大理石は石材業界で使われる石の名前
私たちが耳にする身近な石の名前に、大理石があります。
上品で高級感があり、老舗デパートの床や壁によく使われている石材ですね。
デパート以外でも、オフィスビル、駅の構内、美術館、ホテルや大学、国会議事堂など実にさまざまな場所で使われているので、イメージが浮かびやすいのではないでしょうか。
ではここで一つ、あなたが知っている大理石を思い浮かべてみてください。
漠然とで構いません。
それはどんな色で、どんな模様をしていますか。
おそらく、いくつかの色や模様が思い浮かんで、なかなか一つには決められなかったのではないでしょうか。
白っぽいもの、ベージュ色のもの、深い緑色のもの、水が流れるような模様や不規則な線が入ったものなど、「大理石」と一口に言ってもそのバリエーションは多岐に渡ります。
一体、大理石とはどんな石のことを指すのでしょうか。
こうなってくると、大理石の岩石学的な定義が知りたくなりますね。
例えば花崗岩なら、二酸化ケイ素を多く含むマグマが地下深くで冷えて固まったもの。
砂岩なら、砂が堆積して地下の圧力や化学成分によって固まったもの。
こんなふうに、大理石にも何らかのわかりやすい定義があるはずです。
しかし、残念ながら大理石には、岩石学的なはっきりとした定義がありません。
大理石は岩石名ではなく、石材名だからです。
石材業界において、おもに内装の装飾用に使われる石材を、大理石と呼んでいるのです。
「岩石名」と「石材名」の違い、ちょっとわかりにくいかもしれませんね。
簡単にいうと、岩石名の方は、岩石を「でき方」や成分(化学組成)によって分類した呼び名。
学術研究の分野で使われる名前です。
これに対して石材名は、石材メーカーや消費者が「用途」によって分類した呼び名であり、建築や美術の分野で使われています。
そのため、岩石学的な分類によらず、内装の装飾用建材、あるいは彫刻用の材料に適した石のことを、広く大理石と呼んでいるのです。
大理石と呼ばれる石材の正体
「大理石は岩石名ではなく石材名」ということで、大理石というのは用途によって分類された呼び名であることを見てきました。
それでは、岩石学的な分類において、大理石と呼ばれる石にはどんな岩石が含まれるのでしょうか。
最も代表的なものが、結晶質石灰岩と呼ばれる岩石です。
結晶質石灰岩とは、石灰岩という炭酸カルシウムでできた岩石が、マグマ由来の熱い地下水の作用で変化したもの。
炭酸カルシウムは熱い地下水に溶けやすく、溶けてから再び結晶になることで、つぶの粗い結晶の集合体になるのです。
結晶の大きさは1mm〜5mm程度で、砂つぶくらい。
これら砂つぶサイズの結晶は方解石という鉱物で、無色透明あるいは白色です。
そのため結晶質石灰岩も透明感のある白色で、割れ目に光が当たるとキラキラと輝きます。
想像しただけでも美しいですね。
しばしば純白に近い結晶質石灰岩ができあがるのですが、これは元の石灰岩に含まれていた不純物が熱い地下水に洗い流されるためです。
全体的に白色で、淡いグレーの模様が入っている大理石が結晶質石灰岩。
有名どころでは、古代ギリシャの彫刻『ミロのヴィーナス』の大理石も、結晶質石灰岩です。
結晶質石灰岩のほかにも、大理石と呼ばれる石には石灰岩、トラバーチン、蛇紋岩、オニキス(縞メノウ)などが含まれます。
全体に淡いベージュ色で、茶色ないしオレンジ色のギザギザの線が入った大理石が石灰岩です。
結晶質石灰岩と違い、石灰岩はマグマ由来の熱い地下水の影響を受けておらず、結晶の溶解と再結晶化を経験していません。
そのため、石灰岩ができるときに一緒に堆積した海の生物の化石(アンモナイトや貝)がしばしば保存されています。
また、トラバーチンというのは穴ぼこの多い層状の石灰岩のことです。
典型的な石灰岩は、サンゴの骨格や有孔虫と呼ばれる動物プランクトンの殻が集積することでできますが、トラバーチンは、温泉水に含まれる炭酸カルシウムが無機的に沈澱することで作られます。
淡いベージュ色や赤茶色で、あちこちに小さな穴があり、地層のように平行の縞模様が見られる大理石がトラバーチンです。
蛇紋岩は、マントル上部のカンラン岩が水の作用で変化してできた岩石で、花崗岩と同じマグマ起源の岩石です。
花崗岩よりも二酸化ケイ素の割合がずっと少なく、マグネシウムを多く含むのが特徴。
全体的に深い緑色で、不規則な白い線がたくさん入っているのが、蛇紋岩の大理石です。
オニキスは縞メノウとも呼ばれ、ほぼ100%二酸化ケイ素でできた鉱物です。
つまり、宝石の水晶と同じ成分。
二酸化ケイ素の微細な結晶が集まった構造をしていて、半透明で光を透過します。
透明感のある淡い緑色で、所々にオレンジ色や白色の模様が入っている大理石が、オニキスです。
大理石と呼ばれる石材には、このように何種類かの岩石が含まれているのです。
大理石に含まれない内装用の石材
このように、内装の装飾用に使われる石材をまとめて「大理石」と呼んでいるわけですが、内装に使われていても大理石と呼ばれないものがあります。
それは「御影石(みかげいし)」と呼ばれるもう一つの代表的な石材で、こちらは外装にも内装にも適しているため、用途の違う石として区別されているのです。
御影石というのは、岩石学的な分類ではおもに花崗岩のことで、その他にも閃緑岩、ハンレイ岩などが含まれます。
兵庫県の御影地方で採れる花崗岩の石材を「御影石」と呼んだのが始まりで、大理石と同じく石材名。
花崗岩、閃緑岩、ハンレイ岩ともに、地下深くのマグマがゆっくりと冷えてできた岩石で、砂つぶサイズ〜砂利サイズの結晶がびっしりと詰まった構造をしています。
違いは二酸化ケイ素の割合で、花崗岩は二酸化ケイ素が多く、ハンレイ岩は少なく、閃緑岩は両者の中間あたり。
花崗岩の見た目は全体的に白っぽく、ごま塩のような黒い点々があるのが特徴です。
建物の外壁や内壁、床、お墓の石などに幅広く使われていて、最もなじみのある岩石ではないでしょうか。
基本は白色ですが、ベージュ色、ピンク色、鮮やかな赤色など、色彩にいくつかのバリエーションがあります。
また、閃緑岩やハンレイ岩は全体的に黒っぽい岩石で、言わば花崗岩の黒色バージョン。
しばしば「黒御影(くろみかげ)」と呼ばれています。
大理石と御影石。
この2つが岩石名ではなく石材名であることを押さえておけば、身の回りの石材をスッキリ理解できるようになるでしょう。
参考文献
西本昌司『地質のプロが教える 街の中で見つかる「すごい石」』(日本実業出版社,2017)
セキストーン『大理石と御影石の違いってなに?』(2020年3月30日)
セキストーン『トラバーチンってどんな模様?天然石の板で模様を見てみよう』(2020年9月2日)
セキストーン『Stone Search System』
BOSストーン株式会社『石のあれこれ』
倉敷市立自然史博物館『結晶質石灰岩』『蛇紋岩』『かんらん岩』
建築石材ライブラリ『天然大理石』
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。