセフィヨルドの水面を望む、イェラグ山の頂上付近。

巨大な岩山がつくる絶壁の隙間に、一つの丸い石が挟まっています。

しかもその上に人が乗っていますね……。

 

「シェラーグボルテン」と呼ばれる氷河が運んで来たこの丸い石は、5立方メートルほどの大きさ。

石の上に立った時の水面からの高さは、なんと984メートルです。

リーセフィヨルドの最奥部(つまり東端)に近い場所の南岸にあり、この辺りはもっとも崖が高い絶壁エリアになっています。

 

上の写真でもう一つ注目したいのが、イェラグ山の丸みを帯びた岩石。

花崗岩は硬い岩石ですが、雨風による風化作用を受けることで、徐々に角が取れて丸みを帯びた形になっていきます。

つまり、氷河の侵食作用に加えて、この辺りの花崗岩は雨風によっても削られているわけですね。

 

当然、今現在も風化作用は進行しており、岩石の表面は徐々に削られて行っています。

ということは、シェラーグボルテンも、いつまで安定してそこにあり続けるかは誰にもわからない……。

観光に行く際には、くれぐれも危険のないように注意していただきたいと思います。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)

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