八重山列島、鳩間島の星の砂
八重山列島、鳩間島の星の砂(©︎Alain COUETTE / Wikipedia

 

星の砂の正体はアメーバの殻

沖縄みやげの「星の砂」は、5〜6本の突起が生えた直径2mmほどの砂つぶです。

色は白っぽいベージュから淡いオレンジで、その形の美しさから観光客にとても人気があります。

星の砂が採れる砂浜は、八重山諸島の竹富島(たけとみじま)や西表島(いりおもてじま)が有名ですが、程度の差こそあれ、沖縄県のどの島でも見つけることができます。

 

そんな美しい形の星の砂。

実は「砂」と言っても岩石が細かく砕かれた砂つぶではなく、有孔虫と呼ばれる微生物の殻でできています。

殻の成分は炭酸カルシウムであり、サンゴの骨格や貝殻、あるいは石灰岩と同じ成分です。

 

この有孔虫、どんな微生物かと言いますと、いわゆるアメーバです。

決まった形を持たず、体の一部を伸ばしたり縮めたりしながら移動していく、あの生き物ですね。

生物分類上は「原生動物」というグループに入り、単細胞の真核生物になります。

 

「星の砂」の砂浜は長い年月をかけて作られたものですが、かといって太古の微生物の化石が集積しているというわけではなく、これらのアメーバは現在の沖縄の海にしっかりと生息しています。

つまり、現在進行形で星の砂は作られているということです。

星の砂を作る2種類のアメーバ

私たちがイメージする典型的なアメーバには殻がありませんが、アメーバの仲間はバラエティに富んでおり、その中には二酸化ケイ素や炭酸カルシウムでできた殻を持っているものもいます。

星の砂を作るのはそんな「殻持ちアメーバ」のうちの2種類で、上述の通り、いずれも殻の成分は炭酸カルシウムです。

 

まず1種類目は、その名も「ホシズナ」と呼ばれるアメーバ。

突起の先端が細く尖っている殻を持ち、まさに星形です。

どちらかというと平べったく、ヒトデをすごく小さくしたような形をしています。

「ホシズナ」という名前は和名で、ラテン語の学名は「バキュロジプシナ」と言います。

沖縄県西表島のバキュロジプシナ Baculogypsina sphaerulata
沖縄県西表島産バキュロジプシナ Baculogypsina sphaerulata の走査電子顕微鏡写真(©︎NEON / Wikipedia

 

もう1種類は、「タイヨウノスナ」と呼ばれるアメーバ。

漢字を当てれば「太陽の砂」で、突起の先端が丸くなっているのが特徴です。

「ホシズナ」の殻に比べると、真ん中の部分がプクッと膨らんでいて、突起が6本のものは森永製菓のスナック菓子「おっとっと」のカメに見えます。

 

あと、しばしば突起の数が「ホシズナ」よりも多く、7〜8本あることも珍しくありません。

「タイヨウノスナ」も和名で、ラテン語の学名は「カルカリナ」です。

沖縄県西表島産カルカリナ Calcarina sp. の走査電子顕微鏡写真。突起の数は8本(©︎NEON / Wikipedia

 

「ホシズナ」も「タイヨウノスナ」も、沖縄など西太平洋のサンゴ礁からなる浅い海に住んでいて、海の底の海藻や瓦礫にくっついて生活しています。

海の底と言っても水深は5mより浅く、波当たりが強かったり、潮が引けば海面から外に出てしまったりと、アメーバたちにとってはかなり過酷な環境。

彼らは星形の殻の突起部分から体の一部を外に出し、それを使って海藻などにしっかりとつかまり、変化の激しい海の中で体を支えているのです。

 

これらのアメーバが死ぬとその殻は海の底に集積しますが、やがて波によって海岸に打ち上げられます。

こうして大量に打ち上げられたアメーバの殻が、サンゴのかけらなどと一緒に沖縄の砂浜を形成していったのです。

 

また、沖縄の島々には「琉球石灰岩」と呼ばれる石灰岩が広く分布していますが、これらはかつてのサンゴ礁が石灰岩になって海面に姿を表したもの。

首里城の石垣など、沖縄の建築材料としてよく見られる白っぽい色の石灰岩です。

 

