乳酸菌ががん細胞のアポトーシスを引き起こす、と言う研究報告があります。
報告者はチャールズ・R・ドリュー医科理科大学(米国ロサンゼルス)のゴーナム博士とフェロ博士。
2015年に学術誌『Oncology Reports』に掲載された内容によると、人の胃がん細胞に対して、ケフィアヨーグルトの乳酸菌がアポトーシス(※)を引き起こすことが確認されたそうです(Ghoneum & Felo, 2015)。
※「アポトーシス」・・・細胞の自然死のこと。プログラムされた細胞死とも言われる。個体をより良い状態に保つため、細胞が自ら死滅する現象。
今回博士らが用いた乳酸菌は、「ケフィアヨーグルト」と言うロシアの伝統的な乳飲料に使われている乳酸菌です。
ロシアのコーカサス地方原産で、日本では手作りヨーグルトの材料(菌種)として、「ケフィア・グレイン」あるいは「ヨーグルトきのこ」などと呼ばれています。
抗がん剤もがん細胞にアポトーシスを起こさせる薬物療法(化学療法)なのですが、副作用が大きいのが難点。
同様の効果が乳酸菌で得られるとしたら、これはすごいことです。
乳酸菌には副作用がないので、抗がん剤よりもはるかに安全に使用できるからです。
博士らの実験の結果を見てみると、乳酸菌(ケフィア・グレイン)と一緒に培養したがん細胞が100%死滅した訳ではないのですが、最大で66.3%の胃がん細胞がアポトーシスを起こして死滅したそうです。
実験で使ったのは、もちろんヒトの胃がん細胞です。
これは十分に顕著な成果だと言えるでしょう。
なお、一緒に実験を行った白血病のがん細胞については、アポトーシスの誘導が見られなかったそうです。
昨今、がんで亡くなる人はますます多くなっています。
私の父もすい臓がんで亡くなりましたし、大学時代の恩師も、やはりすい臓がんで亡くなりました。
今回のようながん治療に関する新しい発見は、本当に素晴らしい研究成果だと思います。
乳酸菌によるがん治療が確立されていけば、抗がん剤に頼らない食事療法がますます推奨されるようになるでしょうし、がんで苦しむ方やそのご家族の大きな助けになることでしょう。
また、広く予防医学の観点からも重要だと思います。
著者らは論文のまとめで、「がん化した白血球(白血病)への効果は認められなかったが、(ケフィアヨーグルトが)胃がんの治療薬にはなる可能性は高い」と述べています。
がん治療における今後のケフィアヨーグルトの活躍に期待します。
引用文献
Mamdooh Ghoneum & Nouran Felo (2015) Selective induction of apoptosis in human gastric cancer cells by Lactobacillus kefiri (PFT), a novel kefir product. Oncology Reports 34(4), 1659–1666.