アメーバが死ぬことで海の底に沈んでいった炭酸カルシウムの「星の砂」は、サンゴ礁の小さな隙間を埋める働きもします。

言わば、サンゴ礁の穴埋め役ですね。

ですので、サンゴ礁に起源を持つ琉球石灰岩にとっては、「星の砂」は石灰岩を緻密にしてくれる大切な助っ人と言えるのです。

 

沖縄の砂浜だけではなく、石灰岩の形成にも、アメーバの殻は関わっていたのですね。

 

なお、「ホシズナ」や「タイヨウノスナ」の地理的な分布は西太平洋の温かい海に限られ、中央太平洋の島々やハワイ諸島、あるいは小笠原諸島では見ることができません。

ドーバー海峡のチョークの崖も起源は同じ

ドーバー海峡のチョークの崖
ドーバー海峡のチョークの崖(Photo: Pixabay

 

星の砂が琉球石灰岩の形成にも関わっていたということで、もう一つ、石灰岩にまつわる話です。

 

英国グレートブリテン島の南東側、対岸にフランスを望むドーバー海峡には、チョークでできた真っ白い崖があります。

チョークというのは、学校の黒板で使われていたあの「チョーク」のことで、壁に字が書けるほど柔らかい石灰岩。

 

ドーバー海峡に面したチョークの崖は「ドーバーの白い崖(ホワイト・クリフ)」と呼ばれ、その他にも、グレートブリテン島の南海岸に「セブン・シスターズ」という有名なチョークの崖があります。

いずれも海の波に削られてできた「海食崖(かいしょくがい)」で、高いところでは100mを超える断崖絶壁になっています。

 

崖の高さが100m以上ということで、かなり巨大な地層であることがわかりますね。

その分布も、イギリスからフランス(北西ヨーロッパ)にかけての広大な範囲に及びます。

 

この石灰岩の形成にも、実は「ホシズナ」や「タイヨウノスナ」の仲間であるアメーバが深く関わっています。

チョークの石灰岩を作っているのは、おもに有孔虫の殻と、円石藻(えんせきそう)の殻。

 

有孔虫というのは、炭酸カルシウムの殻を持つアメーバでしたね。

単細胞の真核生物で、「原生動物」に分類される生き物。

 

もう一つの円石藻というのは、炭酸カルシウムの殻を持つ植物プランクトンです。

アメーバと同じく単細胞の真核生物ですが、こちらは光合成をする「植物」であり、原生動物とは全く別のグループの生き物。

有孔虫よりもさらに小さい微生物です。

 

チョークの大部分はこういった微生物の殻でできていて、その他にアンモナイトの殻や貝殻が混じったり、二酸化ケイ素でできたチャートという岩石が混じったりしています。

 

ただし、チョークの有孔虫と星の砂の有孔虫は、同じ有孔虫とは言え、少し種類が異なります。

星の砂の有孔虫は海の底にくっついて生活するタイプでしたが、チョークの有孔虫は、海の中を浮遊して生活するタイプのもの。

つまり、プランクトン(浮遊生物)です。

円石藻が植物プランクトンなのに対し、浮遊する有孔虫は動物プランクトンになります。

 

そしてもう一つ、大きな違いとして、チョークの有孔虫は「化石」です。

チョークは今から1億年ほど前の海でできた古い地層であり、星の砂のように現在進行形で作られているものではありません。

 

チョークの日本語訳は「白亜」。

チョークの地層に代表される時代が中生代白亜紀であって、その形成に関わったのは大昔のアメーバたちだったわけです。

 

琉球石灰岩の形成に関わった星の砂のアメーバたちと、チョークの形成に関わった白亜紀のアメーバたち。

石灰岩というキーワードに着目することで、アメーバのような小さな生き物が、意外にも地球の地形に大きな影響を与えていることがわかってきます。

参考文献

コトバンク『星の砂

コトバンク『ホシズナ(星砂)

コトバンク『星砂

ミヤマ株式会社『星の砂 太陽の砂

藤田和彦『星砂の生物学』みどりいしいし12,26-29(2001).

国立科学博物館『微化石とは?